「美術館とクラウドファンディングは相性がいい。」山種美術館が初のプロジェクト挑戦で得た手応えとは?
READYFORでは、2018年の「アート部門」立ち上げ以来、文化や芸術にかかわるプロジェクトのサポートに力を入れて取り組んできました。特にコロナ禍により、美術館・博物館や音楽、舞台芸術などさまざまなジャンルにおいて、活動の継続・発展の手段として、クラウドファンディングに注目が集まっています。
そして最近、多くの文化団体からご相談を受けるのが、「クラウドファンディングを一過性の資金集めではなく、今後の収入構造を見直すきっかけにしたい」というお話です。
これからは「個人からの寄附」も、重要な収入源として向き合っていくべきものになっていくのかもしれない。
そんな中で、クラウドファンディングが、READYFORが、私たちアート部門が担える役割は……?
そこで、アート分野とクラウドファンディングのこれからの関係を考えるインタビューを始めます。第一弾は、東京・広尾にある「山種美術館」の山﨑妙子館長にお話をうかがいました。
山種美術館は1966年に創設された、日本で初めての日本画専門美術館です。独立採算の美術館として、収入のメインを入館料やショップの売り上げに頼ってきました。
しかしコロナ禍で、入館者数が大幅に減少。このままでは美術館の運営そのものが危うくなってしまう──。その危機を感じた山種美術館は、クラウドファンディングに踏み切りました。当館が一般からの寄附を募るのは、開館以来初めてのことです。
美術館の運営体制の変革において、初めてのクラウドファンディングにどんな手応えと可能性を感じているのでしょうか。
聞き手:廣安ゆきみ(アート部門 リードキュレーター)
コロナ禍で経営悪化、美術館の運営のあり方を考える契機に
── 今回のクラウドファンディングでは「収入の構造を考え直さなければならない」と考えてプロジェクトをスタートされたとのことですが、これまではどのような体制で運営されてきましたか?
(山種美術館・館長 山﨑妙子さん)
これまで当館は、寄附金や補助金をほとんど受けずに、皆様からの入館料を収入の柱としています。11年前に美術館を広尾に移設したときも、自己資金で建設し、その後も入館料を中心として運営してまいりました。
新型コロナウイルスの影響が出るまでは独立して採算が取れていたのですが、影響が出てからは大幅な収入減が続いています。2020年4月4日から7月18日まで長期の臨時休館を経験し、その後も入館者数が戻っていないため、当館の運営そのものが危うくなっている状況です。
── そのような難しい状況のなかで、運営資金を補填する方法としてなぜクラウドファンディングを選ばれたのでしょうか。
現在の危機的な運営状況をどう打開するのか、さまざまな分野の方にご相談してアドバイスをいただきました。経費削減の工夫はしましたが、収益を増やすという点では、1日20名ほどしか入館しない状況では打てる対策がほとんどなくて。
そのような状況で、今後について相談していた知人から「クラウドファンディングをやってみたらどうか」と勧めていただきました。経費削減をしすぎて、企画展の質が下がってしまっては本末転倒だと。
── プラットフォームとしてREADYFORを選んでくださった理由はありますか?
クラウドファンディングをどのように実施するのか知らなかったので、まずは複数の運営会社に問い合わせをしました。そのなかで、すぐに丁寧で前向きなメールをくださったのが、READYFORの廣安さんです。READYFORはアート関係のプロジェクトにも力を入れていることも知っていたので、お願いすることにしました。
── 嬉しいです。最初はオンラインで打ち合わせさせていただき、2回目に美術館にうかがって、直接お会いしましたね。
ええ、8月の終わり頃にお会いしましたね。お話ししてみてあらためて、美術館の活動や当館の事情をご理解くださって、私たちの挑戦に対してお力添えいただけることを確信できたので、こういうご縁があってよかったと今でも思っています。
初めてのクラウドファンディングは6日間で目標達成
── 初めてのクラウドファンディングで、戸惑ったことや大変なことはありましたか?
