休眠預金活用事業「資金分配団体」の新たな形。専門団体×READYFORコンソーシアム とは
2018年に施行された「休眠預金等活用法」によって、金融機関に預けられたまま10年以上取引のない預金は、社会課題の解決のために活用されるようになりました。
READYFORは、休眠預金活用事業の実行団体に助成を行う資金分配団体として、2020年度より計3度採択されています。この経験をもとに、2022年4月12日、休眠預金活用事業の資金分配団体としての活動に興味をお持ちの方々を対象に、ウェビナーを実施。
休眠預金活用事業の仕組みから、READYFORの専門性、専門団体と共に基金を立ち上げる「READYFORコンソーシアム」の特徴・メリットについてお話しました。
また、これまでコンソーシアム(共同事業体)を組み、基金事業をご一緒した認定NPO法人キッズドアの渡辺 由美子さま、認定NPO法人育て上げネットの工藤 啓さまにご登壇いただき、それぞれの立場から資金分配団体として活動する意義を語っていただきました。
休眠預金活用事業とは?予算枠を使いきれない課題
READYFOR 市川(以下、市川): 休眠預金とは、金融機関に預けられた10年以上取引のない口座に入っているお金を指します。2018年1月より「休眠預金等活用法(正式名称「民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律」)」が施行され、これらの休眠預金を、民間の公的活動や社会貢献活動に使う制度ができました。
現在、休眠預金活用事業に使われる休眠預金は年間80億円ほど。予算枠には、原則3年間の支援を想定した「通常枠」と、コロナ対策の活動に特化した「新型コロナ対応支援枠(緊急枠)」の2種類あり、それぞれ40億円の予算が配分されています。しかし、2021年度の緊急枠の予算に対して配分されたのは24.3億と、半分強にとどまりました。
背景にあるのが、事業の企画や審査運営業務を行う「資金分配団体」の不足です。休眠預金活用事業は年間で、300億円のポテンシャルがあると見込まれています。80億円の枠が満たないままでは、大きな可能性を持った休眠活用事業自体が大きくなるのは難しいのではという危惧も指摘されています。そこで、READYFORでできることはないかと考えました。
専門団体×READYFORコンソーシアムの仕組み
市川: なぜ、資金分配団体が不足しているのか。その原因の一つとして考えられるのは、資金分配団体への参入障壁の高さです。資金分配団体が担う業務は、大きくわけて「審査・運営業務」と「伴走業務」の2つがあります。
もともと資金分配団体として想定されている財団やNPO法人には、それぞれの活動分野でのノウハウがあります。たとえば、子どもの貧困支援を行う団体でしたら、活動の効果検証の方法や人材育成のノウハウを持っています。ただ、伴走業務に求められる専門性を持ちながら、実行団体の公募や審査、口座管理や監査対応など、事務作業のノウハウやマンパワーを備えている団体は残念ながら多くありません。
この、異なる二つの専門性が求められるというのが、資金分配団体に参入する場合のハードルになっているのではないか。そこでREADYFORが取り組んでいるのが、専門性の分業化「専門団体×READYFORコンソーシアム」です。審査・運営業務をREADYFORが担い、実行団体への伴走業務については、その分野で活動する団体にも活躍いただくという枠組みです。
READYFORは、2020年7月に資金分配団体として「新型コロナウイルス対応緊急支援」という2.5億円の資金支援を実施しました。
そして2021年10月からは、キッズドアと共に「深刻化する『コロナ学習格差』緊急支援事業」を、2022年3月に入ってからは、育て上げネットと共に「長期化する若者の『コロナ失職』包括支援事業」をコンソーシアムとして立ち上げました。
このように複数の団体で協業し資金分配団体をつとめ、Win-Winな関係を構築することを目指しています。JANPIAの2022年度の事業計画のポイントでも、公募に応じやすい環境整備や申請団体に対する助言を進める意味で、コンソーシアム申請を奨励しています。
