持続可能な社会の実現のためにAIが果たす役割とは?松尾豊氏基調講演録 #READFOYSDGsConferenceレポート
2019年7月29日、READYFORは法人と団体をマッチングする新事業「READYFOR SDGs」をスタートしました!
READYFOR SDGsは、持続可能な開発目標=SGDs達成に向けた取り組みをする企業のパートナーシップを推進し、「社会の共創」を作り出すものです。
READYFOR SDGsの発表に伴い、同日、「READYFOR SDGs Conference 〜SDGs時代の企業のあり方と社会との共創〜」を開催。
第二部では「オープンイノベーションによるSDGs経営」をテーマとして、東京大学大学院教授 松尾豊さんに登壇いただきました。講演のレポートをお届けします。
ディープラーニングの進化は社会にとって「眼の誕生」
私は人工知能(AI)を専門に研究しています。今日は人工知能を切り口に「そもそも人間とは何か、知能とは何か」を掘り下げ、それらの文脈でSDGsがどう関係するか、についてお話したいと思います。
今はディープランニングの技術が発展して、画像認識の技術がいろいろなところで実用化されています。高速かつ正確に画像に何が写っているかを読み取り、顔認証を使った警備などに応用可能になりました。
私はこれを「眼の誕生」と呼んでいます。かつて5億年程前に、生物の種の多様性が増大する「カンブリア爆発」が起きました。なぜ起こったのか?諸説ありますが、その一つが古生物学者アンドリュー・パーカーが提唱した「光スイッチ説」です。眼ができたから、生物がものを認識できるようなり、生存戦略が生まれ、種が多様化した、というものです。
「目の誕生」と同じようなことが機械やロボットにも起こりうると考えています。ディープラーニングで画像認識をすることは、コンピュータや機械が眼を持つことと同じではないか、と。
ものづくり×技術の連携で社会にイノベーションを起こす
コンピューターや機械における「目の誕生」、つまりAIの発展により、農業、食、建設など、人手がかかる労働集約型の産業は自動化します。よって、これから10年、20年かけて社会は大きく変化していくでしょう。
もちろん、それ以外の、介護、物流、製造など、人手がかかる産業でも自動化・機械化が進んでいきます。
例えばヨーロッパでは、すでにいちごの栽培を全自動化した事例があります。農場に機械を設置し、いちごがどこに実っているか、生育状況を機械が認識して自動で収穫する。同じく、トマトも画像認識の技術と機械を使って収穫できるようになりました。
AIの文脈では、ものづくりをする大企業とディープラーニングの技術を持ったベンチャーが連携することで、社会にイノベーションを起こそうと呼びかけています。
シンボル vs.パターン 人工知能の歴史
ここで、人工知能の歴史を振り返ってみたいと思います。
人工知能には二つの流派があります。一つがシンボル、もう一つがパターンです。人工知能の研究は1956年に始まりましたが、初期の研究はシンボルが主流でした。
シンボルとは、言い換えれば「言葉・記号」です。例えば「AならばBである」「BならばCである」といったことをコンピュータに覚えさせれば、賢くなるという研究でした。例えば「ソクラテスは人間、人間は死ぬ、ソクラテスは死ぬ」といった三段論法を機械を使って自動化する方法です。
一方、パターン派は「それは知能ではない」とシンボル派を否定します。ものを認識してうまく動く昆虫のようなロボットが必要だといい、身体性を重視した。代表的な研究者がロドニー・ブルックスです。お掃除ロボットのルンバを作った人でもあります。
このようにシンボルとパターンは常に対立しながら進んできた歴史があります。
人間の知能は「動物OS」と「言語アプリ」の2階建て構造
この二つはどのように整理できるでしょうか。実は、パターンの世界はもともと存在します。動物はパターンの世界にいます。我々人間のベースは動物です。その上にシンボルの処理を乗せている。つまり2階建て構造をしているというわけです。
わかりやすく言うと、物事を認識する動物OSの上に、言語アプリが乗っている状態です。動物OSは物事を認識すること。対象を認識し、敵だったら自分の身を守り、食料だったら捕獲して食べる。
この2階建て構造は人間だけが持つ機能です。言語アプリの部分が動物OSを呼び出す、つまり2階が1階を呼び出すということです。どうやって呼び出すか。言葉によって想像するんです。
例えば「あるところに猿がいて、リンゴの木に登りました」と聞くと、みなさんそれぞれ頭の中に絵が浮かびますよね。これは実はとてもすごいことなんです。進化の観点からは、想像している間に敵に襲われては大変ですから、目の前にないものを想像することはやらないほうがいい。ところが人間は、言語アプリが動物OSを駆動させて、想像させます。
なぜそうなったか?ユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』で書かれているように、人間は虚構を信じ、皆で共有するすることで集団としての生存力を高めた。生存率を上げるために、このようなかなり特殊な技術を人間は持つに至ったというわけです。
そこからやがて数学、物理、将棋などシンボルを操作する知能が発達し、科学技術を生み出していったと考えられます。将来これらすべてはアルゴリズムで発達していく。言葉の意味を理解できる人工知能は作れると思います。
人工知能は感情を持つのか?
