クラウドファンディングで、日本最古の車両「モ161号」を走らせ続ける。阪堺電車の挑戦の裏舞台
廃線となったあの列車を復活させたい。解体の危機にある名車を救いたい。歴史ある鉄道の未来を守りたい。
そうした想いを起点に、クラウドファンディングREADYFORでは、鉄道をはじめ「のりもの」に関するプロジェクトが続々と立ち上がっています。
もうすぐ100年を迎える、日本最古の、世界的に見ても稀有な存在である「モ161号」を末長く走らせたい。大阪・阪堺電気軌道株式会社さまも、クラウドファンディングを通して、その想いを実現するための、大規模修繕工事の費用を集めました。
878人の方から、目標金額を上回る1,300万円以上が集まり、「モ161号」の動態保存が進められています。
今回、プロジェクト企画立案から達成まで伴走した「のりもの」分野専任のREADYFORのキュレーター桝田乃梨子とリードキュレーターの友永大智が、阪堺電気軌道株式会社さまを訪問。クラウドファンディング実施の背景にある想いや実現したこと、手応えなど、あれこれお聞きしました。
もうすぐ百寿を迎える、歴史ある電車だからこそ、現役で走らせたい
── クラウドファンディングに挑戦しようと思った理由からお伺いできますか。
はい。今回修繕費を募った「モ161号」は、非常に歴史の長い車両で、通常営業している電車の中では日本最古、世界でもニューオリンズとミラノを除いてほとんどない稀有な存在です。
通常営業と貸切電車として運用しているのですが、車体内部や扉が木製のため腐食が進んでおり、大規模修繕が必要になったんですね。モ161号を貸切電車でご利用いただいたお客さまに維持協力金をいただきながらなんとか維持をしている状況でして、そこにコロナ禍による業績悪化が重なり、自分たちで修繕費を賄うことが難しくなっていたんです。
そもそも運用できる状態で保存をすべきかどうかも社内で議論をしたんですが、やっぱり歴史ある電車だからこそ、可能な限り現役で走らせたい。「モ161号」の歩みを止めないために、なんとか資金を集められないか。そうした想いから、クラウドファンディングという手段に行き着きました。
── 社内でクラウドファンディング実施の意思決定をするうえで、ハードルはありませんでしたか?
やっぱり初めてのことなので、本当にお金が集まるかどうか、不安がありました。当初は、修繕に必要な金額をすべてご支援いただけたらと思っていましたが、金額が大きくなってしまうので、社内で話し合って、扉など修繕箇所を絞った金額に設定することにしました。また、All or NothingではなくAll in方式を選ぶことで、万が一達成しなくても、補填する形で修繕が実施できるよう、リスクを回避しました。そのうえで、覚悟を決めて挑戦した感じです。
古い電車を走らせることで、時代をつないでいく、という覚悟
── プロジェクト準備期間についてもお聞きします。プロジェクトページはいただいたときからしっかりまとまっていて、私のほうで提案や手直しする必要がなかったほどでしたが、どうやって作成されたのでしょう?
どんなストーリーを打ち出していくかを考えたときに、歴史の長い車両なので、私たちも「モ161号」がかつて走っていた「平野線」のことをよく知らなかったんですね。それで、七十歳を超えるお客さまが、平野線を走っていた時代を知っているということで、お話を聞かせてもらったんです。「こういうエッセンスをいれたほうがいいよ」とアドバイスまでしてもらって。
私たちも知らない平野線と、いまの阪堺電車をどうリンクさせるか。歴史を伝えつつも、古い電車が、いまも現役で走っていて、これからも走っていくんだよ、という想いを表すことに心を砕きました。会社として、時代をつないでいく、という覚悟が伝わるように。
── とても想いが伝わるページになっていたと思います。プロジェクトのリターン(返礼品)はどのように検討されましたか?
せっかくみなさんから支援をいただくのに、返礼品にお金がかかってしまっては、本末転倒になってしまうので、いかにお金をかけずに、みなさんにも喜んでもらえるものを届けるか。そのあたりを意識して検討していきましたが、調整はなかなか大変でした。結果的に、モ161号の貴重な部品をお渡しするほか、修復が完了した際のお披露目撮影会への参加や列車の貸切運行の権利など、モ161号を味わってもらう体験コースを増やしました。
たくさんの協力と支援を得て、16日間で目標金額を達成!
