見出し画像

寄付金の使い道を、とことん透明度高く。サポーターとの信頼関係構築が、継続寄付のカギ

「単発のクラウドファンディングとの違いを意識し、サポーターの方と継続的に信頼関係を構築するための仕組みづくりまで視野に入れてはじめて、継続寄付がうまく成り立つんじゃないでしょうか」

そう語るのは、引退した競走馬のセカンドキャリアを支援する活動を行う団体・引退競走馬党の代表である渡邊宜昭さん。

競馬場などで活躍する競走馬は、競走で勝てなければ若くして引退を余儀なくされ、引退した馬の多くは殺処分されてしまうという厳しい現実があります。そんな現状に対し、渡邊さんは2021年4月に引退競走馬党を立ち上げ、同年5月にクラウドファンディングを実施。

その後2022年2月より継続寄付のマンスリーサポーター制度を導入しました。

渡邊さんは、日々きめ細やかに活動の報告を行い、サポーターの方々との信頼関係を構築されている方です。今回は、継続寄付の導入に踏み切った経緯や、継続寄付を実施する上での心構えなどについて、渡邊さんから詳しくお話を伺います。

1頭の馬を救うために、活動をスタート

──初めに、渡邊さんが現在の活動を始めた経緯を教えていただけますか。

渡邊:私は現在64歳で、49歳のときに乗馬を始めました。乗馬を始めたきっかけは、妻と体験乗馬に参加して、純粋に楽しいと感じたからです。

最初は乗馬クラブの所有馬に乗っていましたが、縁あって引退した競走馬を譲っていただき、以降はずっと、その馬と絆を深めていました。そのなかで引退馬の状況に興味を持つようになり、自分なりに色々と調べたところ、引退馬の多くは、食用に屠畜されているという事実を知ったんです。引退馬は乗馬クラブや牧場で余生を過ごすものだと思っていたので、とてもショックでした。

とはいえ馬を引き取って育てるには多額のお金がかかるため、何も行動できずにいたのですが、ある日私の馬が病気になり、一時は生死をさまようほど調子が悪くなってしまったんです。懸命な治療の末、なんとか元気になったのですが、この体験で馬の命の大切さを再認識し、引退馬を救うための行動を起こそうと決意しました。

──そして2021年4月に、引退馬のセカンドキャリア支援を行う団体「引退競走馬党」を立ち上げられたんですね。

渡邊:引退馬に次の活躍の場を提供するためには、引退馬の引き取りから、再調教(リトレーニング)のための乗馬施設への預託、リトレーニングの実施、そしてリトレーニング完了後の馬の譲渡までを一気通貫で行う存在が必要だと考え、引退競走馬党を立ち上げました。リトレーニングとは、これまで競走馬として調教されてきた馬が、乗用馬やセラピーホースとして新たな活躍の場を得るためのトレーニングです。

──団体立ち上げの翌月には、READYFORでクラウドファンディングも実施されました。

渡邊:私のようないち個人がクラウドファンディングを立ち上げて、果たしてどれくらいの支援が集まるのだろう?と不安でいっぱいでしたが、とにかく行動しよう、まずは1頭の引退馬のセカンドキャリアを実現しようという思いでチャレンジしたんです。

最終的には182名の方から約177万円のご支援をいただき、実際に1頭の引退競走馬「マカロン号」を引き取り、乗用馬として新たな個人オーナー様を見つけるところまで行き着くことができました。おかげさまで、初めての取り組みとしては大成功だったと思います。

広範囲への周知と細やかな情報発信の相乗効果で、サポーターを獲得

──クラウドファンディングの手応えは、どのようなところに感じましたか?

渡邊:引退競走馬党ではホームページ上でも寄付の呼びかけをしていますが、そもそも我々のホームページまでたどり着いてくれる人が少ないという課題があります。

一方でREADYFORはクラウドファンディングのプラットフォームとして知名度があり、「社会的な活動を応援したい」という方が集まる場でもあります。だからこそ、多くの人に活動を知ってもらいやすく、支援にもつながりやすいと感じました。

──2022年2月からは、継続寄付の募集もスタートされましたよね。単発のクラウドファンディングに続き、継続寄付に挑戦しようと思ったのはどうしてだったんでしょう。

渡邊:絶え間なく出てくる引退馬を、継続的に助け出すためです。しかしそのためには当然、継続的な資金調達が必要になります。ちょうど私が単発のクラウドファンディングを終えてから、タイミングよくREADYFORで継続寄付のサービスが開始するという案内があったので、すぐに申し込みました。

──そこから現在、60名の方がマンスリーサポーターになられています。サポーターを集める上で、意識されていることはありますか?

