ファンドレイジングの進化でNPO・NGOの未来を支える。コングラントとREADYFOR、業務提携にかける思い
2024年12月19日、業務提携契約を発表したコングラントとREADYFOR。
ソーシャルセクターのファンドレイジングを開拓してきた両社がパートナーシップを組むことで、社会課題に取り組む非営利組織や個人のファンドレイジングを加速します。
プレスリリースはこちら
https://corp.readyfor.jp/news/20241219
提携の背景にあるNPO・NGOを取り巻くファンドレイジング環境の変化とは?そして異なる歩みをしてきた2社が手を組むことで、ファンドレイジングおよび日本の寄付市場にどう働きかけていくのか?両社のトップが展望を語るロングインタビュー。
<プロフィール>
佐藤 正隆
コングラント株式会社 代表取締役CEO
1980年生まれ、岡山県出身。2008年にWEBサービス・システム開発のリタワークス株式会社を創業。同社NPO事業部の新規事業として寄付募集・決済・CRMのデジタル・ファンドレイジングシステム「コングラント」を開発し、2020年5月にリタワークス株式会社からコングラント事業をスピンオフし法人設立。代表取締役に就任。ジェネシア・ベンチャーズ、KIBOW社会投資ファンド等からの投資実績あり。J-startup KANSAIに採択。
樋浦 直樹
READYFOR株式会社 取締役 執行役員 COO
東京大学教育学部卒。2011年よりボストン・コンサルティング・グループにて小売・消費財業界を中心とした大企業のコンサルティング業務に従事し多岐にわたるプロジェクトを経験。2014年よりCOOとして参画。2017年共同の代表取締役に就任し、経営戦略・管理部門・新規事業開発等を管掌。2023年7月より現職。
小谷 菜美
READYFOR株式会社 執行役員 VP of Fundraising service
法政大学社会学部卒。編集ディレクターを経て2017年にREADYFORに参画。クラウドファンディング キュレーターとして伴走したプロジェクトの累積調達額約 38億。2023年ファンドレイジングサービス事業を新規立ち上げ。キュレーター部 部長、サービス開発部 部長等 を経て現職。エキスパートキュレーター、准認定ファンドレイザー。認定評価士。
READYFORとコングラント、それぞれが見てきたもう一方の姿
──それぞれ似た領域にいながら違う歩みをしてきたと思うのですが、お互いをどのように見ていたのか教えてください。
佐藤:READYFORさんはクラウドファンディング業界のトップランナーというイメージ。積み上げてきた量が違いますよね。
樋浦:最初はクラウドファンディングのハウツーを教えることが付加価値だったのが、ノウハウが一般に広まるようになって、我々のサポートの価値も伴走の方にシフトしてきましたね。
小谷:他社さんでも同じようにキュレーターが伴走するプランがありますが、私たちは団体さんに「想像以上にプロジェクトに入り込みますよ。それでも大丈夫ですか?」と聞いたりするほど、べったりと伴走します(笑)。達成にコミットするということをずっと突き詰めてきたので、そこに関して私たちは数もノウハウもしっかり持っているという自負はあります。
──READYFORから見たコングラントはどのようなイメージでしたか?
樋浦:コングラントさんの前身は、WEB制作やシステム開発の事業を展開していたリタワークス株式会社ですよね。展示会でチラシを見て「デザインが素敵だな」と思ったのを覚えています。その後プロダクトを作ってコングラントを始めたということで、これは有名になるだろうと勝手に想像していました。
佐藤:リタワークス時代は病院やNPOといったソーシャルセクターのWEBサイト制作も行っていて、コングラントはそんな団体さんのサイトを作っていた時に「なんでオンライン決済できないの?」という課題に直面したところから出発しています。
コングラントは大きく分けると決済サービスとCRMをバランスよくやってきました。利用者も増えて、小さな団体がファンドレイジングをやる時には「コングラントを入れた方がいいよ」と言われるまでになったと感じています。
システムとノウハウだけで寄付は増えない
佐藤:一方で、最近は一周回ってやはり決済だなと。CRMも大事ですが、そもそも寄付が集まらないとCRMを使わない。団体さんから「コングラントを導入したら寄付が増えるのですか?」と聞かれることもあるのですが、一定増える部分もありつつ、システムを入れて終わりだと寄付は増えませんという話でもあって。
──ノウハウはすでに一般に広がっているという話もありましたが、何かを見てインプットするだけではうまくいかないですよね。ファンドレイジングで成功するには何が一番大事だと思いますか?
