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吉祥寺の“新しい本屋”が500万円のクラウドファンディングを達成するまで

2019年7月、吉祥寺にある4階建のビルに"みんなで本を持ち寄り、みんなで運営する”古本屋「ブックマンション」がオープンしました。

地下に降りるとまず目に飛び込んでくるのは両壁を覆い尽くす巨大な本棚。小さく区切られたスペースにさまざまなジャンルの本が並びます。これらは全て貸し本棚。ユーザーが売りたい本を陳列して販売する、新しいコンセプトの本屋です。

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店主の中西功さんは建築士である弟と一緒につくった無人古本屋「BOOK ROAD」の経営を経て、“吉祥寺に「本屋をシェアする文化」の発信基地を作りたい”と、Readyforでクラウドファンディングにチャレンジ。最終的に500万円を超える支援が寄せられました。

クラウドファンディング Readyforでは、「キュレーター」が伴走し、実行者さんの夢の実現をサポートします。キュレーターと実行者さんは、どんな関係性で、プロジェクト達成へ向かうのか?

今回は、どこにもない、新しい本屋の形を模索する実行者の中西さんと、想いを形にするべく伴走したキュレーター桝田 乃梨子の対談をお届けします。

キュレーターは方向性を示してくれる灯台のような存在


桝田:Readyforでクラウドファンディングをやろうと思ったのはなぜでしょうか?確か、Readyforの問い合わせフォームにご連絡をいただいたんですよね。

中西功さん(以下、中西):そうです。僕はもともと東京都武蔵野市で、無人の古本屋を経営していたんですが、2018年11月に吉祥寺駅から徒歩5分のこの物件を見つけて、新たな本屋をオープンすることに決めました。準備を進める中で、やりたいことを実現するには自己資金だけでは難しいなと思って問い合わせました。

クラウドファンディングは初めてで不慣れなこともあり、他のサービスにも申し込んでいたんですが、連絡をもらって直接会って「この人たちと一緒にやりたい」と直感で決めました

桝田:初めてお会いしたのは3月、ビルの改装工事中でしたよね。Readyforでも地方のリノベーションプロジェクトは増えていますが、都心では少なく、今回の取り組みは特に注目を集めるプロジェクトになるのではと感じていました。

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桝田:プロジェクトの見せ方、伝え方の設計からたくさん議論しましたよね。

中西:ブックマンションのコンセプトは「シェアする本屋の発信基地を作って、モデルを日本中に広める」ことです。その想いはあっても、果たして世の中に伝わるのだろうかという懸念がありました。ですから、クラウドファンディングではビルの改装費用をメインに訴求した方がいいのか、ストレートにコンセプトを伝えるかでもかなり悩みましたね。

桝田:今回のプロジェクトは企画の見せ方、発信のメッセージが肝でした。既にビルはあるし、やることも決まっているけれど、どう伝えたらいいのか。誰にどのようなアプローチをしたら共感の輪が広がるのか。「”本屋”をシェアする」というコンセプトに着地するまでもいろんな案が出ましたね。

中西:自分自身、暗中模索で不安な要素がたくさんあったので、桝田さんにはいつも壁打ち相手になってもらって。質問に対しても、迅速に対応してくれて、疑問やモヤモヤをすぐに解消できました。スケジュールもはじめに設計してくれるので、計画が立てやすくありがたかったです。そもそも、クラウドファンディングに取り組むのが初めてだったので、ざっくりでも全体のスケジュールがわかるだけでもすごい安心できました。

アドバイスを受けながら、日々日々壁打ちの相手もしてもらい、最終的に「本屋をシェアする文化を広げたい」をメッセージとして押し出すことにしました。

桝田:確かに、スタンダードな見せ方だと、改装費を支援してもらうという打ち出し方もできたと思います。でもブックマンションは、「新しいカルチャーを作りたい」という中西さんの想いをしっかりと伝える方が合っていました。

中西:実行者側はどうしても自分の世界に凝り固まりがちです。第三者の気持ちや、どういう思いで支援してくれるかまでは想像しにくい。桝田さんには第三者の目線で意見をもらえてとても助かりました。強引に進めるんじゃなく、悩んでいる自分に最後の一押しをしてくれる。灯台みたいに方向性を示してくれる存在だなと感じましたね。

