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「ウクライナ人道支援の現場から #私たちは今何ができますか?」イベントレポート

ロシア軍によるウクライナ侵攻が開始してから1ヶ月。READYFORでは、人道的危機に瀕する人々へ支援を届けようと、複数の団体がウクライナの緊急支援プロジェクトを立ち上げています。

3月17日に実施したウェビナーでは、現在クラウドファンディングを実施されている特定非営利活動法人 ピースウィンズ・ジャパンの福井 美穂さまと、特定非営利活動法人 難民を助ける会(AAR Japan)の藤原 早織さまをゲストに迎え、人道支援の現場から、現状と今後も必要とされる支援活動についてお話を伺いました。

ウクライナで起こっている危機、現地での支援団体が行っている活動を、私たちが「知る」こと。そのうえで、私たちに何ができるのかを「考える」こと。「ウクライナ人道支援の現場から #私たちは今何ができますか ?」と題して開催されたウェビナーの様子をお伝えします。

「暖房、食べ物、飲料水など。生存に関わるものすべてが必要です」

はじめに、ピースウィンズ・ジャパンの福井さま、AAR Japanの藤原さまより、現地での活動内容を報告いただきました。スライドに映し出されたのは、ウクライナに隣接する国・モルドバのキシナウ市にある一時避難所の様子です。

「私たちは逃げるしかありませんでした。母、兄弟含めて家族全員がまだウクライナにいます。すべてを置いて来ました」
「ウクライナにはたくさんの子どもが取り残されており、支援が必要です。医療支援、食べ物、暖かい服のような人道的な支援です。ロシア主導の平和ではすべてを奪われてしまいます」
「ウクライナは今、他の国から支えられていると思います。ウクライナのマリウポリ市ではすべてが足りていません。暖房、食べ物、飲料水など。生存に関わるものすべてが必要です。地下避難所から上がってくると、爆弾攻撃がはじまります。どんな支援でもいいです」

これらはすべて、戦火を逃れウクライナから避難してきた人々の言葉です。一時避難センターの運営を支えるのはNGOなどのボランティアであり、ピースウィンズ・ジャパンも、生活必需品や食事の提供等を行っています。

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福井 美穂(画面左下)さん
特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン 海外事業部マネージャー。
長野県生まれ。 旧ユーゴスラヴィア、 アフガニスタン、 シエラレオネ、 南スーダンで緊急人道支援に従事。
特定非営利活動法人 ピースウィンズ・ジャパン
日本に本部を置き、 国内外で自然災害、 あるいは紛争や貧困など人為的な要因による人道危機や生活の危機にさらされた人々を支援する国際協力NGO。 世界34の国と地域で約160万人の人々を支援。 日本国内での社会問題の解決を目的とした活動にも力を入れている。 医療を軸とした災害緊急支援プロジェクト「空飛ぶ捜索医療団"ARROWS"」を運営し、 国内外の災害被災地で支援活動を実施。

ピースウィンズ・ジャパン 福井(以下、福井): 3月14日の時点でウクライナ一般市民の死傷者数は1,834人(内、死者691人)といわれています。人口4,000万人の国から、わずか2週間のうちに約300万人の避難民が発生しました。

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ピースウィンズ・ジャパンの活動報告スライドより。赤い矢印が避難民の動き、青い丸が国内避難民の場所と数、火花のような印が戦地

必要な支援は、物資だけではありません。医療支援のニーズも強くいわれています。慢性疾患やがんなどの治療を含む医薬品、医療支援、基礎的医療施設用のバックアップ発電機。そのほか、メンタルヘルスと社会的支援、新生児・妊婦への支援、栄養・教育・住居・給水衛生など、さまざまな支援が必要な状況です。

この大変な人道危機に対して国際支援の調整機能が立ち上がっており、国連によるクラスターシステム*調整がはじまっています。私たちピースウィンズ・ジャパンも、そのシステムの中で人道支援を行う形で、保健(医療)、ロジスティクス(輸送)の会議などに出席しながら調整に参加して支援を行っております。

*クラスターシステムとは、人道支援活動に際して、国連人道機関が個別に活動するのではなく、クラスター毎にリード・エージェンシーを指定し、リード・エージェンシーを中心とする人道機関間のパートナーシップ構築により、現場における支援ギャップに対応しつつ支援活動の効果を高めるためのアプローチです。2005年10月に発生したパキスタン等大地震の際に試験的に導入され、保健、輸送、栄養、保護など11のクラスターとそれぞれリード・エージェンシーが定められています。
参考:緊急・人道支援 国際機関を通じた援助用語説明|外務省

