ビジネスとクリエイティブの新しい関係性-電通菅野薫×READYFOR米良はるか
2019年10月16日、READYFORは進化します。ロゴ・サービス表記・UIを刷新し、新ステートメントを掲げました。
このコーポレートアイデンティティ(CI)の刷新は、2018年10月にREADYFORのクリエーティブアドバイザーに就任した、電通の菅野薫さん率いるクリエイティブチームが手がけました。菅野さんは、数多くの賞も受賞する広告のトップクリエイター。
なぜ菅野さんがREADYFORのクリエイティブを担当することになったのか。今回のクリエイティブはどのようにして生まれたのか。ブランド刷新の経緯と背景にある想いについて、菅野薫さんとREADYFOR CEO米良はるかが語り合いました!
(電通クリエイティブディレクター菅野薫さんとREADYFOR CEO米良はるか)
ビジネスとクリエイティブの新しい関係性
ーー そもそもREADYFORがこのタイミングでCIを刷新しようと思ったのはなぜですか?
米良はるか(以下、米良):2018年10月にREADYFOR初の資金調達をしたんですが、それは新たな挑戦をしたいと思ったからで。2011年に日本初のクラウドファンディングをスタートして以来、事業は市場の拡大とともに成長し、資金調達の手段としても市民権を得てきました。
2年前に病気をして、会社を離れている期間に、「挑戦する人たちにもっとお金を流したい」と強く思ったんです。テクノロジーを使って、自分たちがそれまで多く関わってきたソーシャルな領域をはじめ、既存の仕組みではなかなかお金が流れないところへ、もっと想いの乗ったお金を流す挑戦をしたい、と。
READYFOR=クラウドファンディングの会社という印象が強いと思うんですが、そこから社会のお金の流れを変えていく会社になるんだ、ということを示す必要性を感じていて。私にとっても、チームにとっても、世の中に対しても、そのための「羅針盤」として、ブランドを進化させたいと思っていました。
ーー 菅野さんがREADYFORのクリエイティブを担当することになった経緯は?
米良:菅野さんとは4〜5年前にお会いして、いつかREADYFORのクリエイティブをサポートしてもらえたらとずっと思っていました。私たちとしても本気で進化したいと思っている今だ! と、「手伝ってほしいです」とメッセージを送ったんです。
菅野薫さん(以下、菅野):米良さんから直接メッセージをいただいて、当初はその「お手伝い」がどの範疇を示すのか、正直わかってなかったです(笑)。でも、米良さんが会社としてどんな社会を実現したいかはわかっていたので、自分にできることがあるならやろうと。仕事内容や条件ではなく、「米良さんだから」引き受けました。
米良:私自身も「菅野さんとご一緒したい」という強い思いでお願いしたんですが、その背景には当然、日本のトップ企業である電通がいるわけで。結果的に、新しい事例をつくることになり、ご苦労をかけた点もあったと思います。
菅野:スタートアップと組むことやブランド構築のお手伝いをすることはあったけれど、基本的には従来の産業構造に沿って、受注・発注する関係だったので。社外のクリエイティブアドバイザーに就任して、がっつりパートナーシップを組むやり方は、僕としても会社としても、新しい試みでしたね。会社は前向きでしたが、前例がないので、一つ一つ確認しながら進めていく必要はありました。
でもそれは大した苦労ではなくて。むしろ、メディア構造やコミュニケーション手法が変化する中、ビジネスとクリエイティブの関係も再開発されるべきだと思っていたので、いい機会になりました。大企業も時代の変化に合わせて柔軟に対応していかないと。
そもそも僕自身はクリエイターとして、常に新しいコンペに参加して一回限りの仕事をするより、指名してくださる会社やプロジェクトとできる限り長い関係性を築いていく方が好きなんです。クリエイターには、合コンが得意なタイプと、結婚が得意なタイプがいるってことなんでしょうか。
米良:菅野さんは、結婚が得意なタイプ!(笑)
菅野:良い感じに聞こえるように例えていますが、そうなんです(笑)。特に企業のブランディングは、長期的なパートナーシップを結んで進めたほうがいいと思うんです。会社のアイデンティティに紐づくものなので。時代に合わせて新鮮さを保つために表に出てくることは柔軟に変化していくべきですが、根底にあるものはブラしちゃいけない。その都度代弁する人が変わるよりも、一緒にアイデンティティを定義するプロセスを踏んだ人がその後のクリエイティブを一貫して担った方がいい。
ビジネスとクリエイティブの関係性としても、ブランドの真ん中に通底するものを一緒に探った上で、ブレない関係性でやり続けられるなら、ぜひやりたいと思ったんですね。
弱さも全部さらけ出して、アイデンティティを一緒に探り続けた
ーー 具体的にはどのように進めていったのですか?