READYFORでプロジェクトを実施すると決めてから、立ち上げまでのスピード感に驚きました。8月の終わりにお会いして、展示替えを挟んで10月7日からスタートしていますから。御社では通常のスケジュールなのかもしれませんが、当館の進め方からするとかなりのスピードで、キュレーターさんのやる気とエネルギーを感じましたね。
── コロナ禍の状況が刻一刻と変化するなか、美術館が実行者となっているプロジェクトが当時はまだ少なかったので、素早い取り組みが注目されたように思います。
そうですね。ウェブ版美術手帖や読売新聞、美術展ナビなどで取り上げていただきました。プロジェクトがスタートする日に記事を掲載してくださったので、ありがたかったです。
他に大変だったこととしては、各界からの応援メッセージに力を入れたのですが、先方がとてもお忙しい方ばかりなので確認が慌ただしかったですね。それでも村上隆さんや千住博さんをはじめ、山種美術館を応援してくださる皆様が快くメッセージをくださって、心強く感じています。
(プロジェクトに応援を寄せてくださった方々。プロジェクトページより)
── 応援メッセージが集まっていくのと並行して、プロジェクトを始めて6日目に目標金額である500万円を達成されました。
非常にありがたいですね。応援してくださった方々のメッセージを読むと、地方に住んでいらして今はご来館が難しい方々からも温かいメッセージをいただきました。応援コメントで「都内で一番好きな場所」と寄せてくださった方もいらっしゃるんです。直接お会いしたことのない皆様も含めて、当館のことをこんなにも応援してくださっているんだ、とすごく励まされました。
── 東京在住でない方の支援も多いことは印象的でしたね。プロジェクトを通じて山種美術館に思い入れを持っている方々を「可視化」でき、クラウドファンディングの価値を私自身も再発見できました。
こういう方法でなければつながれなかった方々に応援していただき、当館の体制を生まれ変わらせる必要性をあらためて痛感しました。温かい思いを寄せていただけて本当に嬉しいしありがたいことなので、応援してくださった方に恩返ししていきたいと思っています。
ネクストゴールを設定したときに、周囲から「どこまで目指すんだ」というお声をもらうこともありました。しかし今回のプロジェクトを通じて、山種美術館のファンクラブのようなつながりを作り、今後の交流に活かしていけたら嬉しいです。
クラウドファンディングから考える、美術館との関わり方
── ネクストゴールの1,000万円を達成されましたが、山種美術館さんにとって実際に運営に役立つ金額のインパクトになっているでしょうか。
はい、ありがたい限りです。毎年入場料として1億円強の収入があったのですが、今年は7~8割ほど売り上げが減少しています。ですから1,000万円以上の資金はとてもありがたく思います。
── 初めてクラウドファンディングを実施されてみて、どのような気づきがありましたか?
このプロジェクトによって当館のことを知っていただく機会になり、広報の面でも恩恵を受けたことは意外な発見でした。
また、これまで親族からの寄附のみで運営してきたので、一般の方に支援していただくことは私たちにとって非常に勇気がいる決断でした。でも私たちの不慣れな部分はREADYFORの仕組みでカバーしていただき、プロジェクトページも一緒に考えてくださって心強かったですね。
特にキュレーターさんは、常に適切なアドバイスをくださって頼もしい存在です。アートに対する関心を廣安さんご自身が高くお持ちなので、全くの部外者ではなくて、むしろ一緒にプロジェクトを進めるメンバーのような感覚でご相談しやすいと感じています。
── そうおっしゃっていただけると、ありがたいです。今回のプロジェクトのなかで美術館の収入構造も考え直していきたいというお話しもありましたが、クラウドファンディングを経ての展望もお持ちでしょうか。
もともとクラウドファンディングの挑戦を始めるときから、これを契機にして、お客様からの寄附を募ることにも力を入れていきたいと考えていました。当館は、他の美術館であるようなメンバーシップ制度のようなものも持っていないので。
クラウドファンディングで想像以上に多くのご支援をいただけたので、ここからその寄附制度をどう整えていくか、クラウドファンディングを定期的に活用するのか、考えていきたいところです。これまでは作品の修復や若手の応援をするときにも、自前の資金でまかなってきました。今後は、そのような側面でもご支援のお力をお借りできる可能性も出てきて心強く思います。
今回のクラウドファンディングを通じて、たくさんの方とつながれることを実感したんです。クラウドファンディングを通じて美術館をより身近に感じていただき、作品に対する理解や親しみを持つきっかけになれば幸いです。
今回、美術館とクラウドファンディングは相性がいいのではないか、と実感できました。当館の現状を変える原動力として今後もうまく活用していきたいです。
山種美術館
山種証券(現・SMBC日興証券)の創業者である山﨑種二(1893-1983)が個人で集めたコレクションをもとに1966年7月、東京・日本橋兜町に日本初の日本画専門美術館として開館した。施設の老朽化に伴って1998年、千代田区三番町に仮移転したのち、2009年10月、現在の渋谷区広尾に新美術館をオープンした。横山大観、上村松園、川合玉堂、奥村土牛、速水御舟、東山魁夷などのコレクションで知られ、現在の収蔵作品は約1800点。公募展などを通じて新世代の日本画家の発掘にも積極的に取り組んでいる。
山﨑妙子館長
山﨑種二の孫で、二代目館長の山﨑富治氏は父。慶応義塾大学卒業後、東京藝術大学大学院美術研究科後期博士課程修了。学術博士。2007年より現職。
このプロジェクトは12月14日(月)の23:00まで実施中です。山種美術館への思いが集まっているプロジェクトページもぜひご覧ください。
クラウドファンディングにご興味がある方はお気軽にお問い合わせください。
READYFORアート部門 担当・廣安宛て
art_div@readyfor.jp
text by 菊池百合子 edit by 徳瑠里香