想いを持った人たちが「本当にやりたいことに使える」資金を届けるREADYFORの基金とは
2011年3月にREADYFORが日本初のクラウドファンディングサービスをスタートして11年。「想いの乗ったお金の流れを増やす」というミッションをもっと加速させるべく、近年、私たちは、まとまった資金を、想いを持って社会をより良くするために活動する方々へ届ける「基金事業」に取り組んでいます。
READYFORは新型コロナウイルス感染症が拡大しつつあった2020年4月、感染拡大を防ぐために最前線で闘う医療従事者や、感染拡大防止活動を行う方々への支援を目的とした「新型コロナウイルス感染症:拡大防止活動基金」を設立。クラウドファンディングのシステムを活用し、国内購入型・寄付型クラウドファンディングサービス史上最高額である総額8億7000万円の寄付を集め、150を超える団体に対して助成金を届けました。
以降、「2020年度:休眠預金を活用した新型コロナウイルス対応緊急支援助成事業」、「新型コロナウイルス感染症:いのちとこころを守るSOS基金」、「2021年度:休眠預金を活用した新型コロナウイルス対応支援助成事業」を実施しています。
基金は主に、助成金、補助金として、行政や財団などが長年取り組んできた事業です。私たちREADYFORが基金に挑戦しているのは、想いを持った方々が「本当にやりたいことに使える資金」を届けたいと思っているからです。
READYFORの基金事業によって、どんな資金と体験が得られるのか。READYFORが2020年に公募を行った「休眠預金を活用した新型コロナウイルス対応支援助成事業」に採択された一般社団法人WheeLog代表理事、織田友理子さんにお話を伺いました。
バリアフリー情報を発信するWheeLogは、今回の助成金を活用し、バリアフリーマップのアプリケーションにおいて、ユーザーが実際に街を歩き、アプリを使用してデータ収集をするなど、より正確性が高いデータ収集とその反映を2021年7月に実施しました。
一般社団法人WheeLog 代表理事
織田友理子さん
「車いすでもあきらめない世界をつくる」をミッションに、バリアフリー情報の発信を始める。一人一人が情報の発信者となって、みんなでバリアフリー情報を共有できるアプリを考案し、2015年のGoogleインパクトチャレンジでグランプリを獲得。2017年5月にみんなでつくるバリアフリーマップ「WheeLog!アプリ」をリリース。ドバイ万博2020招聘、米国マサチューセッツ工科大学(MIT)の社会課題を解決するためのコミュニティに、日本唯一の団体として参画するなど、世界で活躍。READYFORの休眠預金活用基金では、「WheeLog!アプリ」のシステム改修事業で1400万円の助成を獲得。
既存の助成金では叶わなかった「本当にやりたいこと」にお金を使えた
── READFORの基金事業を振り返って、5段階評価で、大満足を5、とても不満を1としたら何点をつけるか、理由も合わせて教えていただけますか?
織田: 5点満点! 大満足です。というのも、あくまで個人的な印象ですが、日本のこれまでの助成金は、時流に合わせたお金の分配がされていなかったように感じます。私たちは民間のNPOとして、車いすユーザーの方々に役立つアプリやシステムの開発に挑戦しているのですが、こうした新しい技術開発は、既存の助成事業の枠組みには当てはまりません。
そのため、行政であっても民間であっても、国内の助成事業にそもそも申請できないケースが少なくないんです。申請できても、選考で落ちてしまうこともあります。
さらに私たちの場合、システム開発はプロに依頼するしかないのですが、既存の助成金の多くは、「人件費には使えない」「外部委託費は50%以内」と使い道にルールがあり、本当にやりたいことにお金が使えないこともあるんです。
私たちのプレゼンテーション力不足などの要因もあるかもしれませんが、日本で助成金を獲得するのはもう無理だとあきらめて、海外の賞金があるアワードに挑戦してきました。
そんな中、READYFORさんの休眠預金事業は、ネックになっていた使い道のルールがなく、初めて自分たちのための助成金だ!と思えたんです。「ここまで本当のことを書いたら落とされるだろうな」と思いながらも、勇気を出して「自分たちがやりたいことを100%出し切って」申請したら、採択いただけました。
今回の助成金では、ほかの助成金ではなかなか難しい「人件費」と「開発費」にしっかりお金を使えたので、本当にありがたかったです。日本ではあり得ないことだったと思っています。
休眠預金事業とは
一般社団法人日本民間公益活動連携機構(JANPIA)が2009年1⽉1⽇以降の取引から10年以上取引のない預⾦等(休眠預⾦等)を、社会課題の解決のために活⽤する国の制度「休眠預⾦等活⽤法」に基づき実施している事業です。