小谷:成功の要因は色々とありますが、逆に、プロジェクトが失敗するときの多くの理由は、実は、途中でやる気を失うか、内部分裂にあります。それらが発生する要因もある程度わかっているプロのファンドレイザーが大変な道のりを伴走してゴールに向かうことで成功にたどり着く確率はぐっと上がるはず。ですからチームビルディングをして、的確に道を作っていくことも伴走の価値だと考えています。
樋浦:嬉しいことにクラウドファンディングという手段が一般的になって、READYFORのキュレーターがこの先にどんな価値を残していくのか考えたときに、最終的には「いかに覚悟を決めてもらって、いい寄付のもらい方をするか」というところになってきました。それはきっと、外から知識だけ教えているのでは届かないところだと思うので。
佐藤:コングラントとしてもまず決済を充実させた上で、そこに至る入口を増やしたいと思っています。大企業と連携した従業員寄付もその一つ。あとは認定NPOをもう少しブランドアップさせていくとか、より力を入れてサポートしていきたいですね。
僕らは伴走サービスをするというよりは、アクセラレーションや企業とのネットワーキングといった方面から認定NPOの成長支援をしていきたいと考えています。
──NPOなどの団体側の意識の変化は感じますか?
小谷:コロナを経て、READYFORはクラウドファンディングのプラットフォームの中でより社会課題寄りであるということが明確になったと思います。自分たちはずっとそのつもりだったけど、世間からも認識してもらえるようになったかなと。
佐藤:たしかに、以前より団体さんもコングラントやREADYFORの特徴を分かっていらっしゃいますよね。僕らもクラウドファンディングの機能はありますが、団体として象徴的な規模のクラウドファンディングになってくると「これはREADYFORかな?」みたいな感じで、使い分けがされてきているのではないでしょうか。
コングラントは総合ファンドレイジングツールであって、クラウドファンディングで伴走するところに強みがあるわけではないので、その辺りは会社としても棲み分けを意識しているところです。
NPOでも「無料」にはしない。社会貢献と”ビジネス視点”の関係性
──NPOへのサポートで心がけていることはありますか?
佐藤:僕らは最初から「有料」にこだわっていました。相手が非営利だから何でも無料で提供するというスタンスだと厳しいと思うんです。団体さんからはちょっと高いと言われることもありますが、ITツールにはお金を払うものという空気を当たり前にしていきたいですね。
樋浦:同じようなジレンマは弊社もあります。ただそれは根底にはNPOをはじめとする社会のために活動する人たちが対価を得にくい環境や社会観が関係していると思っています。
あえて強い言い方をすると、「清く貧しく」だけではダメだと思うんです。それだとサステナブルになっていかない。社会に価値を発揮した分、売上や寄付でしっかり対価をいただくことを目指すし、そしてNPO自身も必要なサービスやツールに対価を払っていくということを当たり前の価値観にしていきたいです。
佐藤:無料のサービスだと団体さんの意思決定が弱いというのもありますよね。内部のデータを見ても、有料で使ってくれているお客さんは自然と寄付が増えていくんです。手前味噌かもしれませんが、お金を払うというのは非常に大事なことだと思います。
小谷:READYFORは手数料が高いと言われることもあります。それは「READYFORでクラウドファンディングをやるには覚悟がいる」ということの裏返しでもあると思っています。
お金を集めるということは責任を伴います。団体にリソースもコストもかけてもらい、READYFORもそれに応える伴走をして、しっかりお金を集め、次の活動に投資していく。そうやって団体もREADYFORもサステナブルにしていかないと、一度払ったお金が無駄になってしまいます。
もちろん私たちも質のいいサービスを安く届けたいという思いはあります。でもそれがあまりにも振り切れてコスト無視になってしまうと良くないし、業界全体が沈んでいくことは望んでいません。
──投資とリターンのグッドサイクルにどう持ち込むかがNPO運営の肝になりそうですね。団体が抱える課題は他にどのようなものがあると考えていますか。
樋浦:営利の会社であれば、価値を出すから売上があって、それを投資に回すことで成長できるけど、この領域というのは必ずしも活動に対して売上がつくとは限らない。そうすると助かっている人がいるのに成長するためのお金がないという壁にぶつかってしまいます。
スタートアップならお金を出そうという話が出てきて人材・組織支援の会社が成長を支援してくれて、みんなで価値を広げていこうという体制ができるのに対して、非営利の経営者は価値を出すだけでも難しいのに、お金も自分で集めないといけないし、組織も自分たちで作らないといけない。そこにはスタートアップの3乗くらいの難しさがあるのではないかと感じていて。
その3乗を少しでも軽くして2乗にするような支援ができれば、NPO団体の成長の仕方が変わってくると思っています。
伴走支援とデータベースの連携が生み出すファンドレイジングの進化
──コングラントとREADYFORが一緒に取り組むことでどのようなサポートができるようになると思いますか?
