医療分野の研究者と社会の架け橋になる。資金調達とコミュニケーションを支え、研究を加速する一助を担うキュレーターの仕事
クラウドファンディングを通じて、一人でも多くの人に「想い」を届け支援を集めるために、実行者に伴走するREADYFORのキュレーター。
医療研究分野を主に担当するキュレーターである鈴木 康浩さんは、生命科学のバックグラウンドとサイエンスコミュニケーターの資格を活かし、医療研究と社会をつなぐ架け橋として、医療研究関連のプロジェクトに携わっています。
キュレーターの仕事に迫る連載「ムーブメントの裏側」第五弾──。医療研究分野のクラウドファンディングの可能性と、広がりについて鈴木さんに話を聞きました。
科学と社会の間に立つ、サイエンスコミュニケーターだからこそ
──まずREADYFORに入社した経緯からお伺いできますか。
はい。もともと大学から大学院にかけて、生命科学を専攻していました。その過程で「サイエンスコミュニケーター(国立科学博物館認定サイエンスコミュニケータ)」の資格を取得したんです。働くにあたっては「科学の情報とその面白さを、広く一般の方々にも伝えられる人間になりたい」と考えていました。
その軸を持って教員などとして働いてきましたが、もっと広く情報を伝え、かつ研究領域にさらに大きなインパクトをもたらせるような仕事をしたいと探したところ、READYFORにたどり着きました。私は2021年4月に入社したのですが、その前から医療研究分野でのクラウドファンディングが盛り上がりつつあり、自分の知識やサイエンスコミュニケーターとしての活動とリンクすると思ったのです。
──サイエンスコミュニケーターとは、どのような資格なのでしょう?
サイエンスコミュニケーターは、科学の専門家と世間の人々をさまざまな側面でつなぎ、科学を広げる役割を担っています。博物館や科学館での職員、研究機関の広報など、科学と社会の間に立って情報のやりとりを支えています。
私が目指すのは、研究者の方が取り組む内容をクラウドファンディングを機に発信することを通じて、資金調達を支えることはもちろんのこと、世間の方々に研究内容やその必要性を知っていただく、双方向のコミュニケーションを支える潤滑油のような役割です。
──クラウドファンディングのキュレーターとして働く中で、そのバックグラウンドが活きていると感じるのはどんな場面でしょう?
一つは、先生方の研究にかける想いや、研究内容を深く理解することができる点ですね。キュレーターは、あくまで研究の外側にいる人間です。実行者である先生方の想いに伴走するには、先生方が描いている未来をしっかりと共有した上で、二人三脚で進めていく必要があります。
医療研究のプロジェクトページには、さまざまな方が訪れます。先生の研究仲間や医師の方々、患者さんやそのご家族。もちろん、その研究や医療における課題をはじめて目にする方も多くいらっしゃいます。
これから進める研究に対して、知識や経験が異なる幅広い方々がご覧になる中で、先生が研究にかける想いをお伝えするにはどうすればいいのか。その最適な方法を考えるために研究を正確に理解する段階で、大学院で学んだ生命科学やサイエンスコミュニケーターとしての知見は、先生方との共通言語になってくれます。
また、プロジェクトページの作成にあたり、打ち合わせで先生から発せられた何気ない一言をも頭の片隅におき、想いを代弁するものとしてページに取り入れることもあります。
クラウドファンディングの成功へは、当然ながら目標金額の達成を目指していきますが、資金調達以上の意味合いとして、先生方からの情報発信の機会としても重要な役割を担うと私は捉えています。先生方が大学や研究機関でどんなことをされているのか、その背景にはどんな想いがあるのか。クラウドファンディングを通して一人でも多くの人に伝えるべく、最適な表現を日々考え、先生方と相談しながらプロジェクトページをつくり上げています。
先生のつながりを軸に、プロジェクトを広げる
──伝わりやすいプロジェクトページをつくるだけでは多くの人には届かないかと思うのですが、そこから「広げる」ための具体的な工夫があれば教えてください。
プロジェクトを広げるフェーズでは、キュレーター自身が直接動くというより、先生方に動いていただくための最適な提案を通して、プロジェクトを支える役割ですね。特にプロジェクトの序盤は、まずは先生のお知り合いのお一人お一人にメッセージを送り、丁寧に想いを伝えるような地道な方法をとり、支援の輪を着実に広げていくことが多いです。
まず、プロジェクト開始前に、どのような情報発信ができるのかを紐解き、メディアの方々や患者会さん、お知り合いの先生方など、お伝えできる先とタイミングを検討します。ときには大学の広報の方々のお力も借りて進めることもあります。スタートしてからは途中経過を見ながら、状況を深く分析しながら、そのタイミングで最適なアクションを考え提案し、情報発信を支えています。
たとえば、すい臓がんの研究を行う、東北大学の古川先生のプロジェクトでは、当分野の最前線を走る先生であることから、同じ分野で患者さんの治療に向き合う医師の方々から本当に多くの応援をいただきました。ほかにも、国内ですい臓がんの患者さんの支援を行うNPO法人の方とのオンライン対談も行い、幅広くプロジェクトを発信してきました。
また、人工心臓を必要とする子どもたちに向けて超小型人工心臓の開発に取り組む、群馬大学の栗田先生のプロジェクトでは、記者会見を実施しマスメディアを通じてお伝えするほか、大学のOBOGの方々や地元の商工会議所など多方面へ周知を広げ、当初の目標金額をはるかに超える資金調達を支えました。
研究者の方や患者会さんなどに届けたところから、さらに世間の方々に広くお伝えするという意味では、従来のマスメディアの影響に加え、WEBメディアやSNS上での情報拡散の影響力も大きくなっています。
たとえば、摂食嚥下障害に悩む患者さんと向き合ってこられた東京医科歯科大学の戸原先生・山田先生によるプロジェクトでは、なんらかの理由で「声」が出せなくなってしまった患者さんが、機器の力を借りて話せるようになる「Voice Retriever」を独自に開発されています。量産化と装置の改良に向けクラウドファンディングに踏み切られ、プロジェクトを広げるにあたっては、この装置を実際に使用している方々(先生ご自身、患者さん、アーティストの方など)の様子を録画。新着情報やTwitterなどでもご紹介いただいています。
SNSは身近な人だけでなく場合によっては広く届くツールですので、先生方と直接つながりがなくても、テーマへの関心が潜在的に高い方々にも、プロジェクトの魅力を伝える大きなきっかけになったと思います。
──近い距離の人に直接伝えることと、少し距離のある人にもSNSやメディアを通じて広げていくこと、その両輪をバランス良く回した結果、たくさんの方からの寄付につながるのですね。
はい。とはいえ、クラウドファンディングには「こうすればうまくいく」といった絶対の正解はありません。ひとつの型にあてはめるのではなく、それぞれのプロジェクトに最適な進め方を提案して達成に導くこと。一人でも多くの方の心に、先生の強い想いをお伝えすること。これらを大切にして、クラウドファンディングの挑戦に伴走しています。
目標金額を達成した後も、必要な支援を集め続けるために
──例に挙げていただいたプロジェクトは、集めた資金が目標金額を大きく上まわっていますよね。これはどうしてでしょう?