── プロジェクトがスタートして、16日で目標金額を達成されましたね。
社内でもみんな本当にびっくりしていましたね。運転士や退職したOBも気にしてくれていて。初日に120件を超える支援があって、そこからわずか16日で達成。思ってもみなかったことでした。
── プロジェクト達成の要因はどこにあると思われますか?
大手新聞社さんが全社取り上げてくださった影響は大きいと思います。平野線に思い入れのある世代でもある高齢者の方にも広く届けられました。インターネットが使えないので、直接寄付したいとおっしゃってくれる方も何人かいましたね。READYFORのキュレーターの伴走と、クラウドファンディングの力もあると思います。私たちは特別なことは何も……(笑)。
本当にたくさんの人たちの協力があって、実現できたことだと思ってます。中小企業なので少ない人数でやっていて、腹を決めたらやるしかない、という気持ちで、いろんな方にお願いをさせてもらって。たくさんの協力者のおかげで、たまたま想像以上の結果になったのかなと思っています。
支援者との間に生まれた、豊かな言葉のコミュニケーションが何よりの励みに
── クラウドファンディングの手応えや可能性をどんなところに感じていますか?
いちばんよかったと思うのは、日頃直接関わる機会の少ないお客さまの声を聞くことができたこと。そこに対して弊社側のお礼の気持ちを伝えることができる。要はコミュニケーションですよね。
運転士であれば挨拶や言葉を交わす機会があると思うんですが、我々、本社勤務の人間はなかなかお客さまと直接コミュニケーションをとる機会がありません。でも今回クラウドファンディングを通して、応援メッセージをいただき、お返事ができた。ただ寄付いただくだけでなく、豊かな言葉でのコミュニケーションを持つことができたのが、本当にいい経験でした。
── 印象に残っているコメントやお客さまとのコミュニケーションはありますか?
私は平野線についてあまりよく知らなかったんですが、コメントを見ると平野線に特別な想いを抱いている方も多くて、改めて知ることができました。時代はつながっているんだなあということを感じましたね。
── 車両の部品などのリターンも直接お客さまに渡されたんですよね。返礼品をお送りする中で生まれるコミュニケーションはありましたか?
そうですね。車両部品の受け渡しは阪堺本社で行ったので、日程調整はなかなか大変でしたが、来てくださったお客さまが目の前で喜ぶ姿を見ることができて嬉しかったですね。一件、長野の支援者さんがご家族の反対があって辞退されたので、代替品をお送りしました。その部品は、いま堺市内の博物館で一時的に展示してもらっています(現在、部品の展示は終了しております)。
返礼品の作成やお渡しは大変ではありますが、喜んでもらえるのは嬉しいですね。リターンの写真集も、プロのカメラマンが無償で撮影をしてくださって、期待以上の作品ができたと思っています。
── そして、「モ161号」の修繕も無事進みましたね!
おかげさまで、私たちが想定していた以上の範囲での修繕ができました。お披露目会をしているのですが、鉄道ファンの方々が写真を撮りにきてくれて、1日乗車券の売り上げが昨年同時期の2倍ほどなんです。
最初はお金が集まるかどうか不安であれこれ社内で知恵を出し合っていましたが、結果的には目標金額を上回る支援が集まった。新聞はじめ多くのメディアで取り上げていただいたことで、認知度があがり、お客さまも増えた。「モ161号」はステップが高いので、高齢の方は乗りにくいんですが、以前、乗車のお手伝いに行った時に「この電車、今すごく人気あるんよね~」と言ってくださって。嬉しかったですね。我々や鉄道に対するお客さまの声や思い出のエピソードをたくさん聞けたのも、何よりの励みになりました。
非常に効果的にクラウドファンディングを活用できたと思うので、今後もまた必要なときは、挑戦したいと思っています。
クラウドファンディングにご興味がある方はお気軽にお問い合わせください。