READYFORが持つ運営業務の専門性
市川: 審査・運営業務を担うREADYFORでは、これまでに培ったノウハウを活かし、共に活動する団体の事務負担を軽減するべく、作業の自動化やDX化といった取り組みを行っています。
たとえば、JANPIAの指定様式をGoogleスプレッドシート化することで同時編集を可能にし、記入が不要なセルを予め変更不能とし誤記入を防いだり、チュートリアル動画を作成して記入へのハードルを下げたりするなど、ミスを予防する工夫を行っています。
また、JANPIAの公募審査システムへの情報の入力等についても独自の工夫があります。実行団体を募り、事業計画を審査するシステムへの入力は、対応する資金分配団体だけでなく、必要な書類をそろえる実行団体にとっても、対応負荷がかかります。
休眠預金活用事業に応募するにあたって、最初の申請段階で全ての必要書類を提出しなければならない場合、立ち上がったばかりの、事務局機能が小さな団体では、どうしてもここで二の足を踏んでしまいます。
そこでREADYFORでは、申請時のペーパーレス化など、実行団体目線の工夫で公募のハードルを軽減。さらには面談のオンライン化や自動予約システムの構築など、実行団体に負担の小さい方式を検討し、採用しています。
それにより、READYFORが実施した公募では、申請団体が200前後と、他の資金分配団体の公募と比べ、一桁違う多くの団体からご応募いただきました。
資金分配団体としての取り組みが、ビジョンの達成に
ウェビナーの中盤では、トークテーマの時間を設け、READYFORと組んで資金分配団体に取り組む中での率直な感想を、ゲストのキッズドアの渡辺さま、育て上げネットの工藤さまお二方にお伺いすると共に、視聴者の方からいただいたご質問に回答しました。
──READYFORとのコンソーシアムで、やって良かったこと、改善したほうがいいと思うことを率直に聞かせてほしい。
キッズドア 渡辺(以下、渡辺): キッズドアでは、公募で採択した実行団体の伴走支援を行っています。実行団体が、申請した事業でより良い成果が出るよう、「事業戦略の構築」と「支援人材の育成」という2軸で伴走支援するのが私たちの役割です。
それぞれの伴走支援に参加された実行団体さんからは、「勉強になった」と、喜びの声をいただいております。伴走支援をはじめてまだ3ヶ月ほどですが、困難な環境にいる子どもたちのためにさまざまなアプローチで関わる団体のみなさまの想いや取り組みに触れ、キッズドアとしても大きな学びとなっています。
コロナ禍では、子ども支援に携わる団体の多くが、難しい状況に直面しています。伴走支援の形で資金分配団体の一翼を担い、全国の団体さんを支援できるというのは、とても良いことだと思っております。
育て上げネット 工藤(以下、工藤): 私たちは、若者への就労支援をテーマにREADYFORさんと資金分配団体をご一緒させていただいています。
現時点では、READYFORと議論しながら、申請採択を行っている段階ですので、伴走支援はこれからということになります。まだ始まったばかりですが、これまで存じ上げなかった団体や企業の活動を知ったり、私たちが取り組んでいる「若者の就労支援」とは、まったく違う領域で困っている若い世代の存在を知ったりと、非常に有益な機会であると実感しています。
悩ましいのは、多くの方々に応募していただきたい想いがある一方で、すべての事業を採択できない点です。ただ、申請の様式などテンプレートは似ていますので、もし採択されなくても、次回申請時には今回の学びを活かすことができると、いう声もいただいております。
これまで市川さんがお話されたように、そもそもの資金を出す団体が足りないという現状があります。私や渡辺さんも「実行団体」としての側面も強くありますので、今回のウェビナーに参加されている方々が、READYFORコンソーシアムのように事業をたくさんつくり、助成申請ができるような機会が増えればいいと思っています。
──自らが実行団体として資金を活用して活動したい、という想いもあると思います。その点で、分配団体になるメリット・デメリットはどのようにお考えですか?