READYFORはJANPIAが公募する「新型コロナウイルス対応支援助成」の資金分配団体として採択され、新型コロナウイルスで影響を受けた⺠間公益活動の継続、深刻化した社会課題解決にあたる事業、新しい生活様式を実現・サポートするための事業を支援すべく、基金の立ち上げと公募を実施。
採択された団体に対しては、事業運営のサポートやクラウドファンディングを含めた資金調達ノウハウを提供しています。
2020年度は26団体に対して総額2億円を助成。2021年度はNPO法人キッズドアと協力し17団体に総額2.9億円を助成しています。
── 大変有効にご活用いただけたとのこと、私たちも嬉しいです。今後の参考に、改善してほしい点があれば、ぜひ教えてください。
大型の助成金は経験がなかったこともあり、最初は細かなルールを理解するのが大変で、正直、書類作成で戸惑うことも多かったです。でもその都度質問させていただき、確認しながら進められたので特に問題はなかったです。
迅速かつ柔軟に。やりたいことを全面的にバックアップする「伴走支援」
── 今回の休眠預金事業では、READYFORで「伴走支援」という事業のサポートを実施しました。伴走支援についても、満足度とその理由を教えてください。
織田: こちらも5点、大満足です。月に1回の頻度で開かれたオンラインでの定例ミーティングで、疑問には迅速に答えていただきましたし、回答に時間がかかる場合は予め目処をお知らせいただき、しっかりご対応いただきました。JANPIAさんとの間に立って調整や交渉をしていただくことも。
特に、助成された資金の使い方を、事前の計画から変えるというのは通常なかなか許されないので、私たちには「変更できる」という考えがそもそもありませんでした。でも今回、担当の方から「そういうことをしたいのであれば、計画を変更したほうがいいのではないですか?」と先回りして提案いただいたことで、よりスムーズに事業を進めることができました。
── ほかによかった点やご要望はありますか?
織田: ただお金を渡す、いただくだけでなく、事業の進捗と、資金を提供する側が「私たちの何を評価するのか」を話し合いながら進めることができたのが、一番良かった点です。その気づきが事業の励みにもなりましたし、私たちの場合は、行政の方々とつながる大切さと価値を確認することができました。
とはいえ、助成金を使う方々がみなさん自然にできることではないと思うので、伴走支援の制度自体に「成果をどのように出すか」を常に意識できるような仕掛けがあるといいかもしれません。
一般的に、助成金には書類作成や事務手続きが多く発生します。特に受け取った助成金の使用について報告する精算業務は、大切な報告義務であるものの、日々現場で活動する団体にとってはハードルが高いもの。READYFORでは団体さまの負担を少しでも軽減させるため、ITツールの積極的な活用やDXの視点に立って、仕組みづくりを行っています。
── 今後同様の募集があった場合、応募したいと思われますか?
織田: 絶対応募したいです! 本当に使い勝手のいい助成金でした。資金の使い道が変更できたこと、また、コロナ禍での事業実施だったので、急にイベントのスケジュールを変更しなければならない、といった不足の事態にも柔軟にご対応いただき助かりました。
READYFORさんに私たちがやりたいことを全面的にバックアップしてもらったおかげで、何不自由なく、事業を実施できました。社会にインパクトが与えられるような事業をまた考えて、ぜひチャレンジしたいです。
助成金の「その後」を考える、実験としてのクラウドファンディング
── 今回の助成期間中、弊社でクラウドファンディングにも挑戦いただきました。基金との相乗効果などあれば教えてください。
織田: 私たち非営利活動団体においても、事業を継続し、拡大していくことが求められます。その点、助成金の獲得と並行してクラウドファンディングを実施したことで、助成金の予算の範囲内にとどまることなく、より広い視点で資金調達の手段や活動の方向性を探り、助成期間が終わった後を見据えることができました。
実は、助成金の申請時には、クラウドファンディングを実施する計画はなかったんです。でも、この事業でどう成果をあげるのか、どうしたら助成後の展開につながるかを考えたとき、全国各地、いろんな地域で地元の方にご参加いただけるイベントを企画して、クラウドファンディングを通じてご支援いただき、一緒に一つの成果をつくる──そうした一連のアイディアが生まれたので、挑戦しました。
実際に、イベントとして「車いす街歩きイベント」を2021年4月と7月に横浜中華街で実施しました。コロナ禍でしたが、車いすユーザーだけでなく、バリアフリーに興味のある健常者の方にもたくさん参加いただき、みんなで一緒に街歩きを楽しみました。また、事前にオンラインでアプリ勉強会を実施するなど、これまで対面で実施していたことをコロナ対応させるなど、新しい挑戦もできました。
