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文化芸術を次世代に紡ぐ要になる「ファン」との関係性の育み方

コロナ禍において、多くの文化・芸術団体が活動の存続を含め危機的な状況を経験しています。

2022年4月14日、READYFORは「ファンと共創し次世代に紡ぐ文化芸術」と題して、文化・芸術団体に携わるさまざまな方をゲストにお招きし、これからの時代に必要となる「ファンとの関係性作り」をさまざまな角度から切り取るシンポジウムを実施しました。

文化芸術領域の持続的な活動の要となるファンとのつながり方から、実行者が語るクラウドファンディングの価値、そして芸術文化団体が実践するSNSの活用方法まで。ここでは、当日開催された4つのセッションの一部内容をご紹介します。

Session1  文化を繋いでいくための「ファンベース」という考え方

「ファンベース」とは、ファンを大切にし、ファンの声に耳を傾け、ファンと価値を共創することで、中長期的に事業や活動を発展させていく考え方を指します。

セッション1では、ファンベースの提唱者であるコミュニケーション・ディレクターで株式会社ファンベースカンパニー取締役会長の佐藤 尚之氏をゲストにお招きし、文化芸術領域での活動を発展させるために重要なファンとのかかわり方についてお話しいただきました。

もっと発信をしなきゃ、SNSや動画を頑張らなきゃと思っていませんか?

佐藤: みなさんの施設やサービスをもっと知ってもらうために「まず発信しなきゃ」と思っておられる方も多いかと思いますが、発信してもっと知ってもらおうとしたり新たな顧客を増やそうという考え方は、実はかなり無理筋に近くなってきています。

たとえば先進国で1人が1日に目にする広告の数はおよそ3,000件といわれています。2009年の総務省の調査によれば、実に99.996%の情報がスルーされているのです。発信してもなかなか見てもらえないのが現状です。

2020年1年間で世界に流れた情報量は、59ZB(ゼタバイト)。なんとこれは地球59個分の全海岸線の砂浜の砂粒に匹敵するほどの量です。もう無限ですよね。送り手側が伝えたい貴重な砂粒、どの地球のどの砂浜に置くと「伝えたい相手」に見てもらえると思いますか? また、よしんばその砂粒を見てもらえたとしても、ほかの砂粒も黙っていません。オレを見ろオレを見ろと横で叫んでいるライバルです。そして生活者はすぐそちらに意識を移し、もう前に見た情報なんか覚えていない。いま、生活者の情報環境はそんな感じになっているんです。

そんな、次々と新しい情報が無限に流れてくるなかで、生活者があなたが発信した情報に目を留め、関心を持ってもらうのはそれはそれは大変なことです。ましてや覚えてくれたり利用してくれたりするなんて奇跡的と言ってもいいかもしれません。

検索してもらえばいいんじゃない?とお思いになる方もいるかもしれません。残念ながら、検索をよく利用しているのは主に東京の人たちで、現実的には、意外とみんな検索を使っていません。東京の施設ならまだしも、地方だとなかなか検索して見に来てくれるのも難しいと言えるでしょう。

東京を100とした場合、人口あたりの年間検索数は大阪で60越え、50を超えるのは神奈川、石川、富山、福井、愛知、千葉と日本全体でみれば検索を活用する人は少ない。

じゃあSNSを頑張らなきゃ、とお思いになるかもしれません。たしかにTwitterでは月間アクティブユーザー数(1ヵ月に1回は使用した人)が4,500万人(2017年のデータ)。多いですよね。ただ、信頼できる調査データによると、SNSのヘビーユーザーはわずか22%で、その人達で総利用時間の82%を占有しています。これが重要というか問題です。

つまり、Twitterに置き換えれば、ヘビーユーザーは990万人。この方々で総利用時間の82%を占有してしまっている。つまり990万人は無茶苦茶使っているけど、残りの人はほぼ使っていないことになります。たとえTwitterで投稿がバズったとしても、日本の残りの人口にあたる約1億1千万人に見てもらうのは難しいことになります。というか、そもそもみなさんの施設やサービスを利用するお客さまはどれだけネットやSNSを利用しているでしょうか。もし、利用していないお客さまが大半であれば、どれだけSNSでの発信を頑張っても届きません。

