経産省在籍20年。民間から実現したい、次世代の公共の話。
行政府だけで、今起きている社会課題を解決するのは不可能だ。
およそ20年間、経済産業省で通商政策や原子力政策、デジタル庁の立ち上げなどに従事していた瀧島さんは、現在READYFORにて執行役員 VP of Social impact designとして活躍しています。
これまでさまざまな公のプロジェクトに携わり、社会貢献の実感を覚えながら、彼が感じていたのは“民間”から“公共”をつくることの可能性。個人の価値観が変化し、テクノロジーが進化するなか、行政府を介在しない形で、民間発で助け合う次世代の公共のつくり方の可能性を感じたと言います。
そんな瀧島さんは、READYFORでどのようなミッションのもと働いているのか。どんな世界を実現しようとしているのか。インタビューを行いました。
経産省に20年在籍。すべての仕事に社会への貢献実感を覚えた
──新卒より経産省で働いていた瀧島さん。就職の決め手は何だったのでしょう?
社会にインパクトのある仕事に関わりたいという思いはありました。でも、企業で働くことを通じて、それが社会に還元されていくということが、まだイメージできていなかったのですよね。そんなとき、大学で行われた説明会をきっかけに、経産省に魅力を感じて働くことになりました。
経産省では2~3年ごとに部署異動があります。入省してしばらくは、自分なりのフリーエージェントルールを設けて、「異動先でやりたいことがなければやめよう」と決めていました。ですが、どの仕事もとても面白く、社会への貢献実感があって。キャリアの中盤からは異動希望をすべて通してもらい、気付けば20年以上も在籍していました。恵まれていたと思います。
──実際に、どのような仕事に携わっていたのですか?
最初の配属は、原子力安全に関する部署でした。電力会社がどう発電所を運営すればリスクを最小限に抑えられるのか、基準を策定して審査や検査をし、住民の方々に対してその結果をご説明します。私が入省したときに新しくできた組織でしたので、ミッションやビジョンを定めて組織運営の在り方を議論したり、実際に地元で住民の方々への説明会の運営に携わったりするなど、末席からですが、大変勉強になりました。
米国への留学をはさんで、2008年のリーマンショック後に担当したのが通商政策です。アメリカ東海岸では、グローバル化のなかで分断が顕在化していた社会をオバマ元大統領が再び束ねていく期待がありました。他方で、BRICsなど新興国が台頭するなか、第二次世界大戦後の自由貿易体制が所与でなくなる可能性も感じていました。日本にとっても、海外との経済関係をどうデザインするかが鍵になると感じていました。
それまでの通商政策は、相手国の関税を下げて、自動車や家電製品などのプロダクトを海外に輸出することを主な政策の目的にしていました。これに対して、当時私たちが意図していたのは、単にものを売るだけでなく、鉄道や水道、発電所、工業団地などのインフラを作るソリューションビジネスを相手国と共に行うことを通じて、より深い二国間の政治経済関係を築き、来る世界の経済秩序の変化に備えることでした。
若手の課長補佐として、ボトムアップで政策見直しから議論し、前線でインドビジネスに関わるなど計5年間をにわたって通商政策を担当させてもらい、とても印象深いプロジェクトとなりました。
その後、中小企業金融政策や、経済産業省の予算のとりまとめに従事したのち、2015年から10年弱、デジタル関係の政策に携わりました。
──デジタル関係ではどのようなことをされていたんですか?
