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社員一人ひとりが社会に対してできることを。コロナ基金で従業員寄付を募った野村HDが考える支援のかたち

新型コロナウイルス感染症が社会に大きく影響を及ぼす中、多くの企業が社会に対してできることを模索しています。

「社会に貢献する意識を持ちそれを実践している企業が、様々なステークホルダーの共感を生む時代になりつつあります」

そう話すのは、野村ホールディングス株式会社(以下、野村HD)で企業の長期的成長に向けた取り組みを行うESG推進室・室長の園部晶子さん。

今年4月に立ち上がった「新型コロナウイルス感染症:拡大防止活動基金」(以下、コロナ基金)に対し、野村グループは役職員募金+マッチング・ギフトの拠出*を実施しました。

*マッチング・ギフト…役職員が福祉団体などに寄付を行う際、企業が寄付金額と同額または一定額を上乗せして寄付する制度

役職員募金では、通常の現金での寄付に加え、野村HDの出身である原田 大資さんと楠本 拓矢さんが立ち上げた株式会社WellGoと野村證券健康保険組合と連携し、健保ポイントをコロナ基金に寄付できる仕組みを採用。寄付のハードルが下がり、より多くの社員が支援の輪に参加してくれたといいます。

コロナ禍、企業の社会貢献がますます重要になる中で、野村HDはどんな方針で支援を実施してきたのでしょうか。

コロナ基金で従業員寄付を募った背景、社員一人ひとりに寄付を呼びかけた工夫など、野村HDが実施した「寄付のかたち」について話を聞きました。

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野村ホールディングス株式会社
ESG推進室 室長 園部 晶子氏
野村グループ全体のESG/SDG担当として、外部評価の対応や統合レポート等の作成、および金融経済教育、寄付・ボランティアといったグループ全体の社会貢献活動推進に取り組む。今年の4月から、部署が広報から経営企画主管に変更。野村ホールディングス全体として、ESG/SDGsの取り組みを行っている。

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株式会社WellGo
代表取締役 兼 CEO 原田 大資氏
元野村ホールディングス株式会社所属・社内ベンチャー1期生。2017年、野村ホールディングスと野村総合研究所のビジネスコンテストで入賞、2019年にAIやビックデータを活用し従業員の健康をサポートする「クラウド健康経営プラットフォーム・WellGo(ウェルゴ)」を運営する株式会社WellGoを共同代表の楠本 拓矢さんと共に立ち上げる。

金融大手として経済を止めず、豊かな社会の創造に貢献する取り組みを

――今回のコロナ禍において、野村HDが行った支援についてお聞かせください。

園部:私たちは金融業です。まずは金融システムを維持しつつ、経済活動に影響を及ぼさない体制づくりを第一に考えました。早期に対策本部を立ち上げ、全国の店舗運営、ならびに世界中の拠点の業務が滞らないよう取り組みを進めてきました。

コロナ禍での支援の基本となったのは、私たちの企業理念である「金融資本市場を通じて、真に豊かな社会の創造に貢献する」です。その実現のために前提となるのは健やかな社会環境であり、私たちは真に支援が必要な人たちや活動、場所を特定し支援を実施してきました。

具体的な支援としては、5月末に日本政府と赤十字社、つながりのある児童養護施設に対して、マスクを合計100万枚配布しました。

そのほか、ESG推進室が実施する金融経済教育の教材を、休校となり自宅学習となった子供たちへ無償提供したり、ウェブサイト上で塗り絵を配布したりしました。

こういった活動の延長線上にコロナ基金への役職員募金があります。コロナは被害が全世界に及び、社員自身も不自由な生活を余儀なくされていることから、役職員募金とマッチング・ギフトの拠出は、日本だけでなくグローバルの海外拠点でも実施しました。寄付先の決定については、各拠点に任せており、日本ではコロナ基金を選択しました。

社員一人ひとりに、自分にできることを考えてもらうきっかけを作りたい

ーーコロナ基金はどのようにして知ったのですか?

園部:初めて知ったのは、プロ野球選手が自身のSNS等で寄付を呼び掛けていることを報じたニュースです。コロナ基金が立ち上がって1週間後くらいのタイミングだったと思います。

ーー寄付先としてコロナ基金を選ばれた背景にはどんな想いがあったのでしょうか?