米良:まずは菅野さんにREADYFORが今持っている力と、これから目指す世界について、包み隠さず伝えました。今はここにいるけれど、今後ここまで行きたい。その「羅針盤」になるものをつくってほしいと。
最初のMTGが昨年の11月くらいだったんですけど、その時に菅野さんがコピーライターの渡邊千佳さんと、アートディレクターの窪田新さんをはじめ、チームを組んで来てくれたんですよね。
菅野:ブランドの根幹にあるアイデンティティに関わるものだから、僕らが一方的に考えて提案するというよりは、米良さん=READYFORの中にある答えを一緒に探っていくプロセスが何より重要だと思っていて。
社会に対してどういう存在でありたいか、どうしてこの事業に人生の多くの時間を費やすことを決めたのか。米良さんとREADYFORにしっかり向き合って理解しようとしてもらう必要があるので、どう引き出していくかのプロセスを想像しつつ、米良さんと合う!と思ったメンバーを選びました。そこはロジカルではなく、直感ですね。結婚相手のようなものなので、条件やスキルよりも、生理的に合うかどうかが重要だと思うんです。
米良:それはもう、本当に、素晴らしいチームでした!菅野さんのチームを心から信頼しているからこそ、自分たちが目指す世界を実現するために足りないことや弱さも全部さらけ出すことができた。想いをぶつけて、受け止めていただいて、一緒に探ってくれたからこそ、いいものに近づいているという確信が常にありました。
タイミングも良くて、READYFORとしても経営陣やメンバーを増やして組織をアップデートしている時期で、私自身、会社をどう成長させていけばいいかを深く考え続けることができました。
菅野:僕らの中に最初から答えがあるわけではないので、米良さんは、READYFORは、どうしたい?と投げかけ続ける必要があると思っていて。言語化・構造化はできていないけれど、ブランドの根幹にあるアイデンティティを探る時間をたくさん取りました。
その過程で、米良さんから出てきたものを僕らが咀嚼して表現にしていく。もちろん、かたちにして初めてわかることも多々あって。僕らが提示したものに対して、微妙にニュアンスが違うとか、ここはしっくりくるけどここは違和感があるとか、何度もやりとりを重ねて、ひたすらチューニングを重ねてきた感じですね。
両極端な性格が混ざり合う。複雑なものを複雑なままに表現。
ーー 時間をかけて探る中で、READYFORのアイデンティティをどのように捉えたのでしょうか?
