「注文をまちがえる料理店」成功のカギは個人の想いと共感がつなぐチームワーク#私の夢を支えてくれた人

2017年、Readyforで支援を募った認知症の方と作る「注文をまちがえる料理店」広がれてへぺろの輪が大きな注目を集めた。発起人は、当時テレビ局のディレクターだった小国士朗さん。コンセプトのユニークさが話題を呼び、目標を大きく上回る金額でプロジェクトを成立。9月に開催したイベントは、ほぼ全ての席が予約で埋まり、新聞やテレビをはじめ国内外150社以上のメディアが取材に押し寄せた。「注文をまちがえる料理店」のアイデアは、小国さんがディレクター時代から密かに温めていたものだという。想いを行動に移し、実現するため、どうやってたくさんの人を巻き込んでいったのか。小国さんの#私の夢を支えてくれた人に迫る。

「少しくらい間違いがあってもいい」ひらめきから全てが始まった

「間違えちゃったけど、ま、いっか」

「注文をまちがえる料理店」の店内からはこんな声が聞こえてくる。なぜなら、オーダーや配膳を担当するのは、全員認知症を抱えたスタッフだからだ。

写真:森嶋夕貴(D-CORD)

認知症とは、脳の働きの低下によってさまざまな障害が生じる病気のこと。症状には個人差があるが、もの忘れ(記憶障害)が進むのが特徴だ。そのため、お客様の注文を忘れてしまったり、注文とは違う料理を運んでしまったりすることもある。

けれど、このレストランで間違いを責める人はいない。それどころか、スタッフもお客さんも笑顔に溢れている。間違えることを許容し、一緒に楽しむーー。このどこにもないレストランのアイデアは、取材現場でのひらめきから生まれた。

小国 士朗
株式会社小国士朗事務所 代表取締役/プロデューサー
1979年生まれ。2003年、NHK(日本放送協会)に入局。ディレクターとして『クローズアップ現代』や『プロフェッショナル 仕事の流儀』などのドキュメンタリー番組を制作。個人プロジェクトとして「注文をまちがえる料理店」を企画。2018年に退局し独立。現在はプロデユーサーとしてさまざまなプロジェクトに携わっている。2児のパパ。

「NHKのドキュメンタリー番組『プロフェッショナル 仕事の流儀』を担当していたとき、認知症の方々が暮らすグループホームを取材しました。その施設の理念は “認知症になっても、最期まで自分らしく生きていく姿を支える”こと。入居者の皆さんは掃除洗濯、料理まで自分で行い、のびのびとした生活を送っていました。

ある日の食事の時間、献立はハンバーグだと聞いていたのに、餃子だったことがありました。間違いを指摘しようとしましたが、そんなことを気にしているのはその場で僕だけだったんです。その時に、間違いというのはその場にいる人が受け入れてしまえば間違いじゃなくなるということに気づいてはっとしたんです。

少しくらい間違いがあってもいいじゃないか。おいしそうに餃子を食べているおじいさん、おばあさんを見ていて、どんどんイメージが膨らんでいきました」

2017年6月、関係者を招いたプレイベントを開催すると、SNSでまたたく間に拡散され、賛同と応援の声が集まった。手応えを感じた小国さんは、体験できる場を広げようとクラウドファンディングを決意する。Readyforを選んだのは、米良との出会いがきっかけだった。

「NHK時代に米良さんとお会いする機会があって、『なぜReadyforを立ち上げたのか?』と質問したとき、すごく目をキラキラさせて想いを語ってくれたんです。純度が高い素敵な人だな、という印象でした。それから2年くらい経って、どうやってお金を集めようかと考えた時、目をキラキラさせた米良さんの顔がパッと思い浮かびました」

米良に相談を持ちかけると「やりましょう!」と即答。こうしてプロジェクトチームが始動した。

当事者目線で伴走するキュレーター

想いを形にしていくには仲間の存在が不可欠だ。Readyforからはキュレーターの夏川と広報の大久保がアイデアの着想段階からプロジェクトに参加し、企画の具体化やメンバー集めに奔走した。

