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文武両道で箱根駅伝を目指す!筑波大学が「継続寄付」で育む応援の輪

2020年1月2日、筑波大学 陸上競技部(男子長距離チーム)は、悲願の箱根駅伝の舞台に立った。

箱根駅伝本戦の出場権をめぐる争いが年々激化する中、活動資金や設備環境がままならない国立大学が、26年ぶり61回目の切符を手に入れる道のりは容易いものではなかった。

「箱根駅伝出場は、クラウドファンディングがなかったらあり得なかった」

2015年からチームを率いる弘山勉駅伝監督はそう言い切る。

弘山監督は、プロジェクト実行者として、2016年より毎年クラウドファンディングを実施。箱根駅伝への切符を掴んだ2019年予選会後は1,500万を超える支援が集まった。

2022年からは「READYFOR 継続寄付」を活用し、支援者との長く深い関係性を育んでいる。

「継続寄付のサポーターがいなければ、私たちの活動は成り立ちません」──その言葉の背景を辿る。

文武両道で箱根駅伝を走る。「学生を育てて、勝つ」

2012年より始動した「筑波大学 箱根駅伝復活プロジェクト」。その目的は、箱根駅伝の出場を目指すことで、“スカラーアスリート”と称する理想の学生アスリートに育成することにある。

スカラーアスリートとは「高い競技能力と倫理観、スポーツ愛好精神に加え、高い教養と知的探究心をもって自身の能力開発を進め、将来的にはその経験を活かして社会に貢献できるような人材」を指す。

「競技者」である前に、大学で学ぶ「学生」であることを自覚し、文武両道で箱根駅伝に挑むことに意義を感じていると弘山監督は言う。

「大学スポーツはあくまで課外活動であり、人間教育の場です。箱根駅伝は、学生スポーツの最高峰として、私立大学の強豪校を中心に競争は激化し、相当な練習を積まなければ通用しない世界になっています。そこに青春時代のすべてを注ぐ意思と覚悟を持ちながら、決して学業を疎かにしないことを誓う学生たちが集う。筑波大学が、文武両道で箱根駅伝を目指すことを徹底しているのは、学生たちに宿る強い意志なのです」

筑波大学では、陸上競技部の合宿や試合があったとしても、所属する学群の集中講義やテストがあった場合、学業が優先される。

「全身全霊で挑んでもやっと、届くか届かないかの高いハードルに立ち向かうので、学生たちには、能力面でも精神面でも『成長』が求められるのは当然です。外国人留学生や競技力の高い高校生の獲得競争がなされる中、そうした獲得制度がない筑波大学は『学生を育てて、勝つ』ことに重きを置くしか戦う術はない」

そう話す姿は、負い目よりも、やりがいを感じているように見える。

筑波大学OBであり、学生時代に4年間箱根駅伝を走った弘山監督には強い想いがある。

「筑波大学は私の母校で、学生たちは後輩にあたります。自分が箱根駅伝を目指す活動を通じて成長ができたように、後輩である学生たちにも、その経験を通じて学び、社会で活躍できる人間になってほしいと思っています」

資金だけでなく、応援者を、愛を集めるクラウドファンディング

視座の高い目標と母校への愛をもって2015年に筑波大学陸上競技部の指導者に着任した弘山監督が、真っ先に直面したのは、十分な練習環境を整えるための「活動資金」の不足だった。

着任してすぐの箱根駅伝予選会で筑波大学の順位は22位。予選通過となる10位との差は約24分56秒。

「この弱小チームをどうやって箱根に連れていくか。正直、途方に暮れるというか、どうすればいいのか?と頭を抱えました。実力が伴わない中、国立大学には私立大学のような潤沢な活動資金はありません。よって質の高い練習ができる環境も整ってなければ、学生のコンディションを整えるサポート体制もない。すり減った靴で練習し故障を招く姿を目の当たりにして、活動を充実させるためには、活動資金を集める必要があると痛感しました」

着任した1年目、弘山監督は、OBや関係者の会合に自ら足を運んで支援を呼びかけ、資金集めに奔走した。

「でも本当は、資金集めに奪われる時間を、学生たちの始動に充てたい」

そんな願いを叶えたのが、クラウドファンディングの存在だった。

「活動資金を集めることを目的に始めたんですが、実際にやってみたら、プロジェクトを通して学生たちの想いを発信をすることで、筑波大学陸上競技部のことを知ってもらうきっかけにもなりました。

卒業生や現役の学生の親御さんなど、関係者が支援をすることは、どこの大学でもあることだと思うんです。でも、そうではない、直接関係はなくても、自分たちの想いに共感して応援してくれる人たちと関係性を築くことができることは、クラウドファンディングの一番の魅力だと思っています」

