社会に必要とされる企業であり続けるために。アサヒグループがコロナ基金で従業員寄付を募った理由
国内クラウドファンディング史上最高額、5億円を達成した「新型コロナウイルス感染症:拡大防止活動基金」(以下、コロナ基金)。
4月3日に立ち上がったコロナ基金は、日本での新型コロナウイルス感染症の拡大防止に取り組む医療機関や企業・団体等に対して、必要な活動費用を支援するクラウドファンディングです。
立ち上げからわずか55日にして史上最多の寄付金が集まった背景には、多くの個人・団体・企業からの応援があります。
アサヒグループホールディングス株式会社も、応援を寄せてくれた企業のひとつ。同社では5月末から6月頭にかけグループ全体で従業員寄付を立ち上げ、寄せられた金額と同額を会社が上乗せしコロナ基金へ寄付する取り組みを実施しました。
▼アサヒグループホールディングス株式会社 「新型コロナウイルス感染症:拡大防止活動基金」への寄付について
この取り組みを中心となって動かしたアサヒグループホールディングス株式会社事業企画部・サステナビリティグループの染谷真央さんに、背景にある想いや実際に実施して見えてきた今後の指針について、聞きました。
アサヒグループができることからはじめたコロナ禍での支援
――はじめに、染谷さんの仕事内容を教えていただけますか。
アサヒグループホールディングスの事業企画部・サステナビリティグループで、主に国内のサステナビリティ推進に取り組む活動をしています。今年の2月からは、新型コロナ対策の支援窓口も担当しています。
――アサヒさんは、今回のコロナ禍において具体的にどのような取り組みをされてきたのでしょう。
まず第一弾として、子どもたちへの支援を行いました。2月27日に全国すべての小・中・高校が休校になると発表されたあと、アマノフーズのフリーズドライのおみそ汁、カルピスなどの飲み物やお菓子を寄付しました。全国10都道府県、規模にして1億5000万円相当になります。
コロナ禍で飲食店の営業自粛が求められるなか、こどもの居場所を守るために、お弁当の配達など独自の支援に切り替えた子ども食堂もありました。学校がない、家庭に居場所もない。そうした子どもたちの安否確認も含めて、テイクアウトで食事を提供していた場所もあったと聞いています。その際に、ジュースやお菓子を一緒に渡してもらいました。
(子どもたちからのメッセージ)
次に第二弾として、4月に医療従事者への支援を実施しました。全国の病院208か所・約11万8千人を対象に、アサヒのクリーム玄米ブランやカルピスを寄付しました。
――厳しい状況下での迅速な支援、どのように実現させていったのでしょうか。
全社テレワークになるなど、弊社としても前代未聞の状況でしたが、オンラインでチームでアイディアを出し合いながら進めました。以前から事業活動を通じてつながりのあるネットワークを通じて各方面にご相談し、第一弾ではこども食堂サポートセンター様と、第二弾では企業食堂など給食事業を展開するシダックス株式会社様と連携させていただきました。アサヒ飲料(株)は、以前からこども食堂への支援活動を継続して行っていましたし、シダックス様は事業でのお取引関係があります。社外のパートナーと連携しながら各支援団体さんにご協力いただき実現することができました。
社員一人ひとりが社会に関与するきっかけをつくりたい
――アサヒグループの全従業員を対象に、READYFORのコロナ基金への寄付を募っていただきました。従業員寄付をはじめようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。
大きな理由は、社員個人の参加を促すような取り組みを行いたかったことですね。サステナビリティグループに所属する身として、社員一人ひとりが、自分事として行動する意識を持ってもらえたらと考えていました。
事業を通じた持続的発展という観点で、消毒用アルコールを医療機関に寄付するといった支援もはじめています。ただ、既存の事業の範囲を超えてから社会貢献へと大きく舵を切っていくのは、正直なところなかなか難しい。その殻を破っていくためには社員一人ひとりが日頃から社会における会社の価値を意識できているかが大きく影響すると思っています。
会社が寄付をして終わりではなく、社員一人ひとりが自ら社会に関与する取り組みをしたい。個人として何ができるかを考える機会を得ることで、事業を通じて社会に貢献する活動へのステップも踏みやすくなるのではないか。そういった想いから、従業員寄付へと動き出したのです。
――その手段としてREADYFORのコロナ基金を選んだのは、なぜでしょうか。
検討していた4月は全社テレワーク体制でしたので、インターネットで寄付金を集められることが前提条件でした。
ネットで寄付金を従業員に募ること自体が初めてなので、社内に仕組みはなく、ゼロから築き上げる時間もない。パートナーを探ししていたところ、READYFORさんがコロナ基金を立ち上げたと知りました。
(左:アサヒグループ染谷さん、聞き手はREADYFORコロナ基金事務局の右上:三倉と、右下:堤)
さまざまな企業・団体を検討し、最終的に決め手となったのは、基金の成り立ちが信頼できること、マッチングギフト※があること、寄付金の使い道がしっかりしていることの3点ですね。窓口からREADYFORの三倉さんにご相談させていただいて、方法を具体的にご提案いただくなど、やりたいことをスピード感を持って実現していただけそうだったことも大きいです。
※マッチングギフト……企業や団体が個人から義援金などの寄付を募る際に、集まった金額に一定比率の上乗せをしてから、総額を寄付する方法のこと。
社会に必要とされる企業であるために支援を。従業員寄付を後押ししたトップのメッセージ
――従業員寄付を立ち上げて、社内からの反応はいかがでしたか?