「キュレーターのなっちゃん(夏川)は、着想段階から、『どこを目指しているか?』『何を大事にしているのか?』を常に明確にしようと心がけてくれました。普段はどちらかというと物静かで、多くは語らないタイプ。けどずっと伴走してくれた。広報の大久保さんもリリースから海外メディアの対応まで、一緒に当事者として関わってくれました」 

2017年8月7日、クラウドファンディングの募集がスタートする。しかし当日の夜、プロジェクトの進め方を巡ってメンバー内で議論が巻き起こった。さまざまな事情から3週間という極めて短い期間で800万円を集めることになったが、その目標設定は本当によかったのか。自分たちの計画に詰めの甘さはなかったか。前例のないチャレンジに不安がふくらみ、「目標金額を下げた方がいいのでは」という意見もでるなど、ミーティングは深夜まで及んだ。緊迫する状況の中意見を求められた夏川は、こう答えた。

「Readyforのミッションは『誰もがやりたいことを実現できる世の中をつくる』です。このプロジェクトが目指すのは、間違いを許容する寛容な社会を作ること。その想いは必ず大きな支持を集めるはずです。だから私はこのままでいけると思っています」

曇りのないまっすぐな言葉が小国さんの背中を押した。

「彼女がそう判断するのなら、ついていこうと思いました。判断に迷った時、プロフェッショナルとしてベストな決断をしてくれる。あの時は本当にかっこよかった」

クラウドファンディング初日から、Yahoo!ニュースでも紹介されるなど情報が拡散し、1日で約200万円の支援金額が集まった。順風満帆なスタートかと思いきや、翌日には動きがピタッと止まり、金額は横ばい状態。再び不安と焦りが募っていく。

「自分が主体になった時、こんなにも不安になるんだと思い知りました。プロジェクトはAll or Nothing(※)。つまり、800万円を達成できなかったら1円もお金は入ってこない。これは大変だぞと、知人や友人に片っ端からお願いの電話をかけメールを送りました。毎日胃が痛む思いでしたね」

※クラウドファンディングの実施方式。期間中に目標金額に達して初めて、支援金が実行者に支払われる。

そんな状況でも、キュレーター夏川の存在は心強かったという。

「なっちゃんは『絶対大丈夫です』と言い続けてくれた。プロが言うんだから大丈夫なのかな、って期待もあったけど、実際に達成するまでは不安でしたね。実は、イベントに使うお皿や備品類をすでに発注済みで、もう後には引けない状況だったので(笑)」

やがて、その心配は杞憂に終わる。共感の輪はどんどん広がり、わずか2週間で目標金額800万円を達成。最終的には目標を大きく上回る1,291万円の資金が集まった。

仲間を増やすために必要なのは「ビジョンの共有」

レストランがオープンしたのは、2017年9月16〜18日の3日間。わずかな期間だが、料理人、介護の専門家、デザイナーなど、数十名のプロフェッショナルが集結した。一体どうやって、たくさんの人を巻き込んでいったのだろうか。小国さんは、「個人の思いの強さとビジョンの共有」が大切だと語る。

写真:森嶋夕貴(D-CORD)

「チームを作るときに大事にしているのは、ビジョンを共有して“同じ風景を見たい“と思ってくれるかどうか。もともとは僕の勝手な思いつきです。あのグループホームの風景がずっと頭の中に残っていて、いつか実現させようと温めていました。自分の思いを伝えて、やりたい!と即答してくれる人と組みたいと思いました」

さまざまな意見が飛び交い、まとまらないこともあるが、それでいい。目指すのは個々人が自走する組織だ。

「『こういう風景を作りたい』という最初の絵が描けていれば、あとはブレない。絵はそれぞれの人の解釈でいいと思うんです。みんなプロですから。僕はリーダーだという意識はあまりなくて、主な役割は3つ。『絵を描く』『決断する』『応援する』こと。描く絵とチームがディレクションできていれば、あとはメンバーそれぞれが自走して良くなっていくだけ」

小国さんがチーム作りの手本にしている書籍がある。1994年に出版された『ビジョナリー・カンパニー』(ジム・コリンズ著)だ。時代を超えても輝き続ける企業の組織作りや理念のあり方を分析したベストセラーで、経営者の必読書としての呼び声も高い。