接点のない人をあえてターゲットにした拡散戦略

桝田:キュレーターもいろんなサポート方法がありますが、今回のプロジェクトは拡散方法もセオリー通りではありませんでした。クラウドファンディングでは、周りの関心ある方に支援を呼びかけて拡散させることがスタンダードではありますが、今回は、「本屋」に興味がある人、今まで接点のない方にどのように支援の輪を広げるかがミッションでした。

中西:もちろん、まずは知人に広める方法もありましたが、身内だけでは先々続かない恐れがあったんですよね。それよりもブックマンションの世界観に共感してもらえる人、将来コアなファンなっていただけそうな人にリーチしたかったんです。そこで、一番はじめにSNSを通じて情報拡散し、次に身内や友人にシェアする流れにしました。

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桝田:いきなり知らない人から支援を獲得するには高いハードルがあります。ただ、話を聞いて、そもそも本好きな方々に今回発信するメッセージが共感されなかったら“ある意味失敗”と腹を括って、SNSでアプローチをかけました。クラウドファンディング公開後は応援コメントに「コンセプトが面白い」という反応がたくさん寄せられて、きっかけも「SNSで知りました」というものが多くて。共感度合いの定性的なデータを見ながら進めていきました。

情報がどんどん広がって、メディア取材やリアルイベントも開催してましたよね。一つのチャネルに広げるだけでも大変なこと。でも、中西さんは複合的に拡散していてすごいなと感心しました。

中西:SNSがきっかけでイベントを開くことできて、イベントに来てくれた方が支援してくれて、輪が広がっていきました。

桝田:ビルの内装のお手伝いもSNSで募集してましたよね。共感してくれた支援者の方を巻き込みながら、一緒に空間を作っていく。実行者と支援者が一緒に交わりながら作っていくプロジェクトでした。 クラウドファンディングは友達の支援だけでは限りがあるし、実行者のやりたいことに共感が生まれてこそ成立するもの。今回の取り組みは私たちキュレーターにとっても羅針盤になりました。

一人で考え込まないのが吉。キュレーターと二人三脚で達成を目指す


中西:クラウドファンディングを実行してから、いろんな人から相談を受けるんですよ。話を聞くと「スタートしたものの、どうしたらいいのかわからない」と困っている。公開前の準備を知らないまま走り出す人が多いんですよね。というか僕も全く知りませんでした。

僕は運がいいことに連絡を頂けて、お会いし、顔が見える状態で桝田さんを信じ切って安心して進めることができました。だからクラウドファンディングの経験者に会って相談できるリアルなイベントがあってもいいかもしれません。

桝田:確かに、相談会があってもいいかもしれないですね。公開後は待ちの姿勢になってしまうこともありますが、それでは支援は集まりにくいです。中西さんは、毎日積極的に情報発信して、私たちにも進捗をシェアしてくれる。だから「じゃあこうしよう」とアドバイスできた。 キュレーターにとっても学びがたくさんありました。

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桝田:中西さんみたいにやりたいことや夢に挑戦したいと思っていてもなかなかクラウドファンディングに踏み出せない人もいます。そういった方へのアドバイスはありますか?

中西:一つは深く考えすぎないこと。計画通りに行かないのが普通だと思ってると安心です(笑)。実は当初、改装費用に数千万かけようと思っていたんです。そのためにクラウドファンディングも3000万くらい集めようと考えてたんです。でも実際進めてみると物件の契約内容や実施内容が変わったりして、見当違いの金額だってことがわかってきた。ならば内装は極力お金をかけず、みんなで協力して作っていこうという戦略に変えられた。

もう一つは、早い段階でキュレーターにサポートしてもらうこと。クラウドファンディングは単純にお金集めのツールではないんだと思います。実際にプロジェクトが達成した後も、利用いただけるファンの方と出会うきっかけだと思うんです。だから直前になって集めようとしてもどうしても無理がでる。いろんなプロジェクトを実際に併走したことのあるプロのアドバイスをいただけるので早めの行動をお勧めします(笑)。

ネットや本でクラウドファンディングの情報はたくさんありますが、プロジェクトごとに状況が異なるので、そのまま適用しようと思ってもなかなか難しいと思うんです。似たようなプロジェクトの事例に基づいた事例を教えてもらえるので、よき伴走者というか同じプロジェクトメンバーですよね。