園部:世の中に多くの社会課題があること、それに対して多様なプロジェクトが立ち上がっていること、そして支援する個人が大勢いること。コロナ基金を通じて、クラウドファンディングに触れることで、そういった社会の取り組みを、社員一人ひとりが知り、自分にできることを考えるきっかけを作りたいという想いがありました。

また、個人的には、資金調達の手段としてクラウドファンディングにも関心がありました。我々証券会社は、大きな規模のファイナンスのお手伝いをすることが多く、規模は小さくても社会に必要とされる個人の活動などに対するファイナンスの選択肢は少ないんですね。今回、READYFORさんとご一緒させていただくことで、漠然と何か新たな可能性が開けるといいなとも思っていました。

そこで、READYFORさんの窓口に問い合わせたところ、驚くほどのスピードで担当の三倉さんから折り返しお電話をいただいたのが始まりです。

多くの社員の参加を促すため、寄付先が多様である基金が望ましかった

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(WellGo原田さん、野村HD園部さん、READYFOR望月)

――具体的に実施の話を進める中で、決め手となったポイントはどこにありましたか?

園部:一番の理由は、寄付金の助成先が多様であることです。役職員募金を行うにあたって、金額の大小は問わず、できるだけ多くの社員に参加してほしいという気持ちがありました。

コロナ基金には、医療機関だけでなく教育や子ども食堂など、医療から福祉まで幅広い機関・団体が支援先となっています。そのため、社員の多様な想いに応えられるのではないかと考えました。

ほかにも、寄付の金額や助成の実施状況がプロジェクトページで頻繁に更新されていたり、報告メールが後日届いたり、お金の流れの透明性が高い点が魅力でした。

また、寄付先を検討するにあたって、READYFORのサイトで実際にプロジェクトの支援をしてみたところ、非常にスムーズに手続きできたんですね。インターネットで簡単に操作できる点も実施の後押しになりました。

――支援先の多様さと寄付を簡単にできることが、多くの社員に呼びかける従業員寄付に適していたのですね。

園部:そうですね。加えて、外部サイトで社員が直接寄付を行うため、私たちが寄付金の取りまとめをする必要がなく、社内の事務作業を省力化できる点も助かりました。税制優遇の領収書が出るなど、細かな配慮もありがたかったです。

SDGs×WellGoで健保ポイントから支援できる仕組みが寄付の後押しに

――今回、寄付のひとつの手段として、野村證券健康保険組合と連携してポイントで寄付ができるWellGoを採用されたのは、どういった背景からですか?

園部:SDGs×WellGoのコラボ企画を昨年からESG推進室でも行っており、その枠組みの一貫として原田さんから、従業員寄付の検討段階でお話をいただいたのが始まりです。

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原田:WellGoは、「会社の健康経営や健保の保健事業をサポートするプラットフォーム」で主に大手企業様に利用して頂いております。テクノロジーの力により幸せの基礎であるヘルスリテラシーの醸成を目指しています。

WellGoのサイトでは、健保の保健事業のポイントをAmazonギフト券やスタバの商品券と交換できます。人間ドックの早期受診や禁煙など健康によいとされる行動を社員がとると、ポイントがたまり、ボタン一つでお金の代わりに使用できる仕組みです。今回の取組は野村証券健保組合の強力なサポートもあり実現しました。

SDGsや健康の共通の課題は、「リテラシー」だと思っています。つまり、まず、気づいてもらうこと、気にかけてもらうことがスタート地点になると。

そのため、ポイントの交換先としてNPO法人・全国こども食堂支援センターの「むすびえ」や持続可能な社会のために教育現場を応援する「SDGs for School」など、幅広い活動との連携をはじめました。コロナ基金へのポイント寄付も、この取り組みを知ってもらいたいという想いが背景にありました。

――健保ポイントを利用してクリックひとつで寄付できるのは、社会課題を知ってもらうきっかけにもなるし、支援のハードルも下がりますね。

原田:そうなんです。健保ポイントの合計は一人3000円程で少額ですが、結果的に1500人以上の健保に加入している本人やその家族が今回のコロナ基金に寄付してくれました。

園部:WellGoとの連携は、金額は小さくとも、多くの社員にとって寄付へのファーストステップにつながったのではないかと思います。寄付を仕組み化すれば、ハードルが下がります。一人でも多くの社員に寄付へ参加してもらうという点で、とても大きな一歩になったと感じています。

導線をつくり、社内のインフルエンサーを起点に寄付文化を広げる

――野村HDさんは、募集期間中、1日も支援が途切れることなく、多くの役職員の方が寄付に参加してくれました。みなさんの寄付を促すために工夫されたことはありますか?