かつて活版印刷の登場が社会に大きなインパクトをもたらしたように、デジタル技術の進展によって、社会の在り方が変わると感じていました。
とはいえ、そんな大上段の話をしても徒手空拳になります。テクノロジーの変化によって社会が変わるわけですから、国がやるべき具体的な政策も変わります。社会変化にあわせて公共財を再定義して、ひとつひとつ取り組んでいきました。
例えば、サイバーセキュリティ対策。もともとインターネット空間はある種の民間の自治によって世界の秩序が保たれていました。サイバー空間とフィジカル空間がつながること、さらにはそれが外国の国家から攻撃にさらされる危険が生まれてきました。発電所や鉄道など民間の重要なインフラ設備に対して、海外の専門的な組織からサイバーアタックを受けては守る術がありませんので、政府が前に出ないといけない。そこで、こうした重要インフラ企業の実務家の方々を集めて研修施設を作り、ホワイトハッカーを雇って、実際に模擬プラントをハッキングするなど、具体的な手口と対策を自ら学ぶプログラムを作る政策に携わりました。
産業サイバーセキュリティセンター | IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
第一線のハッカーの方々と志を共にしてプロジェクトを進める過程はとても印象深かったです。
また、デジタル技術が進展する中で、ガバナンスはどう変わっていくのかということを議論する研究会を開催しました。その内容を踏まえて、元Wired編集長の若林恵さんがまとめられた「Next Generation Government 小さくて大きな政府の作り方」という書籍の企画に協力しました。本人確認などデジタル空間における公共財を提供することの重要性や、行政府は基盤を提供する一方、公共サービスは様々な主体が担うようになるという方向性を整理しました。ちょうどG7が日本で開催されるタイミングでもあり、海外の方々とも、こうしたガバナンスの在り方を議論しました。インドではIndia Stackと呼ばれるとても優れたデジタルインフラの仕組みがあるのですが、バンガロールでispirtというシビックテックの団体から、官民連携でこうしたデジタル公共財をつくっているお話を聞いたのが大変参考になりました。
そして、コロナ禍のなか、ワクチン接種や給付など、行政府が国民のみなさまひとりひとりにサービスを届けるデリバリーの難しさが顕在化しました。これを踏まえて、デジタル庁がつくられることになったのですが、2021年から2024年にかけて、デジタル庁参事官、デジタル行財政改革会議事務局参事官として、組織の運営や、教育や介護など公共サービスのデジタル化・より包摂的なサービスへの改善に関わってきました。
日本の存続に必要な「自らをガバナンスできるメディア」を求めてREADYFORへ
──どの仕事に対しても熱意を持って取り組まれていた様子が伝わってきます。そんな瀧島さんが、なぜREADYFORへの入社を決めたのでしょうか?
これまでさまざまな仕事をやってきたのですが、「社会の持続可能性」について向き合いたいと思いました。人口が減り、財政制約が高まり、経済力も相対的に落ちていきかねないなかで、どうしたら社会が分裂しないで、しかも前向きなチャレンジとしてワクワクしながらやっていけるんだろうと。
──国では取り組みが進んでいないのでしょうか。
もちろん、国もさまざまな形で社会の持続可能性の維持のために取り組んでいます。高齢化が進む中でも医療へのアクセスのしやすさは世界でも最高水準を保っているし、年金もまだまだ充実している。地方創生にも多額の投資をしてきているし、子育て関連の制度、政策も充実してきています。私が前職で取り組んでいた「デジタル行財政改革」も、デジタル技術を使うことで、教育や介護などの公共サービスの生産性を高めて、持続可能性を維持しようという試みでした。
──なるほど。それでは何が問題なのでしょうか。
行政府が提供するサービスは、多くの人に同じものを提供するのが原則になるのでどうしても画一的になってしまいます。給食に例えると、全員に同じものしか出せないなかでは、「カレーがいい」「シチューがいい」という論争が起こってしまいますよね。でも、メニューを増やすために給食費を上げても、自分たちのお金の使い道が明確に見えないから、自分が払っているよりもサービスが少なく見えてしまう。そこで、「なんでこんなに払っているのにメニューが2種類しかないうえ、デザートが付かないの?」なんて文句が生まれてしまう状況なんです。
この背景のひとつには、人口の問題があります。戦後の高度成長期は、団塊の世代が働き手の中心にいましたから税金を納める人数が多かったわけですよね。したがって医療費を安くしたり、年金を上げたり、道路を新しく整備したりと、政府からのサービスはどんどんと充実し、国民の期待値に応えられてきたのだと思います。納める人の人数と税金の使い道とのバランスが取れていたからです。
それが、今は少子高齢化によって生産年齢人口が減り、だんだんと財政制約が高まってくるのでこれまで築き上げられた国民の期待値に対してできることが減ってしまった。さらに、社会の成熟とともに価値観も多様になってきています。デジタルメディアの進展もあり、現代は国民一人ひとりが声を上げられるようになったことで、LGBTQや不登校の子どもへのケアなど、よりきめ細かなニーズが顕在化されてきています。昔の給食であれば、つべこべ言わないで食べろ!ということで良かったのでしょうが、そういった画一的なサービスでは受け入れられなくなってきていますよね。
こうした画一的なサービスしか提供できない行政府という組織の制約、そして限られた財政という制約のなかで、ひとりひとりの身近な「小さな困った」、というニーズを行政が機動的に解決することは難しい。公共の担い手は、行政府だけではなく、市民や個人で助け合うことも含めて考えるフェーズが来ている。そう感じていたなかで、10年にわたってクラウドファンディングビジネスを通じて草の根の活動を担ってきたREADYFORは、日本社会全体にとっても、非常に意義がある、魅力的なチャレンジをしていると映りました。
──20年間国民のために政策を練ってきた瀧島さんだからこそ、民間に行き着いたんですね。
社会課題は様々ありますが、ボトムアップだからこそ解決できることがある。行政府ができないところ、機動的に動きにくいところは、自分たちで協力してやることで、みんなで社会をまわしていけるような環境を整えたい。もともと日本では、江戸時代に町火消なんてものもあったし、山林を入会地として管理をしてきた歴史もあります。日本社会とは相性も良いと思うんですよね。
そんなことを考えていたのですが、同じような問題意識でREADYFORの代表である米良が言っていて。お会いしてお話を聞いてみると、全社として掲げているビジョンやバリューの方向性が一致しました。そのうえ、働いている社員の皆さんの感じがとてもポップかつ、現場に足がついている感じがとても良くて、素敵な会社だと思いました。そんな仲間と一緒にやってみたいと感じたことが、入社の決め手になりました。
小さな「意思」を応援するメディアから、社会に大きな変革をもたらすメディアへ
──実際に入社してみて、どのような雰囲気だと感じましたか?
