「お金を軸に、アーティストと芸術文化を支えたい」アート部門を旗揚げした元文学少女の夢
出版社から刊行される小説や写真集が飛ぶようには売れない時代。“作品”が売れずに、アーティストが食べていけなくなってしまったら、文化が廃れていってしまうのではないか。
お金を軸に、芸術文化やアーティストを支える仕組みを模索したい。
そんな思いを持って、READYFORは2018年7月、「アート部門」を立ち上げました。
アート部門はどんな経緯で生まれ、実際にどんなことをしているのか。アート部門を旗揚げしたキュレーター・廣安ゆきみさんに話を聞きました。
芸術文化に育てられてきた。出版社からの転職
ーー廣安さんはもともと出版社にいらっしゃったんですよね。
はい。もともと私は、小説や音楽、美術など「芸術文化」が好きで。広島で小説を読んで育ち、大学で上京してからは、その延長線上でよく美術館へ足を運んでいました。
特に純文学が好きで、大学卒業後、出版社に就職し念願の編集者になったんですが、やはり会社は利益を追求することが大前提。出版社も生き残りをかけている時代なので当然なんですが、勝手な憧れが大きかったぶん、「私は何がしたいんだろう」とだんだん気持ちが迷走していました。
そんななか、READYFORの富澤さんと出会って、クラウドファンディングの存在を知りました。「やりたいことがある人がやりたいことを表明し、応援したい人が応援する」という「みんなが前向きなまま利益を追求できる」READYFORのビジネスに魅力を感じました。
これから本当に文化を繋いでいくためには、単にいい記事や書籍をつくる力を培っていくだけでは不十分だという思いもあり、転職しました。
ーー実際にREADYFORで働いてみて、どうですか?
READYFORはスタートアップですが、私が勝手にイメージしていた“オラついた人”はいなくて、真面目で愚直な人たちが多く、根暗な私も生きやすい(笑)。楽しくやっています。
ーー違う業界からの転職ですが、前職との違いは感じます?
やりたいことがある人の話を聞き出して、プロジェクトページを作成し、達成まで伴走するキュレーターの仕事は、編集者の仕事に似ているとも感じています。
一方、働き方としては、メンバーがみんな若い会社なので、自分でイニシアチブをとって仕事ができるのが面白いですね。道筋のない仕事なので、自分で考えて動くことができる。
「アートとお金」を考える。アート部門、旗揚げ!
ーーまさにご自身がイニシアチブをとって2018年7月に「アート部門」を旗揚げされた。その経緯は?
READYFORに入社した頃からずっと、クラウドファンディング等を通じて、芸術文化やアーティストを支える仕組みを模索していきたいと思っていました。だから「アートが好きです」と積極的に手を挙げて、アート案件を担当していたのですが、やればやるほど、もっと知識と経験を深めたいと思うようになって。同じくアートに興味があるキュレーターの小谷と一緒に、勉強がてらよくアートイベントに出向いていました。
その過程で、アート業界でどれくらいクラウドファンディングをはじめとした資金調達の需要があるのかを知るために「アートとお金」をテーマにイベントを企画・開催したんです。
ーー それは、どんなイベントですか?
「アートとお金 ーー "先"のある資金調達を考える。」というテーマでアート団体と関わりの深い3名の登壇者の方をお呼びして、クラウドファンディングも含めたアート団体の「これからの資金調達」について、実際の事例をもとに考えました。
私たちの目的は、「アートとお金」に関してどれだけ“引き”があるのかを知ることと、アート業界の人たちと“つながり”をつくることでした。
ーー手応えはどうでしたか?
告知の時点で、予想をはるかに超えた反響があって、100名の申し込み枠はあっという間に埋まり、Facebookのイベントページには2,000人近くの人が「興味ある」ボタンを押し、会社にもなんとかして入れないかと電話がかかってくるほど。本番のトークセッションの中では、これから私たちが向き合うべき課題がたくさん見つかり、登壇してくださった方との関係性も築けました。
実際に需要があることがよくわかったので、これは本腰を入れてやりたいと、小谷と一緒に「アート部門」を旗揚げしました。
アーティストを支える、「お金と言葉」を集める
ーー実際にどんなことをやっているのですか?