原田:WellGoの健保ポイント寄付において意識したのは、導線づくりです。ポイント交換のページは、「小さなきっかけを与えて人々の行動を変える戦略」といわれる行動経済学“ナッジ”の手法に基づいて作成しました。

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どれだけの人が参加しているのか、機会損失になることを具体的な数字で示し、「あなたへ」のメッセージで訴えつつ、目標設定を共有することで、寄付をする人の気持ちを引き出し、行動へつなげていく。整備された導線は、ユーザーとの間に信頼関係を醸成します。

また、寄付への細かい目標設定も効果的でした。コロナ基金へ振込む金額のラインを10万円毎に設定していたので、「あと〇万円で振り込みます」と状況を共有することで、社内で「寄付しよう」というコミュニケーションが活性化したと聞いています。

園部:社内では会議などの社員の会話の中で「寄付した?」「寄付しようよ」といった言葉が交わされる場面もありました。

原田:コロナ基金に寄付をすることで、寄付先の取り組みに共感し、ファンになり、周りにも寄付を自然と薦めるようになるんですよね。「善意の循環」が生まれていました。

園部:そのきっかけとして、役員会で話題にあがったり、発信力のある社員が共有メールを送ったり、社内の「インフルエンサー」が寄付の広がりに果たした影響は大きかったと思います。

個人の寄付なのでもちろん強制はできませんが、社内に幅広いネットワークを持っていて影響力の大きい方々に私からも直接電話をして、今回の従業員寄付についての話をすることもありました。

知ってもらうための工夫としては、社外のインフルエンサーとして、弊社が協賛しているスポーツ選手に動画でメッセージをいただき、イントラネットで発信することもしました。

「企業」だけでなく「個人」ができることを考える取り組みを続けたい

――今回、コロナ基金を実際にやってみて得たことや感じたことはありますか?

原田:野村HDは、日頃からマーケットを通じて社会に接する面が大きい会社です。健保ポイントをWellGoを通じてコロナ基金に寄付する方が多かった理由には、”社会との絆"があります。社会から何が”今”求められているのか、会社として、個人としても、ビビッドに感じる人が大勢いる。その想いが、WellGoを利用した寄付行為の「手軽さ」によって、今回かたちになったのだと思います。

園部:これまでも様々な寄付活動を実施してきましたが、今回のコロナ禍では、より身近にある危機を実感し、個人でもなにかしらできる行動があると、一人ひとりが自覚するタイミングだったと感じます。

日本において寄付というと、お財布の中にある小銭を募金箱に入れるようなイメージを持っている人も多いと思います。今回のコロナ基金においては従業員一人あたりの寄付平均額が2万円となりました。多くの役職員が、会社の制度を使って自発的に寄付をすることで、良いお金の循環が生まれることを実感したと思います。この体験をもとに、さらに寄付文化を育んでいきたいです。

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――最後に、今後の取り組みについて教えてください。

原田:WellGoとしては、健保ポイントを利用した寄付として、コロナ基金だけでなく、今後はREADYFORのクラウドファンディングの様々なプロジェクトとも連携させていきたいと考えています。

園部:今後、ビジネスをするうえで、事業の財務的な観点だけではなく、SDGsをはじめ従業員の健康など、さまざまな視点を持つことが重要になるでしょう。社会に貢献するという意思を持ちそれを実践している企業が、共感を生み、社員が誇りを持てるそして社会から尊敬される企業になっていくのだと思います。

企業が率先して行動してくことは大事ですが、従業員一人ひとりが意識をもって、自分なりにできることを考えてもらえるように。これからもそのきっかけとなる活動を広げていきたいです。

*本基金は当初7月2日(木)でクラウドファンディング終了とともに寄付募集を終了し、全4期で助成を完了する予定でしたが、緊急事態宣言こそ解除されたものの、新型コロナウイルス感染症の影響が長期化し、引き続き支援を必要としている活動が多くあることから、基金の運営を延長することを決定いたしました。

延長後の寄付受付特設ページはこちら。

text by サトウカエデ  edit by 徳瑠里香 写真提供:野村HD、WellGo

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