米良:私は、菅野さんがREADYFORの特徴を「アンビバレント(相反する性質が混ざり合うこと)」と表現された時に、すごく腑に落ちました。
菅野:READYFORの人格として、一見すると相反するような性格が混ざって出てきていると感じていて。ロマンティックなことを語っているかと思えば、ロジカルに説明したり、エモい言葉と難しい言葉が混じったり。社会に対して強くもあり、優しくもある……。
米良:まさに、経営陣をはじめうちのメンバーも、交わされる会話も、エモさとロジカルの振り幅が広い。いろんな性質が混ざり合って複雑性を持っていると感じていました。
菅野:だから、元々のロゴの赤よりも柔らかい、グラデーションで表現したんですよね。
米良:すごくしっくりきました。クラウドファンディングも相反するものも含めて、いろんなプロジェクトが同じページに並んでいて、複雑性を伴っています。夢に向かって何かをやろうと挑戦している人の気持ちだって、ストレートなものではなく、複雑なものだと思うんです。私自身も、AかBかの世界は好きじゃないので、その複雑性が表現されたロゴを見たときに、これだ!と心がピタッと重なったんです。
菅野:ステートメントの「想いをつなぐ金融機関」というタグラインも真逆な性質のことばがくっついていますからね。堅実だけど、天真爛漫。論理的だけれど、想いが無防備なほどにあけすけ。どちらに近いかではなく、どちらも存在すると言ったほうが、インパクトもあって、READYFORらしさが出る。真逆な構造が同居することはあり得ることなので。
米良:まさに、両極端な性質を持っているがゆえに、アイデアをたくさん出してもらった際に、迷って悩んで、決めきれずに、何度もご相談させてもらいました。たくさん時間をかけてもらって、私自身もたくさん向き合って考えたからこそ、見えてきたものだったと思います。
菅野:最終的にロゴやステートメントがどうなったかよりも、こうして時間をかけてアイデンティティを探っていくプロセスの方が大事。そういう意味で、今回しっかりぶつかり合って、ブランドの根幹を共有できたことは大きいと思っています。
米良:ロゴやステートメント、今回のクリエイティブは、今現在の私たちには過分なものだとは思っています。でも、私が見ているREADYFORの世界を、将来私たちが提供したい価値を、映し出してくれている。まさに、ここへ向かうぞ!というREADYFORの「羅針盤」。動き出しそうなこのロゴを持って、いろんな展開をして、ステートメントを胸に、READYFOR自体も、どんどん変化していきたいです!
菅野:ロゴや名前というのは一緒に育てていくものだと思うんです。バンド名も、最初は意味がわからなくても、人気者になればオーラをまとってくるわけで、The Rolling Stonesだって、Mr.Childrenだって、DREAMS COME TRUEだって、実績のない新人として言葉だけを見たら、全然聴こえ方が違いますよね。何で石が転がるのよ、大人なの子どもなの?長くない?って思うかもしれないでしょ(笑)。実績が名前やロゴにオーラをつけていくことはあると思います。
一生懸命続けていけば、ロゴやステートメントに、文脈とストーリーとオーラが生まれていって、どんどん愛着が湧いていく。今回のクリエイティブは、メンバーをはじめ、実行者、支援者、READYFORに関わるステークホルダーみんなのもので、一緒に育てていくものです。そういう意味では、発表した今日の反応よりも、10年後のREADYFORに対するイメージが豊かであることの方が大事だし、これからが楽しみですね。
米良:10年後に、今回掲げた世界を実現できているよう、頑張ります!
菅野薫さん
(株)電通 CDC / Dentsu Lab Tokyoエグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター/クリエーティブ・テクノロジスト2002年電通入社。テクノロジーと表現を専門に幅広い業務に従事。本田技研工業インターナビ「Sound of Honda /Ayrton Senna1989」、Apple Appstoreの2013年ベストアプリ「RoadMovies」、東京2020招致最終プレゼン「太田雄貴 Fencing Visualized」、国立競技場56年の歴史の最後の15分間企画演出、GINZA SIXのオープニングCM「メインストリート編」、BjörkやBrian EnoやPerfumeとの音楽プロジェクト等々活動は多岐に渡る。JAAA クリエイター・オブ・ザ・イヤー(2014年、2016年))/カンヌライオンズ チタニウム部門 グランプリ / D&ADBlack Pencil(最高賞)/ One Show -Automobile Advertising of the Year- / London International Awardsグランプリ / Spikes Asiaグランプリ/ ADFEST グランプリ / ACCグランプリ / TIAA グランプリ / Yahoo! internet creative awardグランプリ/ 文化庁メディア芸術祭 大賞 / Prix Ars Electronica 栄誉賞 / STARTS PRIZE / グッドデザイン金賞など、国内外の広告、デザイン、アート様々な領域で受賞多数。
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text by 徳 瑠里香 photo by 戸谷信博