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継続寄付で、当事者意識を持つ仲間を増やす。性風俗と社会をつなぐ、風テラスの挑戦

「継続寄付は、多くの人々が社会課題の当事者になれる優れた仕組みだと思うんです」

そう語ってくれたのは、性風俗業界で働く女性への支援を行う、NPO法人風テラスの理事長・坂爪真吾さん。

2022年2月、風テラスではREADYFOR継続寄付を活用し、マンスリーサポーター制度を立ち上げました。

継続寄付の導入に踏み切った理由や、助成金との違い、導入後に感じた継続寄付の可能性について、坂爪さんから詳しくお話を伺います。

「風俗で働く女性は誰にも相談しない」を覆し、8,000名以上の女性をサポート

風テラス代表、坂爪真吾さん

──もともと坂爪さんは、なぜ性風俗業界で働く女性の支援をしようと思われたんでしょう。

きっかけは、大学時代のゼミで性風俗業界へのフィールドワークを行ったことです。そこで実感したのが、性風俗業界は、貧困、格差、障害、ジェンダーなどさまざまな社会課題の集積地だということでした。

それにもかかわらず、風俗に対する偏見や無理解のために、性風俗の領域には課題解決を行うプレーヤーがほとんどいない状態だったんです。そのため、自分がNPO的なアプローチで関われば、とてもやり甲斐があるし、社会の役にも立つことができるのではと思い、活動を始めました。

──まだ誰も解いていない、難しい課題だからこそ、取り組む価値もやり甲斐も大きい……たしかにその通りですよね。具体的な活動内容も、教えていただけますか?

「風俗と福祉・司法をつなぐ」そして「風俗と社会をつなぐ」というビジョンのもと、性風俗業界で働く女性向けの無料生活・法律相談窓口の運営を中心に、生活に困窮した女性への食料支援や、マンガによる情報提供・啓発活動を行っています。

現在はコロナの影響で一時停止中ですが、以前は性風俗業界で働く女性や経営者に直接話を聞くスタディツアーの企画・運営も行っていました。

相談窓口には、活動開始から現在までの約6年半で8,000名を超える女性から相談が寄せられ、弁護士とソーシャルワーカーのチームでサポートを行ってきました。

弁護士とソーシャルワーカーによる相談の様子

実は、風テラスの活動を始める前は、「風俗で働く女性は誰にも相談しない」という固定観念が強く存在していたんです。女性は性風俗業界で働いていることを自ら誰かに話すようなことはしない、困ったことがあっても行政や福祉につながらない、と。業界で働く方からも、「相談者は1年で100名いたらいい方では?」と言われていました。

──しかし蓋を開けてみたら、8,000名もの方々から相談があった、と。風テラスの活動は、「性風俗で働く女性は誰にも相談しない」という固定観念を覆したと言えますね。

性風俗業界は、ブラックボックスになっている部分が多いからこそ、そうした固定観念や偏見が数多く存在しています。

なので私たちは、性風俗業界で働く方々がどんなことに困っており、何を必要としているのか、現場の声を一次情報として集めたうえで、適切な支援を提供することを何よりも重視しているんです。

──相談窓口で直接女性と話すことで一次情報を得て、適切な支援につなげているんですね。そうして生まれた支援の例はありますか?

最近強く感じているのが、性風俗で働く女性のなかには、精神疾患などの障害を持つ方が非常に多いということです。そうした方々に向けて、専門のカウンセラーやソーシャルワーカーと協力し、当事者同士で交流を行う自助グループがつくれないかと目下準備しています。

性風俗と福祉をつなぎ、「困っている人がいたらまず助ける」体制を

──まさに他の社会課題と性風俗とが絡み合っていることがよくわかる事例ですよね。

性風俗の世界には、障害やメンタルヘルス、虐待やDV、失業や貧困など、現行の福祉制度ではすくい取れないさまざまな問題を抱えた人たちが流れ込んできています。まさに課題の集積地ですよね。

そうした現状を解決するためにも、ゆくゆくは「風俗福祉」というジャンルを確立したいと考えています。性風俗業界に対して行える福祉的なアプローチを体系化して、さまざまな人が学び、知識をつけられるようにしたいんです。

そうすることで、本来は福祉や行政の力で解決できるにもかかわらず放置されてきた問題が、解決に向かっていくのではないかと考えています。

弁護士・ソーシャルワーカーの相談員による、LINE通話での相談対応の様子

──実際に風俗福祉というジャンルが確立されたら、とても大きなインパクトがありそうですね…! 実現にあたっての課題はあるのでしょうか。

正直、課題だらけですね(苦笑)。最大の壁は、「風俗をやっている人は自業自得だ」という固定観念をどう解消していくかだと思います。

たとえば病気になった際は、それがどんなに自業自得であっても、病院に行けば治療が受けられますよね。それと同じように、自業自得か否かで支援の可否を決めるのではなく、理由はどうであれ、まずは困っている人がいたら助ける、という体制をつくるべきだと思うんです。

利用者さんに食料支援を送る際のスタッフの直筆メッセージ

──風俗福祉の確立のためには、社会からの理解をいかに得るかが重要になるんですね。

しかし現状では、性風俗業界で働く方々に留まらず、私たちのような性風俗業界への支援を行う団体も、社会や国からの理解や支援が得づらい状況が続いています。実際、風俗に関する事業は交付金や助成金が取りづらく、去年もさまざまな助成金に応募しましたが、通ったのは1件だけだったんです

継続寄付は、多くの人が社会課題の当事者になれる仕組み

──そうした背景もあって、READYFORで継続寄付の募集を始められたのでしょうか。

そうですね。活動を継続するためにも、行政や財団からではなく、個人の方々から幅広い支援を集める必要性を強く感じていました。

また、2020年にREADYFORで単発のクラウドファンディングを実施した際、予想を大きく超える額が集まり、クラウドファンディングの可能性や手ごたえを強く感じていたのも、継続寄付にチャレンジしてみようと思った理由の一つです。

──実際に継続寄付を導入されてみて、助成金との違いはどのような点に感じられていますか?