さらに言えば、コンテンツも過剰に多くなっています。YouTubeだけで1日になんと82年分の動画が世界中でアップロードされています。1日分を見終わるのに82年かかるわけです。そしてもちろん動画コンテンツだけでNetflixをはじめたくさんのコンテンツがひしめいています。さらにテレビがあり映画があり、ゲームがありアプリがあり、キャンプがありテーマパークがあります。エンタメやコンテンツが過剰に供給されているのがいまなんです。そんな中でみなさんの施設やサービスが選ばれるのは並大抵のことではありません。

情報は多すぎて伝わらない。検索やSNSもなかなか難しい。ライバルであるコンテンツやエンタメも過剰に多い……。状況は厳しいです。そんななかで唯一希望が持てる存在が「ファン」の存在だと僕は思っています。

ファンとは、創業の志やパーパス、企画の方針、クオリティ、地域貢献などを支持してくれる人のこと。一つのイベントや公演で離れる人ではなく、考え方に共感し愛着を持ってくれる人々を指す。

ファンベースが必要とされる理由

何もせずとも通ってくれるファンよりも、いま来てくれない新規のお客さまを呼びこまなければ売上が増えないのでは?とお思いになるかもしれません。

「パレートの法則」をご存じでしょうか。あらゆる業界に当てはまる売上の法則であり、上位20%のファンが売上の80%を支えているというものです。

ある飲料メーカーの1ヵ月の購入人数と消費量の比較。コアファンとファンで総売上の89%を支えている。

ファンベースは、売上を支えているファンを大切にしてもっと喜んでもらい、ライフタイムバリュー(LTV:顧客生涯価値)を上げましょう、そしてファンからの推奨で新規顧客も増やしていきましょう、という考え方です。

たとえば美術館なら、その美術館を愛してくれるファンがいます。そのファンたちがもっと喜ぶと、美術展に毎回来てくれるだけでなく、会員になってくれたりイベントに参加したりグッズを買ってくれたりするでしょう。それがLTVです。

しかも、ファンは新規顧客を連れてきてくれます。「類は友を呼ぶ」と言いますが、「美術好きの周りに美術好きがいる」わけです。「類友」の存在です。つまり、ファンのまわりに新規顧客がたくさんいるわけですね。ファンはそういう「類友」を誘って来てくれます。その美術館のファンになればなるほど、熱心に誘ってくれたりします。

情報量が多すぎるこの時代、最も信頼できる情報源は「家族や友人」であるというデータがあります。専門家の言葉より有名人の言葉よりインフルエンサーの言葉より「家族や友人」が信頼されるのが今なのです。情報が多すぎて何を信じていいかわからないこの時代、人は「価値観が近い人」、つまり「類友」の言葉を信用するんですね。

しかもその「類友」が「ファン」だったら、ファンはただでさえ信用される上に、熱心に勧めてくれたりします。そうして周りの人を新規顧客にしてくれるわけです。

類友なんて数が少なすぎない?と思うかもしれません。でも意外と多く、1人につき、およそ150人の類友がいるといわれています。たとえばたった10人のファンが、みなさんの施設や団体の良さを類友に伝えた場合、一次波及効果だけで1500人に伝わることになります。二次波及で2万4千人、三次波及で38万人になります。たった10人のファンでこれだけ広がるポテンシャルがあります。これが100人のファンを母数としたら、二次波及で24万人、三次波及で384万人と莫大な数になります。類友といってもバカにしたもんではないのです。

ファンベースは、ファンを作る、のではなく、「いま目の前にいるファン」を大切にするのがポイントです。長く運営されている施設などでは、必ずファンがいらっしゃると思います。その方々を大切にしてください。ただ、贔屓にしたり特別扱いするのではありません。ファンを、同じ方向性を目指す「仲間」と考えてみてください。彼らは味方です。きっといろんな協力をしてくれます。彼らの共感・愛着・信頼という感情を大切に育ててみてください。きっと、ファンたちは売り上げを支えるだけでなく、類友を新規顧客にし、新たなファンも作ってくれることでしょう。

Session2 これからのミュージアムとファンとの関係づくり

コロナ禍では、入場者数の減少やミュージアムショップの売上減少など、美術館や博物館といったさまざまな施設が苦境に立たされました。

セッション2では、「リビングルームのような美術館」をコンセプトに、人々が足を運びやすい取り組みを行う滋賀県立美術館のディレクター・館長の保坂 健二朗氏と、ウェブ版「美術手帳」の編集長である橋爪 勇介氏をゲストにお招きし、美術館が模索するファンとの関係づくりについて話を伺いました。

美術館に足を踏み入れてもらう体験をいかにつくるか

保坂: 滋賀県立美術館は緑豊かな公園のなかにあります。この立地を生かし「公園のなかのリビングルーム」「リビングルームのような美術館」というキャッチコピーを掲げました。

