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クーデター下のミャンマーへの緊急支援。クラウドファンディング成功のカギは、情報の“透明性”と“信頼”


4月5日、国軍によるクーデターに抗議するミャンマーの人々を支援しようと、山形大学の今村真央教授らによるクラウドファンディングが立ち上がりました。

公開から約25時間で目標額の500万円を達成。そしてプロジェクト終了の5月5日までに寄せられた支援は5512万2000円。国際協力関連では国内最高支援額と見られています。

どのようにして本プロジェクトは始まったのか。「支援先の団体名を公表できない」などの制約がある中、工夫したこととは──?

本プロジェクトを担当したキュレーターの徳永が聞き手となり、山形大学人文社会科学部の今村真央教授にお話をうかがいました。

聞き手:徳永健人(Social部門 キュレーター)

ミャンマーの友人たちから発せられた、危機的状況のサイン

── 今回、今村先生が有志によるチームを結成し、ミャンマー緊急支援のクラウドファンディングを立ち上げることになった経緯を、まずは聞かせていただけますか。

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(今村真央教授)

2月1日の国軍によるクーデター以降、ミャンマーの友人、同僚、教え子、恩師たちから毎日のようにメッセージが届くようになりました。

2月の中旬頃までは「我々は屈しない」「がんばっている」という前向きなメッセージが多かったんです。しかし下旬になると「厳しい」「夜は怖くて、外に出られない」「そろろそヤンゴンを出ようと思う」といった悲痛な内容にどんどん変わっていった。

通信手段もメッセンジャーは危険だと。メッセージを消去できる暗号化アプリに一斉に切り替わりました。この行動の変化を、私は彼らからの「SOSのサイン」だと受けとりました。本当に危ない状況に陥っているんだと。

このころ、国内外で“ミャンマーの市民を支援したい”という声があがりはじめました。日本国内では署名活動が盛り上がりましたよね。学生や一般市民が署名を呼びかけていて、「すばらしい」と感じました。ただ、署名は外務省に届けられるだけなんです。それだけで終わってしまうのはもったいないという気持ちがありました。

時を同じくして、アメリカの大学教授が中心となり、ミャンマー支援のWebサイトが立ち上がりました。ただ、いざ使おうとすると銀行口座はニューヨークで、当然ながらアメリカ中心の仕様になっています。

「日本のほうがミャンマーとのつながりが深いのに、日本では寄付を募らないのか?」という友人の言葉にも背中を押され、やはり日本で、自分たちでやらなきゃダメだと。

そうしてミャンマーにかかわりのある知人に連絡をし始めたのが3月1日のことです。徐々に賛同してくれる人が増え、最終的にはミャンマーにかかわりのある研究者やNGO活動家、ジャーナリスト、作家、教員、学生たちが名を連ねる「緊急支援チーム21#JUST Myanmar 21」が結成されました。

失敗が許されない、一発勝負のプロジェクトだからこそ

── クラウドファンディングのプラットフォームとして、なぜREADYFORを選んでくださったのでしょう。

もともと寄付を募るのであれば、クラウドファンディングのプラットフォームを利用したいと考えていました。READYFORを選んだ理由は、クラウドファンディングに詳しい方が口を揃えて「いちばんフォローが手厚いのはREADYFORだ」と言っていたからです。

たとえサポートがなくてもクラウドファンディングを開始できるかもしれません。ただ、私たちには知識も経験もない。素人が自分たちだけでやろうとすれば、おそらく失敗するでしょう。しかし今回の緊急支援は「失敗が許されない」と私は捉えていました。一刻も早く支援を届ける必要のある、一発勝負のプロジェクトですから。

チームのミーティングでも、私はこう話しています。「この機会に、思い切り勉強させてもらおう」と。ある意味、授業料のつもりで手数料をお支払いし、手厚いサポートを受けながらクラウドファンディングを成功させるための知見を学びたいと考えていました。

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(聞き手:今回のプロジェクトを担当したREADYFORキュレーターの徳永)

── READYFORは審査が厳しいといいますか…「なぜ、こんなことまで聞いてくるんだ?」と思うような質問も多々あったと思います。正直、フラストレーションを感じていらっしゃったのではないですか?

