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医療情報を広く正確に伝えるために。クラウドファンディングはどう活用できる? 稲葉可奈子先生×米良はるか

病院の設備を新しくしたい。基礎研究や臨床研究をより発展させたい。医療に関する啓発活動をしたい。

医療の現場において、それぞれの想いをかたちにするために、クラウドファンディングの活用が広がっています。

READYFORでは、これまで137件の医療関連のプロジェクトが実行され、合計18億円以上の想いの乗ったお金が集っています。そして今も、さまざまな医療系プロジェクトが実行されています。

※「医療クラウドファンディング」は、READYFORの定義で「公的医療機関・大学病院・医療法人が行うクラウドファンディング」とします。

子宮頸がん予防のためのHPVワクチンの情報を広く発信するために立ち上がったプロジェクト" 「がん」を予防するワクチンがあることを、みんなの当たり前に!"もそのひとつ。

資金を集め、医療情報を広く正確に届けていくための手段として、クラウドファンディングにはどんな可能性があるのかーー。

上記プロジェクトの実行者である「みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト」代表で産婦人科医の稲葉可奈子先生と、READYFOR CEO米良はるかが語り合いました。

がんを予防できるHPVワクチンの存在を多くの人に知ってもらいたい

ー稲葉先生は2017年より、子宮頚がんの予防とHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチン接種の啓発活動をなされています。その背景にはどんな想いがあるのでしょうか?

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(稲葉可奈子先生)

稲葉: HPVは、女性特有の子宮頸がんや男性に多い中咽頭がんなどさまざまな病気を引き起こすウイルスです。HPVワクチンの定期接種をしていれば予防ができるにもかかわらず、接種を検討するために必要な情報もお知らせも届かず、無料で接種できる期間を逃している人がほとんどです。

HPVワクチンの接種率が1%未満に低下したのは2013年。接種した人たちに副反応が出たのではないかと報じられたことをきっかけに厚生労働省がHPVワクチンの積極的勧奨を差し控えたため、接種する人が激減しました。その後、科学的な検証がなされて安全性が確認された後も、厚生労働省の積極的推奨は差し控えられまま、接種率低迷が続いています。

学術団体が声明を出したり厚労省に要望を出しても状況は変わらず、一人の産婦人科医として素朴に「このまま黙って見過ごすことはできない。自分にできることから始めよう」と思ったんですね。

病院で患者さん一人ひとりに伝えていくことはできるけれど、1対1でしか伝えられないので、もっと多くに人により広く伝えたいと思ったのが、啓発活動を始めたきっかけです。

ー具体的にはどんな活動をされてきたのですか?

稲葉: 私は一ドクターでなんの発信力もなく、どうしたものかと考えていた時に偶然、堀江貴文さんが理事を務める予防医学普及協会が予防できる病気の啓発プロジェクトを行っているのを知り、ホームページのお問合せフォームから問い合わせて、お力を借りて。そこからSNSで発信をしたりイベントを開催したりしてきました。

その一環で、一人でも多くの人に知ってもらいたいと1回目のクラウドファンディング“「子宮頸がん」で亡くなり子宮を失う女性を一人でも減らしたい。”に挑戦したんです。おかげさまで目標金額も達成し、より多くの人が子宮頸がんとHPVワクチンについて知るきっかけになったと思っています。

ー今回、2度目のクラウドファンディングに挑戦された理由は?

稲葉: 前回のクラウドファンディングやその後の活動の効果もあって、少しずつ、少なくともインターネット上では以前よりはより多くの人に正確な情報を届けられるようになったと実感しています。ただ一方で、まだまだ興味関心のある人にしか届いていない、とも感じています。

HPVワクチンは定期予防接種なので、対象年齢の子はだれでも無料で接種する権利があります。ところが、日本の現状は、正確な情報が届いている人自体がほんの一握り。このままだと情報格差が健康格差につながってしまいます。もっとより広く深く届けていくためにはどうしたらよいか、今回は行動科学の専門家にもチームに入ってもらい、啓発アプローチの方法を考えています。

厚労省の調査によると、予防接種について人が一番参考するのは「かかりつけ医」です。草の根的な活動がとにかく重要なわけですが、忙しい診療の合間になかなか時間がとれないのが実際のところです。かかりつけ医が限られた時間でHPVワクチンのことを伝えるサポートとなるようなツールや仕掛けをつくったり、また、動画配信やオフラインのイベントを開催する準備を進めています。そのためには有志のボランティアだけでは限界があるので、今回は資金集めにも重きをおいて、目標金額を設定させてもらいました。

このプロジェクトがどこまで広く世の中からの共感を得られるか未知数でもあったので、ファーストゴールは現実的な目標として400万円に設定しました。ファーストゴールを達成しないことにはプロジェクトが成立しませんので。開始してみると予想以上の反響と共感とご支援を得ることができ、セカンドゴールの800万円、サードゴールの1300万円も達成することができました。各ゴールごとに、行う予定の活動を細かく明記し、頂いたご支援をしっかり活用することが支援者さんに伝わるような工夫をしました。

集まったご支援次第で活動の幅が左右されますので、1人でも多くの方にHPVについての情報を届けるために、現在はファイナルゴールとして2500万円を目指しています。

医療分野の活動の幅を広げるクラウドファンディング

ークラウドファンディングをやるにあたってREADYFORを選んだ理由はありますか?