今は、アート業界で「クラウドファンディングといえばReadyfor」と言ってもらえるような土壌をつくっているところです。アート業界に少しずつ潜り込んでいって関係性を築いたり、認知を広げるためのイベントを開催したり、つながりができたアート団体のクラウドファンディングを実行したり。
実際に動き出してみて、アート業界に、想像以上にお金が足りていないことを実感し、力になりたいという思いが強まると同時に、自分たちの力不足も痛感しています。私もメンバーもアートは好きでも現場で仕事をした経験がないので、まだまだ寄り添えるほど理解が深まっていない。だから今は、現場の声に耳を傾けながら、理解を深め力をつけていきたいと思っています。
ーー具体的にどんなアートプロジェクトが実行されたんですか?
たとえば、落合陽一さんと日本フィルがタッグを組んで実行した、テクノロジーで音楽のバリアフリーに挑む「耳で聴かない音楽会」やオーケストラをアップデートする「変態する音楽会」は、合計1,000万円以上を集めました。日本フィルさんは、伝統的ないわゆるオーケストラ・コンサート以外のことにも挑戦していて、クラウドファンディグも積極的に使ってくださっています。
ほかにも、ナガオカケンメイさん率いるD&DEPARTMENTが実行した「長く続くいいもの」を繋ぐために制作する「dnews」の制作費を集めるプロジェクトも600万円以上を集めました。
特に思い入れのあるプロジェクトのひとつが、若くして亡くなった劇作家・危口統之さんの作品のアーカイブを制作する「蒐集計画」。彼を慕う人たちがプロジェクトを実行したんですが、アートに関わる人を中心に、追悼の言葉も含めて、危口さんに対する思いがたくさん集まって、いかにも“クラウドファンディングらしい”と感じました。
ーー“クラウドファンディングらしい”とはどういうことですか?
クラウドファンディングの面白いところは、単にお金が集まるだけでなく、支援した人たちの「言葉の集積場」になるところ。支援する時にコメントが残せるので、普段面と向かって伝えられることが少ない“応援の気持ち”が可視化されるんです。「お金と言葉」が目に見えるかたちで集まる。
お金以上に、人の思いや応援の声が集まったことで、自分たちの活動の意義が見いだせたと喜んでくださるアーティストもいます。お金だけではなく、応援の言葉が集まることが、クラウドファンディングで資金調達をする意義だと思います。
文化を継承していくために、お金という観点でできることがある
ーー プロジェクトを実行する際、キュレーターとしてどう“寄り添って”いくんですか?
クラウドファンディングを達成するために大事なのは、”どう見せていくか“。どういう人たちに、どんなメッセージを届け、いくらで何を「リターン」するか。お金を集めるために、実行者とやりとりを重ねて、プロジェクトページを作成します。
プロジェクトが動き出してからも、埋もれないように、SNSでの発信やメディアとの連携、イベントの開催など、進捗を確認しながら、達成まであらゆる手を打っていきます。
あくまで私たちは“寄り添いサポートする”立場で、クラウドファンディングでお金を集めるという覚悟を持った実行者の自主性を尊重しています。
ーーキュレーターという仕事のやりがいは?
実行者や支援者のみなさんから直接「ありがとう」と言ってもらえる機会が多いことですね。
また、アート業界に足を踏み入れて、お金を切り口に、まだまだ自分たちにできることがたくさんあると感じています。READYFORはクラウドファンディングだけの会社じゃないので、もっと大きな金額を集めるファンドレイジングとか、新たなやり方も模索していきたいです。
お金を集めるという観点で、アーティストを支え、芸術文化を継承していく。そのためにもっと勉強して、できることを考えて試して、力を鍛えていきたい。そこに純粋に向かっていけることは、この仕事の大きなやりがいです。
text by 徳瑠里香
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