工藤: 自分たちが実行団体としてやりたい、とは常に思っています。とくに、若者関係で資金が得られる枠組みは限定されていますので、分配団体になることでその機会を失うのはマイナスです。
しかし、プラスの点もあります。長期的には、休眠預金活用事業だけでなく、さまざまな公的な事業でコンソーシアム方式が一つのあり方として採用される可能性があります。そうしたとき、信頼関係やつながりが重要になります。その点で、地方を含めたさまざまな実行団体の方々と1年間ご一緒できるのは、私たちにとって大きな財産になると思っています。
渡辺: やると決めた当初、実は現場からは「ええっ」と困惑した反応もありました。ただ、コロナ禍で余裕がない状況でも「これは絶対にやったほうがいい」と思ったのです。
休眠預金は、非常にインパクトのある資金源です。いま、休眠預金が有効に活用されなければ、今後政府が縮小してしまう可能性があります。この公的資金をしっかりと使って、社会を良くしていける姿を、私たちNPOや市民団体は見せていかなければいけません。
緊急枠の予算消化率がとても低いという現状も、次の機会が失くなってしまうことにつながりかねません。コロナ禍では、子どもたちの多くの体験学習が失われています。行政の支援では、学習機会の提供はできても、体験学習の機会をつくるのは難しい。子どもたちが成長していくうえで重要な体験学習をカバーできる支援をつくる意味でも、やはりやったほうがいいよね、という気持ちが一番大きかったです。
もちろん、実行団体としてやりたいという思いは、私たちにもあります。でも、NPOは株式会社とは違い、会社の株価を上げなければということなどはありません。資金分配団体として関わり、他の団体の活動を通じて、幸せな子どもたち、幸せな人々が増えることは、私たちの掲げるビジョンとも合致しています。
──管理費15%とPO費の助成で、必要な人件費やリソースを賄えているのでしょうか。
工藤: まだこれからという段階ではありますが、資金分配団体としてお金がたくさんほしいというよりは、「足りない」となったときに、JANPIAに対してコンソーシアム方式の管理費が適正であるのか、問題掲示することが我々の役目だと思っています。
渡辺: 必要なリソースをまかなえているのかでいうと、まかなえていません。ただ、なぜやるかといえば、私たちの学びがすごく大きいこと。それから、資金分配団体に専門性がある団体が手を挙げることで、実行団体の活動に成果が増え、結果として休眠預金活用事業自体のインパクトがあがると思えるからです。
専門性のあるPOがつき、非常に高い成果が出るということを証明できれば、予算枠も変わると思います。それを期待して参加している部分もあります。いまの活動が継続的になれば、現時点で手探りでやっている部分もスキームが確立され、工数が下がるだろうと思っています。
市川: こうした声に対する改善については、JANPIA側もかなり柔軟に考えてくださっています。たとえば2022年度からはコロナ緊急枠でもPO費を人件費に使ってもいいという形に変更になりました。運営費用などについては、変えていける部分もあると思うので、相談しながら、進めていければと思います。
──通常枠では、READYFORと組む専門性を持つ団体が戦略策定の主体となり、伴走支援にとどまらない立ち位置になるかと思います。その点についてどうお考えでしょうか?
市川: はい、そこは重要だと考えています。弊社として、既に緊急枠においても、単に運営支援だけではなく、どのような団体を支援するのか、どのようなインパクトを目指していくのかという戦略の部分も、一緒に組む専門団体さんと話し合いながらやっています。
渡辺: それぞれが取り組まれている課題を解決するために、休眠預金活用事業を「こんな風に使いたい」と、READYFORさんに一緒にやりませんかと口説きにいくぐらいの姿勢でいいのではと思います。
資金分配団体の事務に求められる量と正確性は、本当に大変です。専任スタッフを2名に匹敵するほどの業務ですが、READYFORは「全部やります」と引き受けてくださいます。まさしく、それぞれの効果を最大化するコレクティブインパクトといえるでしょう。
今後、民間活動がどんどん盛んになれば、日本中に幸せな成果が広がります。その実現のため、自分たちの団体だけが汗を流すのではなく、新たな仕組みを積極的に活用することで、それぞれの団体のビジョンの達成につながっていくはずです。
これから、READYFORとのコンソーシアム方式をお考えの団体さまへ
READYFOR 徳永: 今後のREADYFORコンソーシアムでは、休眠預金活用事業に取り組む、専門的な団体と一緒に取り組ませていただきたいと思っています。
イメージしているのは、社会課題の解決に造詣が深い団体のほか、社会課題を解決する団体の育成自体に関心が高い団体、それから中間支援の団体や事業計画の策定を行うコンサルティングファームなどです。
READYFORがこれまでのクラウドファンディング事業で培った、専門家とのネットワークや運営業務のDX化により、効率的で透明性の高い基金運営をサポートできる土壌があります。
もし、READYFORコンソーシアムについて、興味がある、もっと話を聞きたい、検討してみたいなどという方がいらっしゃいましたら、ぜひお声がけいただければ幸いです。
市川: 休眠預金活用事業は、国民の財産を社会貢献活動に活用する、大きな可能性を秘めた制度です。十分な活用が、日本のソーシャルセクター全体の推進力になると信じています。少しでも活用を広めるために、READYFORの専門性とそれぞれの活動領域で真摯に取り組む団体と連携し、ひとりでも多くの方の幸せにつながる事業を実現したいと思います。
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