2月26日から3月7日までは1名の支援要員がポーランドで、現在は、モルドバにて2名のスタッフが現地視察、緊急支援を行っています。モルドバとポーランドで活動しながら、ウクライナ国内への支援を調整している状況です。

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ポーランドの国境沿いや国内での支援活動の様子

ポーランドが最も多くの避難民を受け入れており、男性の出国制限のため女性・子どもが中心です。ポーランドを経由してドイツなどを目指し移動に移動を重ねる方も多くいます。難民レセプションセンターで法的支援、滞在先支援、移動支援などが行われています。難民の主なニーズは、食料、日用品、シェルター、移動手段、医療メンタルケアとなっています。

難民を助ける会(AAR Japan)藤原(以下、藤原): 弊会では、ウクライナ国内への支援と平行して、隣国のモルドバに入り支援を行っています。

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藤原 早織(画面左中央)さん
特定非営利活動法人 難民を助ける会(AAR Japan)プログラム・コーディネーター。ラオス事務所駐在員を経て、 現在はウクライナ緊急支援などを担当。大阪府出身。 幼少期にアフガニスタンの女の子が厳しい環境下で暮らす様子をテレビで見て、 国際協力に関心を持つ。 大学では国際文化学部に進学し、 国際関係学と文化人類学の2つのゼミに在籍。 卒業後はIT系のベンチャー企業に就職。 「自分の目で現場を見て、 人々の話を真摯に聞いて、 本当に必要とされる支援を届けたい」と、 2020年7月よりAAR入職。
特定非営利活動法人 難民を助ける会(AAR Japan)
日本における難民支援の先駆けとして1979年に発足した国際NGO。 65を超える国・地域で支援を展開し、 現在も世界各国で、 政治・思想・宗教に偏らず、「困ったときはお互いさま」の精神で、紛争や災害あるいは障がいなどによって困難に直面した人々への支援を実施。

モルドバは、九州よりも小さい国土に、264万人と福岡県のおよそ半分の人口を有する国です。失業率8%、ヨーロッパの中でも最も経済的に厳しい国ともいわれています。そこへ、30万人以上の難民が押し寄せています。

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モルドバの地図。南部国境と北部国境にウクライナからの難民が押し寄せる

一時は12時間以内に1万人を超える人々が入国するというように切迫した状況でした。30万人の半数から3分の2は、現在ではモルドバを抜けており、ルーマニアなど他国へと移動しています。

とはいえ、子ども3万人を含む10万人以上がモルドバに停留し、3,000人が難民申請をしています。

もともと経済的余裕があるとはいえないモルドバに多くの人々が押し寄せ、結果として苦しい状況となっています。多数の難民はホストコミュニティと呼ばれるホテル、または民泊や親類の家に身を寄せています。

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モルドバ政府の難民センターの様子

そのほか、政府主導の難民センターが80から100ほど立ち上がっています。しかし、キャパシティが足りません。難民センターで許されるのは最大72時間の一時滞在のみです。政府の他、様々な団体が1日から1週間など滞在できる避難シェルターを運営していますが、現状では難民の人々を受け入れるキャパシティがないという状況になっています。

停戦が実現してからが支援の本番。緊急人道支援のみならず、中長期的な復興支援が必要だ

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モデレーター: 徳永 健人(画面左上)
READYFOR株式会社。2015年、 READYFORに入社し、 社会貢献活動のプロジェクトを主に担当。 2018年にソーシャルインパクト事業部の立ち上げ後、 経営企画室 事業開発、 キュレーター事業部を経て、 現在基金事業・プラットフォーム化推進部へ。 認定ファンドレイザー。

READYFOR 徳永(以下、徳永): 今後の状況が予測できない状態で恐縮ですが、緊急支援を行われているお二方の実感として、現地でのニーズは足りていると思われますか?

福井: 私たちは、現地の団体と連携し、膨大な「ニーズリスト」をいただいたうえで、私たちのできる範囲の支援を展開しています。足りているかでいえば、まったく足りておりません。戦闘地域に入れないこと、ウクライナ国内に残されている人々へ直接支援が届けられないことなど、困難は多々あります。

キエフ市内で活動する提携団体からは、医療支援ニーズが非常に高くなっていると報告があがっています。街中で銃声やミサイルの音が続いており、人々は逃げることができず、夜は地下で寝泊りをし、取り残されています。ピースウィンズ・ジャパンで慢性疾患の薬の支援を行っていますが、一部の公立病院では薬品の供給が止まっており、仮に医師がいても処方できないような状況です。