クラウドファンディングで集まった資金によって、学生宿舎を改修して用意できた食堂は、タイムリーな栄養補給を担う役割を果たし、電気治療器の導入によって筋腱の回復がなされるなど、待望のリカバリー体制が整い、トレーニングの強度を高めることができるようになった。

「活動の中身が充実していくのはもちろん、国立大学の本気の挑戦、学生たちを主体的に応援してくれる人がいるという、支援者の存在が何より励みになっています。やっぱりクラウドファンディングは資金だけでなく、応援者の想い、愛を集めているんだと思います」

支援者と長く深い関係性を育む「継続寄付」

2016年より毎年計6回のクラウドファンディングを実施した弘山監督は、その延長線上にある「RADYFOR 継続寄付」を2022年に開始。毎月サポートをしてくれる応援者を継続的に募っている。

「クラウドファンディングによって集まる支援者のみなさまは、私たちの活動において“なくてはならない存在”です。毎年プロジェクトを実行し、概要ページを作成していましたが、同じことを何度も書いていますし、幸いなことに継続して応援したいと申し出てくれる方も沢山いらっしゃいました。支援者の方々へ、内情がわかる情報を届けることで、長く深い関わりをつくっていきたい。それが継続寄付を始めた理由です」

2022年8月に継続寄付を開始してから3ヶ月、現在135人のマンスリーサポーターが日々の活動を支えている。

「継続寄付はある種の“ファンクラブ”のような位置付けで、応援してくれる方々としっかりコミュニケーションを取っていきたいと思っています。サポーターの方には、練習風景を撮影したショートムービーやインタビュー動画を送って、普段の活動の様子や学生の気持ちを定期的に伝えるようにしています。動画は活動そのものを表すので、学生たちが奮闘している姿がよりリアルに伝わると思っています。

学生が歯を食いしばって頑張っている姿を見て、応援してくれている方が自分も頑張ろうと思えるかもしれない。学生たちにとっても、自分たちの活動を支えつつ自分たちを心から応援してくれる存在は非常に励みになります。

応援というエネルギーをもらって、がんばって走って、その姿を見てもらう。その姿を見たサポーターの方々に何かを感じてもらう。そうやって影響し合うことで、お互いにとって良い関係性を育んでいけたらと思っています」

継続寄付を通じて、OBや選手の親御さんをはじめとする関係者、これまでクラウドファンディングで応援を寄せてくれた人がインフルエンサーとなって出来上がったサポーターとつながり。そこから、“ファンコミュニティ”が育ちつつある。

成長のプロセスを見守ってくれる人たちと、ともに進んでいく

2020年に走った箱根路で、沿道の箱根ファンから圧倒的な歓声を浴びた学生たちは、喜びと同時に戦いの厳しさも知った。2020年、2021年の予選会では、選手の怪我に泣き予選敗退。

「“結果がすべて”ではありますが、箱根駅伝を目指すプロセスで学生たちはそれぞれ成長しています。単発で支援をお願いすると、箱根駅伝の予選会のときだけ一生懸命情報発信をして、結果が伴わなければ、そこで関係性が途切れてしまうこともあると思うんです。でも、継続して支援をいただければ、普段の練習から学生たちの姿や声を届けることで、学生たちが成長しているプロセスを伝えることができる。

継続寄付のサポーターの方とは、結果が良かったときもダメだったときも、その苦楽を一緒に味わいながら、ともに箱根駅伝を目指して進んでいける。そういう応援者とつながれることが、継続寄付の価値だと思いますね」

継続寄付で集まった資金は、管理栄養士の人件費や食堂の維持費など学生のコンディションサポート、コーチングスタッフの旅費交通費など、日々の活動、箱根への道を支える重要な役割を果たす。

「2020年の箱根駅伝出場は、クラウドファンディングの支援者がいなければあり得なかったですし、継続寄付のサポーターがいなければ、挑戦的な練習が成り立たず、現在の私たちの活動レベルは低下してしまうと思います。

国立大学が文武両道で箱根駅伝を目指す。これまでもこれからも茨の道ではありますが、筑波大学の本気の挑戦に共感を寄せてくれる人たちと、ともに進んでいきたいです」

クラウドファンディング、継続寄付でつながるサポーターとともに、筑波大学 陸上駅伝部(男子長距離チーム)の箱根への挑戦は続く。

弘山勉さん
TSA (筑波大学スポーツアソシエーション)准教授 男子駅伝監督。24年間に渡る実業団チームでの経験をもとに、陸上競技部コーチ 兼 男子駅伝監督として、母校・筑波大学の箱根駅伝復活を目指す。

text by 徳 瑠里香


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