スポーツに関わる人の「熱量を可視化」し、つなげる。ムーブメントを起こす“スポーツリードキュレーター”の原点
Jリーグクラブ、バスケットボール、野球、ラグビー、陸上、ラクロス、フェンシング……メジャーからマイナーまで、さまざまなスポーツのクラウドファンディングを成功に導いてきたREADYFOR。スポーツ関連のクラウドファンディングにおけるGMV(流通取引総額)は業界トップを誇ります。
インタビュー連載「ムーブメントの裏側」第四弾では、そんなREADYFORのスポーツ領域を率いるリードキュレーターの宇野大至さんが登場。
宇野さんの仕事にフォーカスしながら、コロナ禍で打撃を受けたスポーツ界が抱える課題や、クラウドファンディングとの関係性の変化、リードキュレーターとしてスポーツ界を盛りあげていく醍醐味に迫ります。
入社前は“やりたいこと”が明確じゃなかった
── 宇野さんは学生時代からREADYFORでインターンとして働いていたそうですね。そのきっかけから教えていただけますか。
大学生のときにお世話になっていた部活の先輩が、当社COOの樋浦と知り合いで。そのつながりで「就職活動をしているのなら、READYFORでインターンをしてみない?」と樋浦に誘ってもらったのがきっかけです。
── インターンからそのまま入社を決めたんですよね。他社は検討しなかったのですか?
はい。半年間インターンを経験して、そのまま新卒社員として入社しました。正直なところ、就職活動中にすごくやりたいと思えることがあったわけではなかったんです。だからタイミング的にご縁があって、僕を必要としてくれたREADYFORに、そのままお世話になろうと。樋浦さんに拾ってもらったご恩を返したい。そのために頑張ろうという気持ちでした。
「スポーツのクラウドファンディングならREADYFOR」とまっさきに浮かぶ存在をめざして
── 宇野さんは現在、スポーツ領域のリードキュレーターとして活躍されています。リードキュレーターとは、どんな仕事なのでしょう?
スポーツリードキュレーターが担う役割って、いわば「スポーツのクラウドファンディングといえばREADYFOR」とまっさきに思ってもらえる状態をつくることなんです。そのための戦略立案から営業活動、メンバーのマネジメントまで幅広い仕事を担っています。
── READYFOR noteでもスポーツ関連のクラウドファンディング事例を紹介していますが、どんどんプロジェクトの数が増えていますよね。なにか秘策があるのでしょうか。
僕としては、現状に満足しているわけではありません。もっともっと増やしていける、と思っています。ただ、順調にプロジェクト数を増やせているとしたら、スポーツ業界でのつながりを、地道につくりつづけてきた結果なのかなと思っています。
スポーツの世界って実は、狭くて、深いコミュニティなんですね。団体や競技をこえて、個人がどこかしらでつながっていたりする。ですから一つひとつのつながりを誠実に大切に、少しずつ関係性を深めて、その輪が徐々に広がるように取り組んできました。本当に地道に、というひと言に尽きます。
── これだけスポーツ領域のクラウドファンディングが盛りあがっているのは、一つひとつのプロジェクトでしっかりと成果を出しているからこそ、ともいえますよね。
そうですね。スポーツ領域のクラウドファンディングにおいてREADYFORは、GMVといわれる流通取引総額が業界トップなんです。いかにプロジェクトを増やしていくかと同時に、一つひとつの案件を着実に、達成へと導くことにこだわっています。
── プロジェクトを成功に導くためにリードキュレーターとして大切にしていることは?
クラウドファンディングはあくまでも手段。たとえば目の前のスポーツ団体が、今どのような課題を抱えているのか。最も取り組むべき挑戦とは何なのか。ここを出発点に考えることが大事だと思っていて。つまり、「スポーツ団体が抱えている課題やビジョン」と「クラウドファンディング」がしっかりと紐づけられているかどうかを大切にしているんです。これらがリンクしていれば、実行者側の熱量は高まります。取り組む姿勢や優先度も変わります。ひいてはそれが、クラウドファンディングの成功にもつながっていくんです。
反対に、もしも「今回はクラウドファンディングが最適な手段ではない」と判断したら、正直にそうお伝えします。クラウドファンディングをやることが目的ではなくて、クラウドファンディングを通して何を成し遂げたいのかが重要なんです。
コロナ禍で変化する「スポーツとクラウドファンディング」の関係性
── コロナ禍で、スポーツ団体や組織が抱える課題も変化していますか。
スポーツは、コロナの影響で大打撃を受けた業界の一つです。競技や試合自体ができなくなり、チケット収入やスポンサー収入が激減。そこでクラブや団体の存続のために運営資金を求めるクラウドファンディングが活発になりました。
コロナ以前も、東京ヴェルディさんが創立50周年記念誌を制作するための資金を募ったり、経営難のクラブがSOSを出したりと、クラウドファンディングの事例がなかったわけではありません。ただ、ごく一部だったんです。スポーツ団体側には、「クラウドファンディングで助けを求めるのは最終手段」というような暗黙のイメージがあった気がします。
── それがコロナ禍になって、クラウドファンディングへのハードルが下がったわけですね?