スタートアップということもあり、全員が同じ方向に向かっている良さを感じています。社会のために尽力したいと願う人が多いからこそ、本当にいい人が集まっていますね。
それに、こんなにも生の課題が転がっている場所はあまりないと思います。クラウドファンディングのプラットフォーム運営を通じて、困っている話が一次情報として年間何万件も入ってきて、それに対して何かアクションをしたい人がいる。これらの具体的なケースを抽象化してみると、今世の中でリアルに何が起きているのかが浮かび上がってきます。これまでとは違った視点で社会課題に触れている感覚がありますね。
──瀧島さんのREADYFORにおけるミッションについて教えてください。
これまで、READYFORは、きめ細かな身の回りの「なんとかしたい」や「支えたい」などの個人の意思を、クラウドファンディングを通じて応援してきました。そこからさらに、富裕層の資産運用からの寄付であったり、遺贈であったり、寄付のチャネルがより広がってきていることで、寄付額の桁が大きく変わってきています。それに伴い、まとまった大きな金額をどういう思想で何に配分していくのか、全体のプロジェクトのポートフォリオを整理したいと思っています。社会課題はあまたあるなかで、READYFORがトライしていくトピックは何なのか設定していきたい。
そして、そのトピックのなかで、解くべきイシューが何なのかプログラムを設計していく。例えば、アニマルウェルフェアというトピックで考えると、これまでは保護猫を助ける取り組みを支援するというクラウドファンディングのプロジェクトがありました。もちろん、それによって解決できる現場の問題はあるけれど、そういった問題が起きている背景にはいったい何があるのか、何を変えると真の意味で問題全体が解決するのか、というところまで問題を抽象化して、解くべきイシューを特定したい。
雑誌に例えるなら、ひとつひとつの取材からそれを構造的に整理して何を特集するのか、どんな切り口にしたらより根源的なアプローチになるのか、具体と抽象を組み合わせて示したい。そういう意味で、READYFORを社会課題と人々の気持ち・関心をやりとりするメディアとしてもっと発展させていきたい。そうしたやりとり、試行錯誤を通じて重層的な社会の意思が形成されていくものだと思います。
加えて、寄付をしていただいた方に対して、「貢献して良かった」「もっと貢献したい」と感じてもらうためのアカウンタビリティの設計が必要だと考えています。支援額が大きくなればなるほど、透明性の高いコミュニケーションデザインが必須だと思っています。寄付の結果、実現した結果が何なのかを率直にお伝えして、それがまた次の寄付や他の方々からの寄付につながるとよいなと。
──これらのミッションに対して、現在どのようなアクションを取られていますか?
2024年8月にジョインして半年ほどになります。社員のみなさまと1on1したり、いくつかのクラウドファンディングのプロジェクト組成にも一緒に混ぜてもらったりしました。街頭募金を一緒にやったり(ビラを受け取っていただくだけでも難しい!)、徳島や能登の現場にも出向いたりして勉強してきました。
また、各省にいる知人だったり、海外の方などともお話をして、将来から逆算してREADYFORが実現すべき社会的価値は何なのか議論してきました。大きなインパクトをもたらす社会課題の方向性、柱のイメージの共有がうまくできれば、これまでのREADYFORの現場の知見と組み合わさってよい成果に結びついていけそうです。
社会課題とソリューションに対して寄付をいただき、トライの数を増やして、プラグマティックにひとつひとつ世の中が良くなっていく。そんな社会課題と世の中の人々とのあいだにあるメディアとして、好循環を作っていきたいと思います。