資金だけでなく共感してくれるたくさんのファンを得た


中西:今回目標額を上回る支援をいただきましたけど、これはまだスタート地点なんですよね。ブックマンションのコンセプトを実現するには周りの人に呼びかけを続けなきゃいけない。やり続けられる信念があるかは、実行者に問われることだと思います。

桝田:覚悟は大事。私たちは実行のためのサポートはできますが、支援をお願いするのはご本人にしかできませんもんね。

中西Readyforで得たものは、資金だけでなく共感してくれるたくさんのファンです。店をオープンした時点で多くのファンが支えてくださっているのは、クラウドファンディングのメリットだと思います。

桝田:中西さんには初めてお会いした時から強い熱意を感じました。無人古本屋もそうですが、ビジネス的な側面より「日本中にリアルな本屋を増やしたい」という理念が強かった。そのメッセージを軸に500万円以上の支援を集めたのはすごいことです。

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中西:いくら自分がやりたいと思っていても、需要があるのか、世の中に放ってみないとわからないですよね。それを知るのにクラウドファンディングはすごくいい仕組みだなと思います。

支援が集まらないのは、ローンチしても使われない可能性がある。クラウドファンディングを走らせながら、反応をみて戦略を変えていってもいい。友人だけに広めるんじゃなく共感してくれる人にリーチするする手段を考える。そのためにも、キュレーターに意見を聞きながら進めていくのがいいと。

自分の本当にやりたいことと、共感者と出会えるチャレンジを

中西:オープンしてみて、遠方から足を運んでくれるお客さんが多いですね。東京出張の合間に来てくれた方や、海外からのお客さんもいらっしゃいました。駅から徒歩5分の近さですが、看板も小さくあまり目立たない。それなのにわざわざ来てくださるのはクラウドファンディングで知ってくれる人が増えたから。

ブックマンションの棚を借りる権利に支援してくださった方の本も置いていて、眺めるだけで多様性が見えます。2階、3階の活用もこれからですが、すでに服の展示会や読書会が開催されたりと、自分でも想定していなかった場の使われ方をしている。

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(ブックマンション構想図 by 株式会社小さな都市計画)


支援した人同士の繋がりも生まれてきています。なるべく多くの人に関わってもらえる状態さえ作っておけば、興味を持った人同士が自然に繋がっていくんだなって実感してます。

桝田:クラウドファンディングは、足りない資金をご支援いただくプロジェクトが多い印象でした。でもこれからは目的に合わせたメッセージをどんどん発信できたらいいですね。個人の想いからスタートしたプロジェクトを一緒に広げる面白さはキュレーターの醍醐味だなって。

今回中西さんは「新しいカルチャーを作りたい、たくさんの人に届けたい」という想いが明確でした。その想いをどうしたら届けられるのかを考えるのキュレーターの役割。実行者さんにはそれぞれ想いがあります。どういったサポートが適切なのかは、中西さんの人柄を間近で感じられたからこそなのかなと思います。

中西:クラウドファンディングが広まって、周囲でもいろんな方が取り組まれているのを目にするようになりました。だからこそ、その中でも意義あるチャレンジを支援したいと思う人が増えている。実行者にとっては人生一度あるかないかの挑戦。自分が本当にやりたいこと、そしてたくさんの共感者と出会えるようなチャレンジをしてほしいなと思います。

中西 功(なかにし こう)
1978年生まれ。立教大学法学部を卒業後、楽天株式会社に入社。ECのコンサルタントやイベントの企画運営に携わる。2013年4月に東京都武蔵野市に建築家である弟(中西 健)と一緒に無人古本屋「BOOK ROAD」を開店し、2019年4月時点で6年間特に問題なく運営を続けている。2019年3月に同じ武蔵野市の吉祥寺駅徒歩5分のビルを借り、5月にクラウドファンディングに挑戦。7月に「ブックマンション」をオープン。
桝田 乃梨子(ますだ のりこ)
キュレーター事業部。中西さんのプロジェクト担当キュレーター。これまで、芸術文化に関するプロジェクトを中心に、「鉄道車両の保存活動」や「くるり主催のフェス京都音楽博覧会」の案件などを担当。

Readyforのキュレーターたちは、一件一件のプロジェクトに想いを持って取り組んでいます。これからも、Readyforを通して、やりたいことを実現したいと一歩を踏み出した方を全力でサポートしていきたいと思っています!実現したい夢がある方はぜひ、ご応募ください。私たちと一緒に、夢の一歩を踏み出しましょう。

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photo by 戸谷信博 

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