はい。一度目の緊急事態宣言が出たあと、先陣を切って鹿島アントラーズさんがクラウドファンディングを行ったことで流れが変わりました。資金調達の手段としての認知度が一気にあがりましたし、クラウドファンディングがネガティブなものではなくなった。「あのビッグクラブがやるのであれば、うちも」という空気感が生まれた感覚がありました。
そして2021年前半くらいからでしょうか。クラウドファンディングの可能性がさらに広がって、資金調達の手段だけではなく、「ファンとのコミュティづくり」や「社会貢献」「地域とのつながり」のためにREADYFORを活用する団体が増えていきました。
── 試合数や来場者数が制限され、ファンや地域とのつながりをどうつくっていくかに頭を悩ませていたクラブは多いですよね。
そうなんです。川崎フロンターレさんが2020シーズンのリーグ優勝を記念して行った「恩返しプロジェクト」は象徴的でした。
クラウドファンディングで集まった支援金をホームタウンである川崎市の「新型コロナウイルス感染症への対応に関する寄附金」に寄附すると発表したんです。このクラウドファンディングは、川崎フロンターレさんの収益にはなりません。それでも、「自分たちより苦しい人たちがたくさんいる。今こそ、フロンターレができることをしたい」と。このプロジェクトは、川崎フロンターレが「市民・地域に愛され、親しまれ、誇りとなるクラブ」を標榜している証にもなったと感じます。
また2021年後半からは、ウィズコロナを見据えて、中長期的な視野で「これからファンと共にどう歩んでいくのか」を具現化するようなプロジェクトが増えていきました。
たとえば鹿島アントラーズさんが行ったクラウドファンディングの第二弾、「アントラーズの未来をみんなで」プロジェクト。クラブの未来を切り拓いていくために、アカデミー専用のグラウンドを建設したいという内容でした。目的としては資金調達のように見えますが、「アントラーズの未来をファンと一緒につくっていきたい」というのが本来の趣旨で、濃い支援者が集まり、熱量の高い、大きなムーブメントになりました。
── このコロナ禍で、「スポーツ×クラウドファンディング」の可能性がぐっと広がった印象があります。
そうですね。ただ、まだまだ「スポーツ×クラウドファンディング」の新しい可能性を引き出していけるはずです。
クラウドファンディングはよく「善意の可視化」と言われることがありますが、僕は、スポーツにおいては「熱量の可視化」だと思っています。スポーツ団体や競技に関わる人の熱量が見えることで、その熱がファンに伝播したり、地域に広がったり。熱量を引き出して、可視化し、ムーブメントを起こしていくのが、スポーツリードキュレーターの仕事なのだと考えているんです。
READYFORで見つけた、僕が本当に“やりたかったこと”
── これから目指したいこと、挑戦したいことについて教えてください。
高い理想を掲げるとすれば、ゆくゆくは一つひとつのプロジェクトのみならず、READYFORのスポーツコミュニティをつくりたいです。READYFORの最大の特徴は寄付性が高いこと。濃いファンによる濃いつながりの中で、想いの乗ったお金が流れて、スポーツ全体を盛り上げていく。そんなコミュニティをつくれたら最高ですね。やっぱりクラウドファンディングは手段でしかなくて。最終的にはスポーツ界が盛り上がることがいちばんなんです。
── 最後の質問です。宇野さんにとって、READYFORのスポーツリードキュレーターとは?
ひと言でいうと、スポーツに恩返しする手段、でしょうか。
僕自身もスポーツからいろいろなことを学び、成長させてもらいました。高校までずっとサッカーを、大学以降はラクロスをしていて、いわばスポーツに生かされてきた人間なんです。
コロナ禍になり、「それは、不要不急か?」という議論がよく持ち上がりました。たしかにスポーツって不要不急なものです。でも人が健康に、心豊かに、幸せに生きていくために欠かせないものだと、僕は思っています。スポーツほど人が熱くなれるもの、情熱を注げるもの、まわりを熱くさせるものってないなって。
就職活動中に、とくにやりたいことがなかった僕が、ありがたいことにREADYFORでスポーツにかかわる仕事を任せてもらえた。「スポーツに恩返しすること」が僕のやりたいことだと、今は、胸を張って言えます。
スポーツキュレーターとして、スポーツをする人、スポーツを支える人、スポーツを愛する人の熱量を可視化し、つないでいく役割を担えたら、本望です。
text by 猪俣奈央子 edit by 徳瑠里香