助成金は申請書類の作成に時間と人手がかかるうえ、お金の使い道が特定の項目に限定されるため、正直使い勝手はあまりよくないんです。一方、継続寄付は使い道が特定の項目に限定されていないため、とても有難いですね。

加えて、継続寄付はサポーターの方の顔が見える支援であることも、大きな特徴だと思います。助成金の場合はただお金を受け取るだけですが、継続寄付の場合は、サポーターの方が可視化され、READYFORのメッセージ機能などを通じて、実際にコミュニケーションを取ることもできます。

自分たちを応援してくれている方々を可視化できる、というのは、活動を続ける上で大きな励みになりますね。実際、「マンスリーサポーターが増えました」という通知のメールがREADYFORから届くたびに、風テラスのメンバーはみんなすごく喜んでいて。継続寄付は、金銭的な援助という枠組みに留まらず、メンバーの働くモチベーションにもつながっていると思います。

──継続寄付は、単純な資金調達以上の意味を持つ……本当にその通りですよね。

また、継続寄付は、多くの人が社会課題の当事者になれる仕組みなのでは、とも感じています。

今回、継続寄付を募った際に、性風俗業界の課題に関心のある方からそうでない方まで、また、さまざまな地域、年代、職業の方が支援してくださったことに、驚くとともに大きな可能性を感じました。

性風俗業界は、業界以外の人々からは隔絶されており、当事者になる機会が非常に少ない世界です。しかし、寄付を行い、我々のような活動団体とつながり、現場を知ることで、今まで全く業界に関わりのなかった人も、当事者意識を持てるようになると思うんです。

そうして性風俗業界に関わる当事者が増えていくことで、先ほど挙げた、社会からの偏見や不理解の問題も、徐々に改善されていくのではないかと感じています。

そうした考えもあり、風テラスではマンスリーサポーターの方々に向けたオンラインイベントや、対面での定例会を実施し、私たちの活動を知っていただくとともに、交流を深めています。

オンラインイベント『風テラス相談員が語る、コロナ禍の相談現場のリアル~』(2020年9月30日)の開催風景

──継続寄付という形で多くの人を巻き込むことが、性風俗業界が抱える課題の根本的な解決にもつながっていくということですよね。

性風俗業界に限らず、READYFORというプラットフォーム上でいろいろな団体の寄付募集ページに目を通し、寄付を行う人が増えれば、世の中の人々とさまざまな社会課題との距離がどんどん縮まっていくのでは、と思いますね。

月額500円という少額から支援ができるので、寄付を全くしたことがない方々の初めの一歩としてもいいんじゃないかと思います。「NPO」「寄付」と聞くと、社会に対する意識が高い人たちが関わるもの、というイメージがありますが、READYFOR継続寄付は、いい意味で“普通”の人が“普通”に関われる仕組みになっているのがいいなと思いますね。

当初の目標の2倍以上に広がった、マンスリーサポーターの輪

──そうして継続寄付を募り、管理するツールとしてREADYFORを選ばれた理由があれば、教えてください。

私たちがマンスリーサポーター制度を立ち上げた時点では、まだREADYFORでは継続寄付のサービスが始まっていなかったんです。でも今年の2月に継続寄付のサービスが始まったと知り、以前のクラウドファンディングの際に、機能面での使いやすさやサポートの充実度に良い印象があったので、ぜひお願いしようと思いました。

──風テラスでは、単発のクラウドファンディングに引き続き、継続寄付でも、当初の目標を大きく超える成果が出ていますよね。募集にあたって心がけていることがあれば、教えてください。

READYFORの担当者の方が送ってくださったTODOリストを愚直にこなしていたら、サポーター数は順調に伸びていきましたね。

リストといっても、単にTODOが箇条書きになったものではなく、内容がとてもきめ細やかで。例えば「過去クラウドファンディング支援者に通知をする」という項目では、過去の支援者に通知を送る方法の具体的な説明、更には高額寄付者の方には個別でカスタマイズしたメールを送ったほうがよい旨が併記されており、迷うことなく効果的なアクションを取ることができました。 

また、過去の支援者の流入元をアナリティクスで分析したうえでの、「このチャネルで、このような投稿を、これくらいの頻度で、いつまでにやりましょう」といった具体的なアドバイスも、リストに入っていましたね。

その結果、当初はなんとか50名集まったら嬉しいな、と思っていたマンスリーサポーターが、現在すでに120名を超えており、本当にありがたいです。

引き続き、マンスリーサポーターを募集しています

──そのリストを全てきちんと実行された風テラスのみなさんの功績によるところが大きいと思いますが、READYFORと風テラス、二人三脚で支援の輪を広げることができていて嬉しいです。最後に、今後READYFOR継続寄付をどのように活用していきたいか、お聞かせいただけますか?

風テラスの活動費を継続寄付だけで賄えるようになったら理想的だと考えています。そのためにも、200名、300名と、その数をさらに伸ばしていきたいですね。

先ほども話に出たように、風テラスへの支援の輪が広がることは、世の中に性風俗業界への当事者意識を持つ人が増えることでもあります。引き続き情報発信を続け、風テラスの知名度を上げつつ、同時に活動の幅も広げていきながら、継続寄付を募っていけたらと思っています。

text by 高野優海 edit by 徳 瑠里香