渡邊:とにかく細やかに活動の報告をすることです。私はほとんど毎日、馬のリトレーニングの様子などの活動状況を動画に撮り、マンスリーサポーターを中心としたFacebookグループにアップロードしています。

クラウドファンディングや継続寄付で資金を集めた団体には、支援者の方々に活動状況をきちんと伝える責任があると思っていて。貴重なお金を提供してくださった方々には、やっぱりそれなり以上に応えなければいけないと思うんです。

──引退競走馬党は、活動の透明性が本当に高いですよね。自分の支援がどんな活動につながっているかが手に取るようにわかるので、サポーターの方ともうまく信頼関係が構築できているように感じます。

渡邊:実は今年、私の活動に対する信頼感や安心感をもっと持っていただけるようにと思い、乗馬の指導者資格試験に挑戦したんです。合格率は3割程度と言われている資格なのですが、なんとか合格することができました。

今までは動画も、ただ撮影してアップロードするだけでしたが、指導者の知識を身につけたことで、今後は解説を加えた動画を皆さんにお届けできると思います。

こうした資格の取得をはじめ、とにかく自分にできることはやろうという思いで取り組んでいるので、活動を知ってくださった方には「一生懸命頑張っているな」と感じていただけるんじゃないかと思っています。

──継続寄付の場合は、寄付を続けていただくためにも、サポーターになっていただいた後の信頼関係の構築がとても大切ですもんね。また、そうした活動への信頼感はもちろん、新たなサポーターの獲得にもつながると思います。

渡邊:一方で、サポーターを獲得できているのは、READYFORの力も大きいです。以前、READYFORのメールマガジンでプロジェクトの紹介をしていただいた際には、一気にページへのアクセス数が増え、それに伴ってサポーターも増えました。

自分のSNSで発信してもほとんど誰にも見てもらえませんが、発信力のあるプラットホームであるREADYFORが周知してくれることで、まずは自分の活動を知ってもらうことができます。そして自分のページに飛んでいただいたときに、日々の地道な活動報告から、きちんと活動していることを確認してもらう。そういう流れが、結果につながっているんじゃないかと思います。

継続寄付の資金で、新たな1頭の引き取りを実現

──READYFORでの広範囲への周知とご自身でのきめ細やかな情報発信が連動して、いい結果を生み出しているんですね。継続寄付を始めたことで、可能になった活動はありますか。

渡邊:継続寄付で集まった資金を活用し、新たに1頭の牝馬・カレンを引き取り、お世話をしています。現在はサポーターさんからの毎月の寄付額が、1頭の馬のお世話にかかる月額費とちょうど同じくらいなんです。

ところが先月、カレンが病気に罹ってしまって。イレギュラーな事態に対応するための資金までは集められていなかったので、その治療費5万円は自分のお金で賄いました。これから継続寄付を広げていくことで、そうしたイレギュラーな事態にも対応できるようにしたいですし、さらに資金が貯まれば、セカンドキャリアの次のサードキャリアの支援にもつなげたいと考えています。

──セカンドキャリアに留まらず、サードキャリアも考える必要があるんですね。

渡邊:競走馬から乗用馬に転身しても、年を取った馬は、最後は活動が難しくなります。そうした馬はたいてい養老牧場などに預けられるのですが、そのためにももちろん、お金がかかるんです。馬の人生を総合的にサポートするためには、そうやって終の棲家まで考えてあげる必要がありますし、そうした長期間のサポートのためには継続寄付のような、継続的に資金を調達できる仕組みが必要なんです。

継続的にお金をいただく=継続的に活動報告をする責任がある

──最後に、これから継続寄付を始めたいと思っている方に向けてアドバイスをお願いします。

渡邊:「なぜ単発のクラウドファンディングではなく、継続寄付を行うのか」を明確にすることが大切だと思います。

単発のクラウドファンディングは、ある一定の目的が達成されれば終了ですが、継続寄付には「ここが達成」というゴールはなく、ずっと活動を続けていく必要がある。そこが大きな違いです。だからこそ継続寄付は、サポーターの方に継続して活動報告を行い、継続して信頼していただくこととセットだと思うんです。

そうした単発のクラウドファンディングとの違いを意識し、サポーターの方と継続的に信頼関係を構築するための仕組みづくりまで視野に入れてはじめて、継続寄付がうまく成り立つんじゃないでしょうか。

活動内容が明確にならないと、最初は共感して支援してくれたサポーターの方も、どんどん気持ちがぼやけてきてしまいます。継続的にお金をいただくわけですから、その使い道を、きちんと明確に示し続けることが大切だと思います。

text by 高野優海 edit by 徳 瑠里香