樋浦:うまくいっている団体ほど、「どう組織を大きくしていくか」でつまずくことが多いです。僕らのファンドレイジングサポートでは目標を決めて、そこに向けた道筋を描くことが要になりますが、同時にデジタルで効率化するのも非常に重要。良質なプロダクトでその基盤を作っていくのがコングラントさんがやってらっしゃることかなと。
なのでREADYFORのファンドレイジングサービスとコングラントさんのプロダクトでNPOの立ち上げや運営の難易度を少しずつ減らしていくことができるといいですね。
小谷:READYFORでは、クラウドファンディングからいかに継続的な支援者の獲得に繋げていくかが大事になると考えています。そのためには、「クラウドファンディング後も何割は継続的な支援に繋がっています」といったデータが、もう少し社会的な認知を得ていると良いのかなと感じます。
佐藤:マンスリーサポーターのデータはもっと活用できそうですよね。継続的に収入があるということなので、これを担保に融資の判断ができると思っていて。
クラウドファンディングでいくら集めたとか、マンスリーサポーターが何人いるかということは、すなわち信用があるということですよね。その信用をもっと二次活用できたら現状を変えていけるかもしれません。両社で取り組んでいきたいですね。
小谷:そうですね。クラウドファンディングの実績で助成金が取れたという話も耳にします。団体における総合的な信頼度には寄与していると思うので、コングラントさんのデータベースも活用しながら団体が自団体に再投資できるステージまで行きたいですね。
──READYFORもコングラントも株式会社ですし、ソーシャルの領域の中に閉じていない面はありますよね。
樋浦:その視点を持てているというのはあるかもしれません。NPOの団体さんの中には「お金って受け取っていいんだろうか」みたいな思いを持っていることもありますし、「成長には投資も必要だよね」という考え方も馴染が薄かったりします。その中で、僕らはビジネス側とソーシャル側のどちらの視点にも立てるのは強みかもしれません。
一方で、非営利の世界がそう簡単にビジネス的になれるわけじゃない。強い思いでやっている、そのいいところを全部ビジネスのようにしたらいいというわけではなくて。
できないところ、残るところがあるからこそ、どうやってビジネスの世界のいいところを取り込みながらやっていくか。その大切さと難しさは、株式会社としてやってきた僕ら自身がわかっているつもりです。
ちょっと引いた視点でいろいろなコミュニティを行き来しているので、ソーシャル領域に関心のある企業やスタートアップの方々からも「何かあそこが引いて見てそうだぞ」という感じで、いろんなお声がけをしていただいている部分はあるかもしれませんね。
佐藤:富裕層や大企業の方が団体さんで直接つながっていくって、やっぱりなかなか難しくて。我々のような存在が間に入っていかないと、お金が流れない。
樋浦:営利の世界では個人で出資先を選ぶにしても、金融機関やVCから情報をもらいますよね。仲介者がいない寄付って、データベースがない中で投資をやろうとしているようなものだから、それだとやっぱりお金は流れないですよね。
たとえばジャンルごとにまとめれば投資信託のような形にできるかもしれないし、プレゼンテーションのサポートができるかもしれない。
本当にやりたいことができる可能性が高まるように、お金の出し手と受け手がつながりやすい仕掛けを作るという役割は思った以上に価値があると感じます。僕らのような存在がそこを担っていけたらと思います。
NPOとともに成長する、とは?
──NPOにとっての「成長」は難しい概念だと思うのですが、どう捉えていますか?