稲葉: READYFORさんは医療系のプロジェクト事例が多く、圧倒的に医療に強い。ゆえに、医療分野に関心がある支援者さんが集まっているのではないかと思いました。あとは、前回もREADYFORさんでクラウドファンディングをやらせてもらった経験から、しっかりサポートしていただいた信頼感があります。

米良: おっしゃるように、医療系の活動をされている皆様は、9割以上READYFORを選んでいただいています。また、READYFORで実施された医療系のクラウドファンディングのプロジェクトは、達成率が95%以上と、その多くが目標金額を達成しています。

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(米良はるか)

ー具体的に医療領域において、クラウドファンディングはどう活用されているのでしょう?

米良: 大小さまざまですが、設備投資や備品の購入、基礎研究・臨床研究などの研究をより発展させるための資金を集めること、それから今回のように医療情報の啓発活動などに活用していただくことが多いです。

具体的には、たとえば直近だと、コロナ禍において一人でも多くの命を救うために、京都大学医学部附属病院さまが、院内感染を防ぐための陰圧室化工事を実施する費用を集められています。

また、地域医療の最後の砦となる永寿総合病院さまを守るために立ち上がった、医療スタッフへ手当金を集めるプロジェクトがあります。コロナ禍、スタッフの労働時間は増えているのに、病院が経営難に陥り、十分な給与が払えない状況が起きているんですね。

稲葉: 私は京都大学出身なので京大病院のプロジェクトはとても注目していたのですが、6000万円も集めているんですね!そのことに感激しております。

米良: 医療はビジネスと公共の間にあるものだと思っています。お金を出してくれる人にいいサービスを施すのではなく、病院に来る地域のみなさんに平等な価値を提供していく。公的な場所でもあるので、医療機関のサポートは、本来ならば政府による公的資金でサポートしていくべきだというご意見もあるかと思います。ただやっぱりどうしても、お金が必要なすべてのところに我々の税金を使うこともできないのも現実です。

だからこそクラウドファンディングを活用してもらえたら。稲葉先生たちのこのプロジェクトのように、世の中に広く伝えていって、応援の声を集めて世論を変えていくような啓発活動は、特に相性がいいと思うんです。

副反応によるネガティブな印象があったものが、正しい情報が広がることによって、ポジティブなものに変わっていく。そうした世の中の空気の変化が、厚労省から「積極的推奨」がなされるなど、公的なサポートを得る切り口になる可能性もあります。私たちは、医療セクターがクラウドファンディングによって、よりその活動の幅を広げていくことができると思っています。

応援の声が挑戦者の背中を押す

稲葉: まさに米良さんのおっしゃる通りで、医療情報を届けていく中で、クラウドファンディングの可能性を感じました。

病院自体が営利組織ではないので、一般企業と違ってがんばればがんばるほど利益が伸びる組織形態ではない中で、研究をしたり、先端医療を取り入れたりするには、どうしても限界があります。また、啓発活動は完全にボランティアで成り立っているという背景があります。

SNSを使ってドクターが正しい情報発信することは時間さえあれば無料でできますが、それ以上のことはどうしてもお金が必要になってきます。でも、関連企業からお金を募れば、公平性が保てなくなってしまう。だからこそクラウドファンディングを通して、一般の方から支援が募れるのは、本当にありがたいです。

また、クラウドファンディングは資金集めのみならず、プロジェクト自体がHPVワクチンや子宮頸がんのことを知ってもらうきっかけになります。啓発活動の一環としてのポテンシャルも大きいと感じています。

それから、みなさんの応援の声が何より励みになります。HPVワクチンに関して「理解が深まりました」「受けてみます」といった応援の声も寄せられて、これだけ多くの人が共感してくださっていることがとても嬉しくて。この活動をしていく意義を再認識させてもらっています。プロジェクトページに集まる応援コメントは前向きなものばかりで、活動を続けていく力をもらっています。

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米良: 私たちはREADYFORをチャレンジャーの背中を押すようなコミュニケーションだけに溢れているプラットフォームにしたいと思っています。何かに挑戦をすれば当然、どんなことでも賛否両論があるわけですが、マイナスなものばかりが目についてしまうとそれだけで前に進む勇気が持てなくなってしまうと思うんです。やりたいことをあきらめた方がいいんじゃないかって。

たとえ否定する声があったとしても、READYFORの中には、お金を払ってでも応援したいと思っている人が溢れているので、応援してくれる人たちの声を信じて、前に進んでいってほしい。そうやってチャレンジャーの背中を押していくことも大切な役割だと思っています。

厳密な審査を経たプロジェクトページで正しい医療情報を伝える

ープロジェクトを進める上で、工夫されたことや意識されていることはありますか?