「Voice Retriever」のプロジェクトは、当初は1年分の研究開発費として300万円を目標にスタートしましたが、最終的に集まった寄付は、そのおよそ7倍の2000万円以上です。
資金が十分に確保できれば、さらなる資金調達のためにかかる時間も相対的に減り、その分研究は加速します。質の高い成果もどんどん出てくるでしょう。クラウドファンディングは目標金額を達成したから終わり、という仕組みではなく終了のタイミングは変わりませんから、この先いただく寄付はこんなところに使っていきますと、2年後、3年後など新たなゴールを設定し、研究の将来的な見通しも発信し続けました。
さらなる応援が何のために必要なのか、明確にしてお伝えしたからこそ、途切れない支援をいただけたと思います。寄付の使い道を示し続けていくことも、プロジェクトの広がりに影響するんですね。
何より、現在の医学の進歩をもってしても、解決しきれていない課題は数多くあります。医療研究のクラウドファンディングには、新たな治療法や器具を必要としている患者さん、そしてこれから必要とする方々に一日でも早く届いてほしい、という当事者の方やご家族の方々からの切実な願いもあります。目標を大きく上回る寄付の裏側には、たくさんの温かい想いがあると感じ、これらの想いをつなぐという責任感が、私の仕事の原動力にもなっています。
研究のファンを可視化する、クラウドファンディングの意義
──クラウドファンディングは、単に寄付を集めるだけではなく、研究の意義や必要としている人々の存在を、世間に広く伝える広報のような意味もあるんですね。
そうですね。一般的に、その研究について広く世間に情報発信がなされるのは、研究成果が出てからです。研究の過程や、その背景にある先生方お一人おひとりの想い、そして数年先・数十年先など将来の展望は、日本で進む多くの研究では世の中には伝えきれていない現状があります。
すい臓がんの研究を行う古川先生のプロジェクトは、クラウドファンディングを通じて、患者さんをはじめ、そのご家族やご遺族の方など、1000名を超える多くの方から応援の言葉をいただきました。
また、Voice Retrieverの開発を進める戸原先生・山田先生のプロジェクトでは、本来であれば実用化されてはじめて世間が知るところ、研究段階で裏側にある想いを発信したことで研究のファンづくりにつながりました。
それまで研究のことを知らなかった方々からの応援の声が、先生方に直接届く。その声は、先生方の心にもしっかり届き、研究を進められる際の大きな原動力になっていると日々感じています。
クラウドファンディングを通じて資金を調達し、研究をさらに加速する。そしてその過程で研究を応援してくださる方々を可視化できる。それが、クラウドファンディングの持つ意義であると感じます。
──では、最後の質問です。鈴木さんにとって「READYFORのキュレーター」とは?
先生方が研究を通して実現させたい「想い」。そして、社会全体がその歩みを待ち望んでいるという「想い」。
現在の研究領域において、これらの想いのバトンは、「研究資金の不足」の一言で簡単に途切れたり、後回しになったりしています。想いを目に見える形にして、将来へと確実につなげる立場がキュレーターであり、これからますます重要になっていく役割と考えています。
これまでになかった視点で、最先端の研究に関わることができるのは、READYFORのキュレーターならではのやりがいといえるでしょう。公的な資金を得るのが難しかったり、従来の助成では資金調達まで時間がかかってしまったりする場合でも、数ヵ月の短いスパンで資金調達につながるクラウドファンディングであれば、世界に先駆けて想いを実現すべく、研究を進めることができるようになります。
研究は成果が出るまで時間がかかるものですから、私がこれまでお手伝いさせていただいたプロジェクトはいずれも研究過程にあります。将来、クラウドファンディングを通じて寄付が集まった医療研究から、新たな治療法が生まれたり重要な研究成果が得られたとき、先生方と支援者様とともに、喜びを分かち合える瞬間を楽しみにしています。
これまでなかなか解消されなかった課題に対し、多くの先生方が熱心に研究に取り組み、私たちキュレーターは寄付をサポートすることで研究のスタートダッシュを支える。やがて生まれる数多くの研究成果は、日本だけではなく世界共通の課題解決への大きな力になっていくと信じています。
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