このイベントを通じて制作した横浜中華街のバリアフリーマップは、各方面で好評をいただいています。マップを見られた高齢者の方が「中華街に行ってみたい」とおっしゃったそうで。街歩きイベントは企業や自治体・学校などからも実施したいとの声を多くいただいており、今後も活動を推進していきたいです。
助成金事業の途中、「横浜の観光バリアフリーマップを届けたい!」プロジェクトを実施。2021年4月に目標金額を大幅に上回り、約86万円の支援を達成。コロナ禍での対面でのイベントは延期も検討しながら、感染状況を考慮して実施されました。結果、海外メディアにも取り上げられ、横浜市や地元商工会との関係構築のきっかけに。WheeLogさんにとって大きな一歩になったそうです。
本当にやりたいことに資金が使えたことが事業成果にもつながった
織田: READYFORの助成金では「これやりたい、こうしてみたい、こう変えたい」と、わがままがたくさん言えました。嫌がられるだろうなと思うようなことも聞き入れてくださり、助成後の布石になるようなことがたくさん実施できました。
助成金の申請時に書いたことは、頭の中だけでの想像ですから、いざ採択されて事業を始めてみると「こっちがよかった」「現場はこうしたいと言っている」ということがたくさん出てきます。でもこれまでの助成金は「申請通りにやってください」と、変えられないことが多くて。結果的にやりたいことに資金が使えず「もっと成果が出せるのに」と、事業成果もいまいちで終わってしまうこともありました。
でも今回は事業の展開、また現場の声に応じて、柔軟に変更して進めていけた。本当にありがたかったです。結果的には資金を提供する側、資金を使う側の双方にとって本当に意味がある事業ができることにもつながると思っています。休眠預金事業でいえば、国民の財産を社会活動に有効に使う、という目的をしっかり達成できるのではないでしょうか。
── 今後の資金調達や事業展開について教えてください。
織田: おかげさまでアプリは10万ダウンロードを越え、多くの方に知っていただけるようになりました。これからは日本全国、いろいろな地域で「車いす街歩き」などの取り組みをもっと増やしたいと思っています。
それから、休眠預金事業のシステム改修でデータ連携の機能が実現しましたが、この機能を活用した取り組みが、すでに一部始まっています。今後、自治体や企業とのデータの連携と活用をどんどん促進させていきます。また、アプリ開発の継続も必要です。ユーザー体験向上のために、管理機能をもっと強化し、使い勝手をよくしていきたいと思っています。
資金調達に関しては、現在ご支援いただいているマンスリーサポーターの方々からのご寄付や、クラウドファンディング、国交省など行政からの委託事業、自治体、企業での研修など、事業を継続していきます。
すでに、READYFORでの助成事業終了後、2021年10月には、クラウドファンディング「車いすでもあきらめない世界をつくる!WheeLog2021」プロジェクトで約560万円の支援を達成されています。継続的な寄付・ご支援をしてくださるサポーターも募集しています。
織田: ただ、ここからさらに事業を拡大していくためにはまとまった資金が必要です。今までは、海外の賞金があるアワードばかりに注目していましたが、日本でもっと認めてもらう必要があることもわかったので、行政にも評価してもらえるような挑戦もしていくつもりです。
日本で、世界で、バリアフリー情報がインフラになる社会の実現を目指して
織田: 事業面では、「バリアフリーアプリといえばWheeLog!」と言ってもらえるように、土台を堅めて、ゆくゆくはアジアや発展途上国、そして若い世代に、私たちのアプリを活用してもらい、もっとバリアフリーの概念を浸透させていきたいです。
バリアフリーという領域は、残念ながらまだまだ、オリンピック・パラリンピックに代表されるような、特別なイベントごとのときだけに、限られた予算しかつかないのが現状です。自治体の予算も数万円程度にとどまるので、助成金しか資金源がないとしたら、相当数の数を獲得しなければなりません。
経済格差がバリアフリー情報の格差になってしまうから、アプリは有料化したくないんです。まだまだ車いすユーザーがバリアフリー情報をなかなか得られない現実がありますが、いつかバリアフリー情報がインフラと同じ、なくてはならない情報として社会に認知されるようになってほしい。
私は、遠位型ミオパチーという進行性の病気で、子どもが生まれてから車椅子生活になりました。かつて私は、車椅子だから外出できない、引きこもるしかない、そんな思いを抱いていました。私と同じ思いをする人がいないように。昔の私自身が、このアプリに出会っていたら、引きこもってしまうような経験はしなかった、と思っています。
水や電気と同じように、バリアフリー情報も、社会にとって不可欠なインフラとして、社会に認知されるように。これからも私たちは、その想いをベースに挑戦を続けていきます。