「会社が従業員寄付をやってくれてありがたい」という声をいただきました。支援に興味はあるけれど何をするか迷っていた、何をすればいいかわからないという社員も多くいたんですね。面識のない社員から「協力しました」、「周りに声かけてみます」と連絡をもらったことも励みになりました。
――社内でこの前例のない取り組みを動かすうえで、ハードルはありましたか?
会社の承諾を得るため、上層部の会議にかけなければいけません。その点は少しハードルを感じました。でも実際には、直属の上司も上層部も含め、社内の理解を得ることができ、比較的スムーズに動けました。
当社は、代表自ら「いまこそ支援を続けなければ、社会から必要とされる存在であり続けられない」とメッセージを発しています。
直属の上司も「サステナビリティのように社会的貢献で経済的価値を上げるといっても、日頃の活動がなければいざというときに動けないことを痛感した」と言って、前向きに後押ししてくれました。
――”5月25日から6月8日まで”という限られたスケジュールのなかで、多くの従業員に寄付に参加してもらうために工夫したことはありますか?
短期間でしたので、とにかく情報が目に触れることを第一に発信方法を複数用意しました。
具体的には社内のポータルサイトでの告知に加え、人事部がまとめている新型コロナ対策関連のメルマガで配信したり、労働組合にも協力してもらい全組合員むけに特集を組んで発信したり、積極的な情報提供を行いました。
ほかにも、いまあるサステナビリティの取り組みとのつながりも活用しました。当社では、「アサヒエコマイレージ」という環境保全・美化活動をポイント化するシステムを導入しています。従業員が行ったボランティア活動などを、事業場ごとに登録できる仕組みです。年間で貯まったポイントは全額換算され、事業場が選んだ社会貢献の活動に支援できます。
今回の従業員寄付も、エコマイレージの対象としました。日頃から支援活動に取り組んでいる社員は、今回も積極的に寄付を行っていた印象がありますね。
従業員寄付をスタートラインに、さらなる支援を続けていく
――従業員寄付を行ってみて、ご感想をお聞かせください。
まずは第一歩を踏み出せたという感じですね。新型コロナの状況が今後どうなるか、誰にもわかりません。社内体制として、ネットを利用した寄付金を新たにはじめられたのはよかったと思います。今後も積極的に社員の貢献活動を応援し、会社全体での意識醸成につなげていきたいと考えています。
担当者として実感したのは、組織でなにができるかを議論するだけでなく、同時に走り出すスピード感の大切さです。物資支援でも、前例やルートがない状態でとにかく「一刻も早く支援をお届けしたい」という想いだけで動いていました。すると不思議と情報が集まってきます。賛同してくださる人も増え、実現可能性が広がっていきました。
――社内外で同じ想いを持っている人とつながっていったのですね。
行動していると、会社に足りないピースが見えてきます。
これまで日本では、事業の持続的発展といったサステナビリティの取り組みは企業の主要な議題には上がりづらい傾向があったと感じます。
ところが新型コロナの影響を受けて、売上で財務面の健全化を計るだけではなくて、社会から本当に必要とされる企業でなければ存続するのが難しいと、多くの企業が痛感しています。社会から信頼を得ることは、良い商品を作ったり物やサービスを安く早くお届けするだけでは足りないのかなと。
従業員寄付のような、人が貢献する活動を通じて、社会の中で社員一人ひとりが自分にできることを考えるきっかけとなる活動を積み上げること。合わせて事業を通じた貢献をすること。その双方があってサステナビリティが発展し、会社が社会から必要とされ、評価を得ていく。その重要性に、会社全体として気づいてきた感じがしますね。
――前代未聞の状況を私たち社会全体が経験したことで、企業の価値を考え直すタイミングを迎えているのかもしれませんね。最後に、これからアサヒグループや染谷さんご自身が考えているサステナビリティの取り組みを教えていただけますか。
新型コロナの影響が長期化することに視点を移し、私たちの事業に近しい分野で「新しい生活様式下」での生活を豊かにするような応援ができたらと思っています。
商品の寄付だけではなく、事業が持つ技術を生かしニューノーマルといわれる時代になにができるのか。多くの社員が考え、動き出しています。
閉塞感のようなものが残るなかでも、事業が新しい支援を生み出すことで、社員一人ひとりが未来に目を向けていくきっかけになれば。「大変」だけではなく、社会に対して私たちはなにができるのか。足元から、個人、そして会社の目線を変える取り組みを続けていきたいです。
text by サトウカエデ