しかし実際にはキャッチコピーだけで来場者を増やすのは簡単ではありません。第一の課題は美術館に足を踏み入れてもらうこと。滋賀県立美術館は昨年度、企業から寄付金をいただき、毎週日曜日の常設展を無料開放しました。日曜日は入場者数が3〜4倍に増加し、うち20%が小中学生と、親子連れの姿を多く見かけるようになりました。

前職の東京国立近代美術館で「美術館に来ていない人」を対象に行ったアンケートでは、年に1回ほどのペースで訪れる人の来館理由が「子どもの頃に行ったことがあるから」でした。逆に言えば、子ども時代に美術館を体験せず大人になってはじめて美術館へ行く人は少ないということです。美術館は映画館と違って、お金を払って一、二時間は楽しめるということがわかりづらい場所です。美術館は歩いていれば時間が過ぎる、いるだけでも気持ちの良い場所だと体験してもらえれば、敷居が下がると思います。

美術館で行う展覧会の内容は高尚なものでもいいのです。敷居を下げるなら、料金や時間、雰囲気などそれ以外の部分だと考えています。

橋爪: これまでの美術館は展覧会ベースですよね。僕自身、「好きな美術館はどこですか?」と聞かれても答えに困ってしまいます。これからは企画・展覧会で人を呼ぶというより、美術館の建物や敷地そのもので、訪れた人がどのような体験をするのかが重要になると思います。そういう意味では、滋賀県立美術館や金沢21世紀美術館のように無料ゾーンを増やすことが大事ですよね。

保坂: うちではエントランス部分にカフェを作りました。コーヒーとマフィン等、カジュアルなものを提供しています。しかもエントランスは飲食持ち込みOKです。展覧会に足を伸ばす前でも後でも、カフェに立ち寄ったりお茶をしたりできるよう、さまざまな使い方を想定しています。

隔絶されたレストランではなく、街や公園などの公共の場と接続したカフェスペース

美術館は、そもそも雰囲気の良い場所ですよね。僕は、平日に美術館で受験勉強する学生がいてもいいと思います。勉強に疲れたら、ふらっと展示ブースで頭を休めるなんて最高です。近所の人が集まるのもアリだと思います。いろんな活動を美術館でやったら面白そうと思ってもらえる雰囲気づくりが、今後は必要になってくると思います。

美術館の敷居を下げるのに美術メディアができること

橋爪: 美術館は、日本全国にありますが、「美術手帖」は、現代美術を中心に扱っています。発信する情報に信頼性を持たせ、「この人の言うことは間違いないな」と思ってもらえる友達のような立ち位置のメディアでありたいと思っています。

保坂: 美術館側からは、企画展だけでなくコレクションへのフォーカスを期待したいです。コレクションによる企画を、我々もやっています。美術館の常設展をフューチャーするような、個人レベルの口コミと拡散性を、「美術手帖」に期待したいですね。

橋爪:  常設展は美術館の根幹ですからね。メディアとしてはPVが見込める大きな展覧会の特集は必要ですが、可能であれば館長やキュレーターのインタビューもしたいと思っています。保坂さんはご自身の経験も踏まえ、キュレーターのあり方についてどう思われますか?

保坂: 美術館のキュレーターは、映画監督に近い部分がありますよね。新作映画を「あの監督の作品なら観に行こう」となるように、「あのキュレーターの展覧会なら行こう」と美術館に足を運び、「今回はいい」「今回はダメ」という感想が生まれるのが、理想的な状況だと思います。

お客さんは展覧会でさまざまな感想を抱きます。それが美術館に対する意見となると「こんな展覧会、税金の無駄遣いだ」と、軸がズレてしまう傾向があると感じています。その点、キュレーターに対するものであれば、「このキュレーターはこの作品がいいと思うのか」「そういう見方もありだな」と、多様性を含んだ感想が生まれるのではないかと思うんです。その部分も見越して、滋賀県立美術館ではキュレーターの名前を表に出しています。

橋爪:  展覧会はキュレーションの成果ですよね。属人性が高いキュレーターと顔が見える関係性が育まれれば、美術館へのファンも増える気がします。

Session3 実行者が語るファンと一緒につくるクラウドファンディング

セッション3で登壇いただいたのは、コロナ禍にクラウドファンディングを実行した3団体、大原美術館 学芸統括の柳沢 秀行氏、文学座 俳優の柴田 美波氏、KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 制作・運営の大倉 佑亮氏。クラウドファンディングに踏み切った経緯や、クラウドファンディングを通じたファンとの関係性作りについて話を伺いました。