人口知能の話をしていると「将来AIが人間を襲うのでは」と懸念する人もいます。ですが、これは少し違っていて、人間と知能の関係は鳥と飛行の関係に表すことができます。
知能とはいわば手段です。生き残りたいから知能を使う。人間という生命体は自己保存し、再生産する。そういう生き残りたい目的を持っています。それを達成するのが手段です。鳥も同じで、生き残るために飛ぶという手段を使う。どう使うかということが重要です。
「人工知能は感情を持つのか?」という疑問もありますが、持ちません。なぜなら感情は生命に由来するからです。
通常、生き物は自己複製するのに役立つものはうれしい、そうでないものは悲しいと感じるようにできています。おいしいと感じるのも栄養があるからです。そう感じる個体ほど生き残る確率が高かった。つまり、我々の感情は進化の仕組みでできあがったものです。
人間と動物はどう違うのか?人間は集団を作ることで生き残ってきました。人間は動物のように速く走れず、鋭い牙もありません。弱いので集団を作らなければいけなかった。それによって、困っている人がいると助けたくなる意識が芽生えた。そのほうが生き残る率が高くなるからです。反対に、ルールを守らない人に嫌悪感を持つようにもなった。
進化の過程で作られた本能や感情が、法律を形成したり、倫理観、社会規範を形成したりするようになった。これは倫理が先にあるわけではなく、生存本能や生命性が第一にあります。
人間らしい思考とは何か
世の中にはいろいろなAIがありますが、元をたどると生命の仕組みに行き着くか、知能の仕組みに行き着くかの2つに分類できます。
先ほど2階建て構造の話を挙げましたが、動物OSは生命に関わることで駆動されやすくなります。例えば、身が危険を感じた時や、おいしいもの発見した場合などです。
ところが、ダイエットをしようと思っていたのに食べ過ぎてしまうことがあります。これは動物OSによるもので、「食べ過ぎた」と反省するのは知能によるものです。
このように動物OSと言語アプリが乖離することが起きる。これが人間たるゆえんだと考えています。
人間は「どうありたいか」と想像することによって動物OSを起動します。もちろん、動物的な本能ではない目的設定も可能です。こういう目標を持とう、みんなで達成しよう、と行った抽象的なレイヤーでも行動できる。この思考性こそが人間らしさだと考えます。
「社会がこうあってほしいと思うのは、人間の根源的な欲求」
SDGsもAIと同様に、知能の仕組みに由来するものと、生命の仕組みに由来するものに分類できます。
例えば、知能の仕組みに由来するものは「Gender Equality」などです。昔の文化では、ある人を評価するときに、サンプルをたくさん取って評価するような社会的余裕がなかったので、非常に乱暴に男女それぞれに初期的な推測値を設定してしまっていた。それを「やめましょう」「たくさんサンプルをとってその人を評価しよう」という動きが出てきた。これは基本的に知能系の話です。
一方で、「No poverty」「Zero hunger」などは経済システムの結果としてもたらされるものと、倫理観とがありますが、基本的に生命系の話です。人間にとって、何を目的として設定すべきなのかという話です。
いずれにしても、これをどうやって社会的に解決していくかが重要です。人間の知能の本質は、言語アプリで抽象的な目標を設定して達成できる点。経済的なシステムから抜け落ちたことも、人間はゴールとして設定することもできる力をもっています。
社会がこうあってほしいと思うのは、人間の根源的な欲求であり願いです。個人が行動し、企業が支えながら、社会全体で作り上げていきたいと思います。
■登壇者プロフィール
松尾豊氏 東京大学大学院 教授
1997年 東京大学工学部電子情報工学科卒業。2002年 同大学院博士課程修了。博士(工学)。産業技術総合研究所研究員、スタンフォード大学客員研究員を経て、2007年より東京大学大学院工学系研究科准教授、2014年より特任准教授、2019年より教授。専門分野は、人工知能、ウェブマイニング、深層学習。2014年から2018年まで人工知能学会 倫理委員長。2017年より日本ディープラーニング協会理事長。
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私たちは、7月29日に発表したREADYFOR SDGs を通じて、企業、自治体、大学、個人・団体、様々なステークホルダーを結びつける架け橋の一つになれたらと思っています。一企業として、持続可能な社会の実現、SDGs達成に貢献できるように全力で取組んでいきます。
興味のある企業様はぜひREADYFORにお声がけください。団体・個人の方はぜひエントリーをお願いします。
また、READYFOR SDGsに関する記事も掲載中です。ぜひご覧ください。
text by 星久美子