停戦が前提になりますが、私たちにとっては支援団体として国内に入れるようになってからが、本番です。短期間で300万人という、ものすごい数の避難民を生み出した国家間の紛争では、被害が大きく緊急人道支援のみならず、中期、長期の復興支援が必要です。

藤原: 取り残されている人々の中には、何らかの障がいがあり逃げられなかった方も多くいます。私たちは被災地の障がい者支援も行っているため、そうした方々に対する、支援の強い要望をいただいています。どうにかして、ウクライナ国内へ向けた支援の糸口を見つけられないかと思います。

かつ、逃げてこられた方々の精神的ストレスも懸念されます。女性や子ども、年配の方々のみで避難されており、夫や父親・息子が戦争に駆り出されるという現状に、引き裂かれるような想いを抱えています。メンタル面の精神的ケアが足りておりません。

また避難センターでは、子どもたちが遊べるような、ストレスを緩和させるためのスペースが必要です。現在ポーランドから物資支援が可能な状況ですが、今後ロシア軍がウクライナ西部に攻めてくるようなことがあれば配給路が絶たれる懸念もあります。

これまで世界が経験のない規模の避難民が生まれている

徳永: お二方は、所属する団体でこれまでも緊急人道支援に携わられてきました。今回ウクライナでの緊急人道支援で過去の支援と「違う」と感じられる点があれば教えていただけますでしょうか?

福井: 若干重複になりますが、まず国家と国家の戦争であり、これだけの短期間で300万人という人が逃げなければならないという被害は、我々が今まで経験したことのない規模です。

また、避難する方に移動手段があり、遠くまでいけるという点で、どのように移動する避難民を支援するのかなど、現金給付の支援も含め、最適な支援方法が問われています。

アフリカなどでの支援との違いは、日本からのウクライナへの物資支援の問い合わせにもお答えしているのですが、今回は近隣諸国でほぼすべてのものが調達可能だということです。ウクライナ国内で調達できるものもあります。

藤原: ウクライナ国内に入り支援ができないのが決定的に違うところです。自然災害などは治安状況が許す限り被災地入りし食事の提供などが可能ですが、今回はウクライナに入れません。

それから、地雷や不発弾の問題があります。ウクライナはもともと東部でロシアとの紛争があり、地雷と不発弾の問題を抱えていました。そこに輪をかけるように、今回の軍事侵攻で多くの爆弾が使用されています。

たとえ、ウクライナの人々が今安全に逃げ切れたとしても、将来国に戻ったとき、非常に大きな障壁となります。壊れた家を建て直せばいいという話ではないのです。支援活動にも大きな影響を与えます。元の生活を取り戻すのに、膨大な時間がかかるといわれています。

一方で、福井さんのおっしゃったように近隣諸国の受け入れの歓迎度・ボランティア精神の強さは、過去あまりみない規模でポジティブな側面です。各国政府の対応が追いつかない実情で、比較的速やかな受け入れや第三国移動が可能であるのは、避難民に女性や子ども・高齢者しかいない背景もありますが、これまでと違う点だと思います。

*2020年の間に、全世界で新たに故郷を追われた人は約1,120万人。主な出身国としては670万人のシリアが最多。参考:数字で見る難民情勢(2020年)|UNHCR
*2022年2月24日以降、ウクライナから国外に逃れた難民は355万人以上。また国内避難民も650万人前後とみられています(3月21日時点)。参考:Refugees fleeing Ukraine (since 24 February 2022)*

徳永: 現地のNGO団体などとの連携はどのように協働されているのでしょう?

福井: 私たちはこれまでウクライナにベースがなかった団体ですので、まずは20程の現地NGO団体にパートナーシップの照会を送りました。

彼らは我々と同じように教育を受けており、インターネットのアクセスや電気などが整った状態で活動する人たちが今回のパートナーであり、レスポンスが非常に早いです。対等なパートナーシップという形で迅速な支援が実現しているのも、今回の人道支援の特徴だと思います。

藤原: ヨーロッパを基盤とする、規模が大きく運営がしっかりした団体が多いという印象を受けます。

現地団体との連携では、私たちは「取り残されがちな人々に焦点を当てる」という理念に基づき、ウクライナの修道院への支援を行っています。当会に寄せられた寄付で調達した物資を、「汚れなき聖母マリアの修道女会」というウクライナとポーランドの両国につながりがある修道会と連携し、陸路越境でウクライナ西部に輸送しています。

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修道院には2月末以降、ハリコフの母子施設で暮らしていた70名の女性や子どもが身を寄せています。ポーランド国境を目指す人々が臨泊する中継地ともなっており、食料や医薬品、衛生用品、子ども用衣類といった物資を届けました。