全国にいる、大原美術館を大切に想うファンの存在を強く感じていた

柳沢: 大原美術館はランニングコストの8割を入館費でまかなっています。30万人の入場者がいれば年間の運営費がカバーできる計算です。実はコロナ禍に先立ち、西日本豪雨で大きく入館者が減少した年がありました。そのときからクラウドファンディングは選択肢にあがっており、コロナ禍で実行するに至りました。

実のところ、大原美術館のステークホルダーは近隣にたくさんいます。しかし、日本全国、全世界にも大原美術館を大切に想うファンの存在を強く感じていました。私たちは長年メールマガジンを発行しており、その読者の反応から、顔の見えないファンの存在を確信していたのです。

READYFORに協力を仰ぎ、目標金額の倍となる支援を1,700人を超える人々からいただきました。これほどまでの支援が集まるとは正直思っていませんでした。ご支援いただいた方すべてに、私からお礼のご返信をさしあげ、かつクラウドファンディングのプロジェクトページにいただいた応援コメントはすべて印刷し、美術館の壁に貼らせていただきました。

お金が集まるだけでなく、大原美術館を応援してくださる人々の、存在と想いを可視化し、つながりを美術館全体に示せたのがクラウドファンディングの大きな出来事でした。

公演はできるが、席数は減少。より苦しくなるコロナ禍で

柴田: 文学座は2021年の春にクラウドファンディングを行いました。これは、他の文化芸術団体と比べると、遅いタイミングです。実は公演を打たないときよりも、公演をするけれども座席数に制限があり来場者数が抑えられてしまうほうが、劇団の経営にとっては苦しいものなのです。

舞台を作らなければならない、俳優や演出家など劇団員の生計を支えていかなければならない。そのためにどうしても自力で回らない部分が出てきたタイミングで、話し合いを重ねクラウドファンディングに挑戦することになりました。

当劇団のメンバーは約200人。クラウドファンディングは有志の10人が中心となり行いました。とはいえ劇団メンバーがクラウドファンディングに抱く印象はまちまちで、なかには「本当に達成できるのだろうか」と不安に思う声もありました。

ありがたいことに、スタート段階から大きな支援と温かいコメントをいただき、劇団員が抱いていた不安も早くから解消されました。プロジェクト実行中は、いただいたコメントは劇団員にシェアをしていました。応援してくれる人々の姿が見えてくるにつれ、やらなければいけないという気持ちが全員に生まれ、劇団員のなかにも自主的に情報をシェアする動きが出てきたと感じます。

クラウドファンディングを通じて劇団員が支援者から大きな勇気をもらい、感謝しています。

ファンとの関係づくりで心がけていたことは?

大倉: 僕らは2020年と2021年にクラウドファンディングを実施しています。1回目が終わり、2回目を実施するまでの間は、どうしたら「恒例のクラウドファンディング」という流れに持っていけるのかを考え、お礼メールなどを作成していまし

柳沢: 私たちは、できるだけ早くレスポンスをするという点を心がけていました。入館券や、遠方者に向けたVR展覧会など、返礼品であらためて大原美術館との関係を作ってほしいという思いがありましたから、返礼品の発送は私と事務作業が得意な3人で行いました。それでも1週間かかってしまいましたが……。

柴田: 私たちは、返礼品のキャラクターをデザインする劇団員のスケジュール調整が難しく、すべて発送するまでに時間がかかってしまいました。その点は非常に申し訳なく思っています。発送自体は、200人の劇団員がいますので、袋詰めやラベル張りなど集まって協力して行えました。

大倉: 僕たちは、基本的にみなフリーランスで動いていて、1回目は「成功するかどうかもわからない」なかでの手探りで大変だった記憶があります。KYOTOGRAPHIEはイベントですから、みんなが集まるタイミングでいろいろとお願いできたのはよかったです。もし一人でやっていたら、クラウドファンディング自体を重荷に感じてしまう人もいるでしょう。その部分は、2回、3回と重ねる中で経験を活かして対策できるようになりましたね。

柴田: READYFORのサポートプランがとてもありがたかったです。資料を渡したあとは、プロジェクトページの設計などすべてお願いできました。もしすべてを自分たちが担当していたら、実現できなかったと思います。私たちではカバーできない専門的な知見とスキルで助けていただき、これからクラウドファンディングを考える方にはおすすめしたいです。