小谷:スタートアップの組織・利益の拡大とは本質的に意味合いが異なりますよね。NPOにとっては課題の解決が組織のゴール、すなわち解散を意味しているケースもあると思うのですが、そのような前提の中でどのようにゴールに向かうことが成長なのかはいろいろな考え方がありそうです。
佐藤:団体を立ち上げたときは解決したい大きな課題があったはずで、最初から小さくやりたい人ってあまりいないと思うんです。だけど続けていくうちに現実にぶつかって、小さい取り組みを続けることで精一杯になってしまう。
実情として、本来やりたいことよりも少し小さな取り組みになっている団体も多いと思います。だけど代表レベルでは「もっと深くやりたい」と使命感を持っている人が多いと思うので、その意思を解放させてあげたい。それがNPOにとっての成長だと捉えています。
樋浦:NPOの立ち上げの経緯としては、「目の前の困っている人を助けたい」からスタートするなど様々なケースがあると思います。ただ、成長していく団体が本当に一筋の光だけしかない状況は変えていきたいですね。
小谷:今の社会で、困っていて「何とかしてくれ」とそれぞれの課題を抱えている人はたくさんいるけれど、国や行政では支援の手が回らず、頼りの綱はNPOだけだったりする。そんな中でどんどん課題側が大きくなっていて、いまのあらゆる活動団体・組織だけでは世の中のニーズを受けきれなくなっています。海外と比較しても圧倒的に数が足りない。
もし彼らのケイパビリティが10倍、20倍と増えていけば、もっと多くの課題が早く、大きく解決に向かうので、ポテンシャルがある団体さんの背中を押すというのはすごく大事だと感じます。
──そのためには集めたお金の使い道も鍵になりそうですね。
小谷:集まった原資がほとんど事業費になってしまう現状も、大きな問題だと捉えています。ファンドレイジングにおいて、集めた資金の使途を人件費などの組織の運営に充てるのはハードルが高いと感じる団体さんが多いです。だけど本当は、組織・基盤に投資しないと活動を続けられません。
ですからその必要性をデータとして可視化することも大事ですし、私たちが事例を作っていくことで世の中の認識をアップデートしていけたらと思います。
佐藤:そうですね。特にNPO領域では、寄付の取り扱い方に関して団体側だけでなく、支援者側にも理解をしていただく必要がありますね。
樋浦:「クラウドファンディングは単発で困ったときにやるもの」という認識も変えていきたいです。たしかに「困っているからやる」という分かりやすさが寄付へのハードルを低くする部分はあります。クラウドファンディングのゴールとしてはそれでも良いかもしれませんが、団体が成長やその先の価値提供の拡大を志すのであれば、お金のもらい方を間違えさせてはいけない。
そのためにはできるだけ団体が見ている未来を語ったほうがよいし、、それを信じてもらえたほうがいいのでより難しくはなりますが、READYFORでは「困った」ではなく「未来」を見せて集めましょうという働きかけをしています。
「寄付してよかった」の積み重ねで日本の寄付市場を変えていく
小谷:クラウドファンディングでも寄付でも「支援してよかった」と思わないと、次も支援しようとは思わない。「よかった」の中には、団体からちゃんとお礼が来たというのもあれば、ストレスなく決済できたといったツール面の体験も両方大切です。
コングラントさんはUIが素晴らしくて、団体さんも寄付者さんも使いやすいですよね。支援者さんも一回支援してよかったら次の団体にも寄付してもらいやすいと思います。
佐藤:どこに寄付すればいいか考えて寄付したけれども、どう使われたかよくわからないという寄付者の声は本当によく聞きますよね。せっかく寄付しても、その体験に満足できずに終わっちゃうと、どんどん市場が小さくなってしまう。
小谷:「寄付しなきゃよかったな」と思われたらすごくもったいない。このあとの寄付が全部なくなったということになるので、そうならないようにツールも体験ももっとバージョンアップしていかないといけません。たった一回の寄付体験の差が、日本の寄付市場の明暗を分けると思っていて。
どこかでいい思いをした支援者が、今度は自分たちのところに寄付してくれるかもしれない。そこを途絶えさせちゃいけないんです。だから私たちも団体さんに「お礼してください」ってすごい言うんです。あなたたちにとっても大事だし、他への循環が生まれないから。
アメリカなどでは「寄付するんだ」みたいなそもそものマインドがやっぱり違いますよね。日本でもそういった世の中の動きを作っていくことも大事なのではないでしょうか。
佐藤:「なぜ寄付者を大切に扱うのが大事なのか」を寄付市場全体の目線で伝えていくことも、僕たちのようなサポートをする団体の役割ですよね。業界全体で寄付者人口を増やすっていうのを全員でやりませんかというメッセージは、すごくいいと思います。一緒にチャレンジする仲間をもっと増やしていきたいですね。
READYFOR株式会社について
READYFOR株式会社は「みんなの想いを集め、社会を良くするお金の流れをつくる」というパーパスを掲げ、ファンドレイジング・コンサルティング事業・プログラム事業・フィランソロピー事業を運営しています。
会社名:READYFOR株式会社
代表者:米良はるか
所在地:東京都千代田区一番町8 住友不動産一番町ビル 7階
設立:2014年7月
資本金:1億円
会社ページURL:https://corp.readyfor.jp
コングラント株式会社について
コングラント株式会社は、ソーシャルセクターと企業向けに寄付決済を中心とする「寄付DXシステム」を提供しています。寄付募集・決済・CRMなどファンドレイジングに必要なすべてをワンストップで提供し、導入団体は2,800団体以上、寄付流通総額は80億円を突破しました。企業・従業員の寄付DXを推進する事業も展開し、大企業の人的資本に関連する開示項目の改善・発展に貢献しています。
会社名:コングラント株式会社
代表者:代表取締役CEO 佐藤 正隆
所在地:大阪府大阪市西区江戸堀1-22-17 江戸堀イーストビル6F
設立:2020年5月11日
資本金:1億円
会社ページURL:https://congrant.com/jp/