近隣の街にも数千人規模の国内避難民が滞在しており、今後200名まで対応規模を増やしていく予定です。まだ支援の手が届いていない場所を見つけ出し、支援を届けようと動いています。

現地でのボランティア活動は? 必要なメンタルケアとは

ウェビナーの視聴者の方からは、現地でのボランティアやメンタルケアの支援などについての質問が寄せられました。

──現地で実際に体を動かす活動に参加したい。

福井: 当団体にも、現地でのボランティア活動の希望を直接いただいたりするのですが、当団体のスタッフでも、現在は紛争地域などでの支援の経験者を現地に送るという方針です。今後の状況では一般の方のボランティアを募るという話になるかもしれませんが、現時点では、間接的な後方支援をしていただけるとありがたいです。

──現地で求められるメンタルケアの支援とは?

藤原: メンタルケアは非常に専門的な分野です。そのため、支援が必要な人を適切にアセスメントした上で、適切な医療機関や専門家に照会できる仕組みの構築が望まれます。仲介役のように、メンタルケアのニーズを見つけ出すことが重要です。本人が大変な想いを抱えていても、外見からはわからないこともあります。きめ細やかなヒアリングや対応が必要になると思います。

今後の活動予定。医療支援や地雷撤去を現地で

福井: ウクライナの医療系NGOと提携した医療支援を、今後も続けて展開していきます。また、現地の避難民支援NGOを通じた物資支援のほか、国外でないと調達できない医薬品など、モルドバのNGOを通じたウクライナ・オデッサへのクロスボーダーによる医療支援も調整中です。

私たちが手掛けているのは、人道支援の大きなニーズリストの一部でしかありません。より大きな部分をカバーできるよう動いていきます。

保護支援を行う団体から、食料、日用品、カウンセリング等の要請が出てきていますので、そちらも継続して対応していきます。可能になりましたら現地に入り医療支援その他ニーズにも支援を行う予定です。

藤原: 我々も、国連の要請を受けているので、より大きなニーズをカバーできるよう動いていきます。モルドバでも、緊急支援を調整しながら長期的支援を見据えて活動しています。

すぐに支援が必要なものでは、暖かい食事が提供されていない避難センターに対する支援があります。ホットミールの提供、もしくは缶詰・パン・パスタ・調味料などの食料品や衛生用品の物資支援の需要が高く、数日以内に実施できるよう今日も調整を続けています。

中長期的には、女性や子どもの保護を目的とした活動および、ウクライナ国内の支援を平行して続けていきます。今後、戦闘が収まれば住人の方々がウクライナに戻るでしょう。そのとき、ほぼ確実に地雷や不発弾が帰郷の障壁となります。私たちは、これまで地雷や不発弾から人々を守る行動を行ってきました。被害に遭った人々への支援、地雷除去の活動など、これまでの知見を活かし回避教育や地雷の除去活動を視野にいれています。

ウクライナのために、私たちができる「行動」を

徳永: 今回ゲストにお越しいただいた2団体さまのほか、複数の団体がREADYFORでウクライナへの人道支援の寄付を呼びかけています。

クラウドファンディングの「新着」タブからは、ウェビナーでご報告したような、現地での支援活動内容をご覧いただけます。寄付をした方にメールで通知されるだけでなく、READYFORにアカウントを作成していただいた方は、「フォロー」機能で情報を受け取ることもできます。ぜひ今後も、注視いただけるとありがたいと思っております。

本日のウェビナーの目的は、ウクライナの今を「知ること」、そして私たちに何ができるかを「考えること」でした。この二つのあとに、三つ目の「行動すること」を加えていただければと思います。

寄付もそうですし、SNSで正しい情報を広げる、署名活動に参加するというのも一つの行動です。ぜひ今日の内容が、みなさまが何か選択をして行動をするときの一助になれば幸いです。

福井: これだけたくさんの方々に、ウクライナ人道支援にご支援とご寄付をいただき、本当に嬉しい思いでいっぱいです。いま、チーム一丸となって、現地に最適な質の高い支援を届けようと動いております。引き続き、応援いただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

藤原: 応援や寄付をいただき、とても励みになっています。海外でも毎日多くの応援の声をいただき、みなさまの「何かしたい」「何とかしたい」という気持ちを強く感じています。この想いを、現地で困っている人に、必ず届けるんだという想いで活動を続けています。どうぞ、引き続きウクライナの状況に関心を持ちつづけてください。よろしくお願いいたします。

▼5月26日まで、ウクライナへの緊急支援の寄付を受け付けています。

引き続き、みなさまのご支援を、どうかよろしくお願いいたします。

text by サトウカエデ edit by 徳 瑠里香