Session4 芸術文化団体から学ぶSNSでつくる「行きたくなる仕組み」

セッション4では、コロナ禍でSNSを活用しファンとのつながりを作る4つの芸術文化団体をゲストにお招きしました。

浮世絵の面白さをSNSで伝える太田記念美術館の主席学芸員日野原 健司氏。TwitterやFacebook、TikTokやInstagramと多角的にSNSを活用しファンとの関係性を深める劇団・前進座 女優の今井 鞠子氏。お客さまだけでなく、音楽業界アカウントとも交流を深める東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 事業部長の星野 繁太氏。クラウドファンディング用のアカウントを職員が立ち上げた呉市産業部海事歴史科学館(大和ミュージアム) 学芸課課長の兼光 賢氏。この4団体がセッションを繰り広げました。

Twitterフォロワー17万人。太田記念美術館のSNS運用のコツは?

日野原: 基本的には、私たちの所蔵する浮世絵コレクションの「面白さ」をいかに上手く伝えるかがSNS運用のテーマです。Twitterでは画像と興味を持ってもらえそうな解説をつぶやきつつ、お客さまに作品を知ってもらうことが狙いです。noteでは、より知識を掘り下げるコンテンツを発信しています。

当館の場合は、広報ではなく学芸員がSNS運用を担当しています。専門的な知識を持った人間が中の人なので、一般的にはあまり知られていない情報をお伝えできるのが特徴だと思います。作品の面白さが主軸のため、書き手のクセを極力抑えるのがコツといえばコツですね。

Twitterはすぐに話題が移り変わるので、その時の世間の興味とリンクする浮世絵を紹介することを考えています。仕事というより個人活動のような感じで、「いま見てほしい」と夜中にツイートすることもあります。小さな積み重ねあってのフォロワーかと思います。

SNSを見て公演に来られる方はいましたか?

今井: 公演後ロビーで立っていて、お客さまから「Youtubeで見たよ」とお声かけいただくことはあります。当劇団のSNSは、Twitter、Facebook、Youtube、Instagram、TikTokを俳優6名のチームで運用していますが、担当以外にも、なるべく多くの俳優がコンテンツに登場するよう心がけています。贔屓の役者をSNSを通じて見つけるのも、お客さまが劇場に足を運ぶ理由になります。

いまは、かつてのようにファンクラブでお客さまと直接交流を持つのが難しい時代です。しかしSNSで俳優の日常などさまざまなコンテンツを発信するなかで、入ったばかりの劇団員も顔と名前を憶えていただけるなど、お客さまとつながる場となっていますね。

他の芸術文化団体のアカウントとの交流は?

星野: クラシック音楽業界全体にいえる悩みですが、「敷居が高い」というイメージがあります。SNSでは、もっとみなさんに気軽に音楽を楽しんでもらえるよう、発信をフランクにすることを意識しています。

他の音楽団体のアカウントと、Twitter上で交流することもあります。かつては、団体をまたいで情報共有をする場がなかなかなかったので、広報の方などがSNSを使い、自分の楽団だけでなく業界全体を盛り上げようという動きに、時代の変化を感じます。

一般の方へのリプライ、どのようにしていますか?

兼光: 私たちは、大型旋盤の輸送・展示にあたってクラウドファンディングを立ち上げました。兵庫県にある戦艦大和の主砲を削ったといわれる大型旋盤を広島県呉市へ移送し展示するというものだったのですが、当初は上層部から「鉄の塊をわざわざ見に来る人がいるのか?」と懐疑的な声もきかれました。

しかし、クラウドファンディング専用のTwitterアカウントを立ち上げ、興味ある方々へと情報を発信するうちに、大型旋盤への熱意あるコメントがいただけるようになったのです。私たちのクラウドファンディングは1億円の目標金額に三段階のゴールを設定しており、最終ゴールが「屋根の設置」でした。プロジェクトが進むなかで「屋根を必ずつけてください」「屋根だけではなく四方を囲んでください」とファンの方々から声をいただきました。

直接やり取りすることはありませんでしたが、いただいた声を上層部にも見せることで物事がスムーズに進み、クラウドファンディングの多額の寄付のおかげもあり建屋を建築して保存することになりました。これもTwitterを通じていただいた、ファンの方々の想いのおかげだと実感しています。

モデレーター:廣安 ゆきみ(READYFOR文化部門長 / リードキュレーター)、小柳 聡美(READYFOR文化部門 キュレーター)

text by サトウカエデ edit by 徳瑠里香


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