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世の中に最もインパクトを与える投資先とは? 石川善樹×米良はるか【前編】

Readyforでは医療に関わるプロジェクトが進行しています。「エボラ出血熱」の新薬開発のために資金を集めるプロジェクトや、小児がんと戦う子供たちのために無菌室を新設する国立成育医療研究センターの取り組みなど、その分野は多岐に渡ります。今回お話を伺うのは、予防医学博士の石川善樹さん。「人がよりよく生きるとは何か(Well-being)」をテーマに、企業や大学と学際的研究に取り組むかたわら、講演活動やメディア出演など多方面で活躍する石川さんに、医療(健康)研究分野におけるお金の課題についてお聞きしました。前半は、石川さんが影響を受けた意外な人物のお話から。

「仕組み」への投資で世の中を変えたロックフェラー

米良 Readyforでは、医療をはじめ研究に関するプロジェクトが増えていますが、今までは助成金に頼っていたという声や、申請しても受理されなかったからクラウドファンディングを活用することにしたというケースをよく聞きます。

研究開発のプロジェクトは需要も大きく世の中への貢献度も高い。石川さんは予防医学を専門とされていますが、医療をはじめ研究分野における、これから必要なお金の流れについて教えていただきたいです。

石川 研究者にはそれぞれ研究テーマがあります。けれど「その研究が本当に世の中に必要なことだろうか?」「大切な国のお金を使って、失敗した時に責任は取れるのか?」という疑問は常に残ります。そこで自分は、なるべく責任が取れる範囲で、国に頼らず研究をしたいと思うようになりました。やりたいことができれば、お金を調達する手段は自由でいいと思うんですよね。

石川善樹さん
1981年、広島県生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。
Twitter:@ishikun3

米良 税金や助成金を頼りにしている研究者が多い中で、自分で資金を集めるケースはなかなかレアですよね。きっかけは何だったのですか?

石川 いちばん影響を受けたのは、アメリカの実業家・ロックフェラーです。

米良 え!? 

石川 実は「予防医学」をつくったのは彼なんですよ。

米良 そうなんですか! 知らなかった。ロックフェラーと医療、意外な接点ですね。

石川 ご存知の通り、ロックフェラーは石油で財を成した史上最強の大富豪です。彼が築いた資産を今の価値に換算すると、ジェフ・ベゾスとビル・ゲイツ、バフェットの資産を足して倍にしたくらい。とてつもない金額ですよね。彼がすごいのは、誰よりも稼いで使ったのと同時に「お金をどのように使ったら世の中にインパクトがあるか」を考えた人でもあるんです。

米良 具体的にはどんな分野へ?

石川 まずロックフェラーが最も忌み嫌ったのは、「非効率な活動領域に寄付をすること」です。たとえば当時でいうと、教育や医療、福祉といったエリアになります。あまり効率的に回ってませんでしたから。それよりも「最大限のインパクトを社会に与えるには何に投資すればいのだろうか?」と考えて、「学問だろう」という結論になったわけです。実は「人工知能」という学問に投資したのも彼なんです。

米良 ロックフェラーといえば実業家の一面がよく知られていますが、学問にも大きく貢献した人だったんですね。

石川 そうですね。自分が目指しているのは、まさにロックフェラー財団が行った「学問への投資」です。自分が研究するだけでなく、いろんな人に全く新しい分野を研究してもらいたい。そうやって新しいお金の流れをつくれたらと思っています。

ミリオネアとビリオネアの違い

石川 ところで話は変わりますが、昔ハーバード大学の先生に、「ミリオネアとビリオネアの違い」という面白い話を聞きました。その先生は、過去にミリオネアにもビリオネアにも研究資金をいただいたことがあったけど、そのプロセスが全然違ったそうです。

米良 どう違ったんですか?

石川 まずミリオネアに対しては、自分から「こんな研究をしたいんだ!」というプレゼンをしに行かないといけなかったし、結論が出るまでにすごい時間がかかった。その一方でビリオネアは、「君の研究を見て面白いと思った。ぜひ研究資金を出させてくれ!」と向こうからやってきたそうです。そして、研究資金を出す判断もめちゃくちゃ速かったと。

米良 なるほど、その違いは面白いですね!

石川 さらに面白いのが、こんなことも言ってました。ミリオネアには「可能そうな研究」を提案しないと響かないし、逆にビリオネアには「不可能そうな研究」をプレゼンしないと響かない(笑)。

米良 その違いは面白いですね。確かに投資の判断材料になるのは、企業の将来性だったりビジネスがいかにグロースするかの可能性。その点、学問や研究分野は結果がまだ見えないから、可能性がどれくらいあるかも判断しにくい。それが研究活動にお金が流れにくくなっている原因なのかもしれませんね。

お金が持続する仕組みを考える

米良 日本でも、ロックフェラーのように学問へ投資する人はいるのでしょうか?

石川 もちろんいますが、少額の投資にとどまっていて、世界の才能を引き付けられているかといわれれば、まだ弱いんじゃないでしょうか。

また研究におけるお金の流れに関して、もう一つ面白い話を聞きました。たとえば日本が世界に誇る医療経済学者・津川さんに教えてもらったんですがUCLA(University of California, Los Angeles)では、5億円集めると大学が毎年5%で運用してくれる仕組みになっているそうです。つまり、一度5億集めれば、毎年2500万円でずっとまわせるわけです。

これからは、様々な方法でお金が持続する仕組みを設計していくことが研究者にも求められるともいます。

米良 そういった仕組みがあるとは知りませんでした。研究者自身も、寄付金を運用する仕組みがあること自体知っている人は少ないかもしれませんね。最近ではReadyforと大学との提携も増えてきましたが、お金を集めるノウハウを知らない人がまだまだ多いなと感じます。

特に国公立大はもともと国の方針に沿ってつくられた大学だから、自分たちで意思決定する慣習があまりなかったんですよね。ところが近年、大学改革の流れで学校が自分たちのオリジナリティをPRしたり、お金の集め方を考えたりする必要が出てきた。

この数年でようやくファンドもつくられてはきていますが、ファンドマネージャーのような専門的人材がまだまだ少ない。お金の得かたを考えるための知見がないのも課題かもしれません。

石川 そもそも研究者は考えるのが仕事ですから、新しい方法を考えたらいいと思うんですよね。どうしたら自分たちにお金が流れてくるのか、いい人材が入ってくるのか。仕組みそのものを考える。

米良 確かに研究者のような専門家の目線で今の仕組みを変える人が現れたら、研究分野全体のお金の流れ方も大きく変わるかもしれませんね。

石川 そう思います。

米良 Readyforのミッション(役割)は「想いの乗ったお金の流れを増やすこと」。お金が流れる仕組みを変えたいと思っているんですが、それは私自身がスタートアップの世界にいて感じたことにも紐づいています。

Readyforを起業して8年になりますが、この間、急激にお金の流れが変わったなと感じていて。昔はベンチャーキャピタルの規模も小さく、スタートアップに対してもすぐにIPOやEXITが求められました。今はファンドも増えて資金の規模も拡大したけど、研究活動やNPO団体へはまだまだ少額のお金しか流れていない。お金の流れをつくる役割として、まだまだ課題があると思ってます。石川さんのお話を聞いて、お金の流れを変えるヒントがあるなと感じました。

後編につづく

text by 星久美子 photo by 土田凌

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