「この本の中に『だれと同じバスに乗るか』というフレーズがあります。つまり、戦略を考えるよりも、どういう人をメンバーにするかが重要だということ。信頼できる仲間さえ集まれば、あとは楽しみながら目的地へ向かうことができる。この考えは大いに役立っています」

テレビの現場から学んだチーム作り

このようなスタンスはいつから身についたのだろうか。ディレクターとして数々のドキュメンタリー番組を手がけてきた小国さんは、取材現場の経験が根底にあるという。 

「舞台を作るのがディレクターの仕事だ」

当時の上司から受けたアドバイスだ。ディレクターの役割は、取材相手と交渉して撮影すべき“舞台”を整えること。そして、撮影クルーと撮影のイメージを共有する。カメラが回り出したら、あとは手を出すことはできない。撮影する舞台ができあがったら、自分の役目はほぼ終わっていると学んだ。

「上司からは『口出しすぎるな、手を出しすぎるな』とも叩き込まれました。特に『プロフェッショナル 仕事の流儀』の現場から学んだものは大きいです」

「チームを作るのは”この指とまれ”に似ています。誰が、いつ、どんな指をかかげるのかで、集まってくれる人の数は全然変わってきます。だから、みんながとまりたくなる指になってるかは常に考えてますね。どんなプロジェクトでも、タイトルやコピー、デザインはすごく重要だと思います」

『注文をまちがえる料理店』だなんて、不謹慎じゃないかーー。

元テレビマンの経験から、このような批判の声も覚悟していた。それでもクラウドファンディングに挑戦した理由は、賛同者の思いを可視化するためだった。その結果は、支援金額だけでなく、余波にも現れている。

イベント終了後、同様の取り組みがすでに全国20ヶ所以上で開催され、韓国や中国、イギリスなど海外からも問い合わせが寄せられている。賛同の輪は着実に広がっている。

写真:森嶋夕貴(D-CORD)

「このプロジェクトをやりきったとき、はじめて心から愛しているNHKを辞めてもいいかなと思いました。一人でできることは限られるけれど、チームの力でこれだけ大きな結果を残すことができた。世界150カ国以上に取り組みを届けられたのは、テレビ番組以上の広がり方です。こんな広げかたもあるんだと驚きました。

だから僕にとって、夢を支えてくれた人は『注文をまちがえる料理店』で出会ったすべての人たちです」

自分の役割は「メディア」。目指すのは「tele+vision(テレビション)」

昨年、独立して個人事務所を立ち上げた。現在はプロデューサーとしてさまざまなプロジェクトに携わっている。

その一つが、ガンを治せる病気にするためのプロジェクト「deleteC」だ。企業は商品からCancer=がんの頭文字「C」を消し、個人はCの消えた商品を買うと売上の一部が治療研究に寄付される。個人のアクションが、ガン治療の未来を切り開く画期的な取り組みだ。

「僕はどんなプロジェクトでも、どんなテーマであっても、みんなで笑いながら世界を変えていけたらと思っています。世の中を変えるには、ジャンヌダルクのような力強さが必要になることもある。けれど、僕が好きなのは日常の暮らしに溶け込んで、誰もが気軽に関われるようなプロジェクトなんです」

今年2月に立ち上がったdeleteCは、年内に法人化を目指している。

「持続的な組織にしていきたい。そのために、組織としてのビジョンをどう打ち出していこうか、というのをメンバーと一緒に思い描いているところです。

テレビ局を辞めても、僕の理想はいつだって”television”なんです。teleは”遠く”を意味する言葉で、visionは”映す”という意味です。誰も見たことがない風景や誰も触れたことのない価値を形にして、多くの人に届けることが僕の役割だと思っています。その届けた種がどうなっていくのかは、受け取ってくれたその人次第」

小国さんは受け手に委ねるスタンスを貫く。個人の思いが共感の輪を広げ、いつか当たり前の風景になるように。小国さんの挑戦はこれからも続いていく。

text by 星久美子

Readyforではさまざまなプロジェクトが実行されています!


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READYFOR note

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