稲葉: HPVワクチンについてはまだ不安を持っている人もいますし、プロジェクトがどこまで世の中に広く受け入れられるか、正直自信はありませんでした。だからこそ、その分、プロジェクトがスタートする前に、すでに理解を示してくださっている方や興味を持ってくださる方に個別にお声がけをして支援をお願いしました。READYFORのキュレーターの方にも「最初の数日でそれなりの支援が集まると広がりやすい、初動が大事」だとアドバイスをいただいていたので。

もう1つ、プロジェクトページ自体で、正確な情報をしっかり伝えられることも意識しました。一番大事にしたことは「HPVワクチンを接種しましょう」という圧をかけないこと。考えを押しつけるのではなく、あくまで正確な情報を知った上で、ご自身で考えてほしい、というスタンスを大事にしています。だからこそ、医療情報の正確性にこだわって、引用文献も多く付けています。

米良: READYFORでは、審査の専門チームが存在し、法務部の助言を受けながら策定された公開基準に従って審査を行っています。プロジェクトの適法性、実現可能性とページ表現を主に審査していますが、人の健康·命に関わる可能性もある医療分野に関しては特に、ページ上の記載に関して、正しく理解頂いた上で支援を行うかを判断頂くことが重要と考えているんですね。なので、想定されるハードル、懸念事項や限界などもページに記載するようにお願いしています。また、誤った医療情報を拡散することや患者さんの医療の機会を奪うことがあってはならないことから、現在の標準治療を否定するような記述も控えていただいています。READYFORとして社内外の弁護士に相談したり、外部の医療専門家に相談したりすることもありますね。

稲葉: まさに、ものすごく丁寧かつ安心できる細かい審査をしていただいた実感があります。私たちも正確性にこだわって文献をかなりつけたつもりでしたが、それでも審査部の方から指摘を受けまして。おかげでいいプロジェクトページができたと思っています。

米良: 何度もやりとりを重ねて向き合ってくださりありがとうございました。しっかりプロセスを回しているからこそ、実行者の方にも安心していただけているのかなと。そこに一つ、READYFORが医療領域の方に選んでいただける理由があると思っています。

HPVのワクチン接種が当たり前のものになるように

コウノドリ

ープロジェクトはすでに達成率400%を超えていますが、この反響をどう受け止めていますか?

稲葉: 私たちが想像していた以上の大きな反響で嬉しい驚きです。私たちの努力だけでなく、世論がまだHPVワクチンにとても否定的な向かい風の中で地道な啓発活動をされてきた日本全国の先生方の努力のおかげで、去年頃からようやく少しずつ世の中の空気が変わってきたのを感じています。そのタイミングで今回のプロジェクトを打ち出せたので、いい波に乗れたのだと思います。地道に活動されてきた先生方が土壌を醸成してくださったおかげだと感謝しています。

ー今回のプロジェクトを受けて、これからどんな社会を実現していきたいとお考えですか?

稲葉: 子宮頸がんで若くして命を落とす、あるいは妊娠出産前に子宮を失うことは女性のヘルスケアにおいて大きな問題です。そのリスクを下げる方法があるのだから、産婦人科医として私はそのことをみんなに知ってもらいたい。すべてのがんが予防できるわけではありません。予防接種でがんが予防できることは、まさに医療の進歩の賜物だと思います。

HPVワクチンが、赤ちゃんの時の予防接種と同じくらいみんなが当たり前にうけるものになるように。私たち産婦人科医が毎日行う診療の中で子宮頸がんや前がん病変の患者さんを診る機会が稀になるように。一人でも多くの人に、HPVワクチンの正しい情報を届けていけるよう、これからも活動していきたいと思っています。

米良: その過程でまたクラウドファンディングを活用できるタイミングがあれば、今回に限らず引き続き、ご一緒できたら嬉しいです。稲葉先生が次の挑戦をされるときに、READYFORがあるから一歩を踏み出せると思ってもらえるように、私たちもがんばっていきます。

稲葉: 医療業界において、クラウドファンディングの存在はすごく大きなものなので、本当に感謝しています。これからもよろしくお願いします!

*「がん」を予防するワクチンがあることを、みんなの当たり前に!プロジェクトは10月15日午後11時まで支援を募集しています。ご関心のある方はぜひページをのぞいてみてください。

*READYFORはこれからもクラウドファンディングで医療領域の挑戦のサポートをしていきたいと思っています。気になる方は気軽にお問い合わせください。

稲葉可奈子先生
医師・医学博士・産婦人科専門医 京都大学医学部卒業、現在は関東中央病院産婦人科勤務、四児の母。 子宮頸がんの予防や性教育など、正しい知識の効果的な発信を模索中。
米良はるか
READYFOR株式会社 代表取締役CEO
1987年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。2011年に日本初・国内最大級のクラウドファンディングサービス「READYFOR」の立ち上げを行い、2014年より株式会社化、代表取締役 CEOに就任。World Economic Forumグローバルシェイパーズ2011に選出、日本人史上最年少でダボス会議に参加。現在は首相官邸「人生100年時代構想会議」「未来投資会議」の議員や内閣官房「歴史的資源を活用した観光まちづくり推進室」専門家を務める。
text by 徳瑠里香 

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