いいえ。私としての感想は真逆でして。心からありがたいと感じていました。あのやりとりで、READYFORが真剣に、本気で、私たちに向き合おうとしていることが伝わってきたからです。

厳しい審査をせず、免責事項が書かれた書類にサインをさせ、「なにかあっても私たちは責任をとりません」というやり方もできるでしょう。ただ、READYFORの姿勢はそうではなかった。顔が見える関係性を大事にしていて、このプロジェクトを一過性のものではなく、長く続いていくものだと捉えていた。私たちは“一つのチーム”なんだ、と感じました。

── そう言っていただけて、ほっとしています。うれしいです。

プロジェクトが終わって、分析結果をレポートしてくれましたよね。私たちのプロジェクトの支援者は、過去に少なくとも一回以上、READYFORを利用した経験がある方が多かったと。

そのとき、READYFORは、支援者とコミュニケーションをとってきたプラットフォームであり、信頼されている企業なんだと気づきました。ユーザーからの信頼を大切にするからこそ、READYFORが承認するプロジェクトでいい加減なことを書けないし、厳しく審査もする。

信頼が集まるプラットフォームであり、コミュニティであり、ネットワークであるREADYFORで情報発信ができたからこそ、こんなにも多くの方に私たちのメッセージが届き、支援をいただけたのだと思っています。ですから、厳しく審査してくださるのはありがたいことなんですよ。

私はいま48歳ですが、一世代前は、この仕組みがありませんでした。人権団体に寄付をするか、街頭募金をするくらいしか選択肢がなかった。誰もが、どこにいても、応援したい人に寄付できる。この仕組みをつくってくださったことに深く感謝しているんです。

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最も心をくばっていたのは「どうすれば私たちが信頼される存在になり得るのか」

── 今回のクラウドファンディングでは、支援先の団体名を公表できない難しさもありました。今村先生たちが、どのような点に気をくばっていたのかは、今後、人道的な緊急支援プロジェクトを立ち上げる際の参考になると思います。ぜひ教えていただきたいです。

クラウドファンディングを行う際に重要になるキーワードの一つに「トランスペアレンシー(透明性)」があると思っています。ですが私たちは、プロジェクトの性質上、100%のトランスペアレンシーを目指せません。

ミャンマーの市民団体にとって国外からの募金を公に受け取ることは高いリスクを伴います。ですから、支援先となる市民団体の名称を、私たちは公表しませんでした。

100%のトランスペアレンシーを目指せない代わりに、私たちが気をくばっていたのは、いかに「トラスト(信頼)」を得るかです。どうすれば私たちが信頼される存在になり得るのか。

そのために重要なのは、可能な限り、情報を出すこと。支援先の名称は言えないけれども、支援金の使い道については、どんな人にどんなふうに使われたのか、一円まで報告しますと。

もう一つは、私たちが現地の状況をどれだけ理解していて、今回の緊急支援のインパクトをどう捉えているかを、精緻に伝えていくということです。

情報を伝えるといってもただの文字の羅列では意味がありません。重視したのは「ストーリー」です。ある家族に何が起きて、現在どう過ごし、今回の支援によってどうなるのか。出来る限り、具体的な情報を集め、ディテールを伝えることに苦心しました。

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ストーリーテリングが大事だというのは決してレトリックの話ではありません。ディティールを見れば、私たちが本当に現場をわかっているのか、信頼に足る人物なのかがわかるはずです。あくまで認識論の話であり、現場の人々から話を聞き、具体的で生活に基づいた情報を緻密に積み重ねるということ。そのうえで、人々の心に残るようなストーリーとして語ることを大事にしていました。それが私たちなりのアカウンタビリティ(説明責任)の果たし方、だったのです。

あたたかな“言葉の応援”が広がり、新たな関係が築かれていく

── 今回はじめてクラウドファンディングに挑戦されました。プロジェクトが終わったいま、クラウドファンディングの役割や可能性について、どうお考えですか。

今回、READYFORに感謝しているのは、いま起きている現状や問題から目をそらさずにメッセージを伝えられた、ストレートにメッセージを伝えるスペースを貸してくださったということです。

私たちのプロジェクトは、ある意味、政治的です。非政治的なパッケージングでクラウドファンディングを行う選択肢もありましたが、私たちはそうしませんでした。

今年の3月、国軍の兵士による暴力的な映像が毎日のようにお茶の間に流れました。このタイミングで、「国軍の暴力的弾圧を許さない」という明確なメッセージを示すことに意味があると強く思ったのです。

私たちがクラウドファンディングを通して成し遂げたかったのは、ミャンマー市民に医療と食料を届けるという資金的な支援が主目的ですが、同時に、彼ら彼女らに、メッセージを届けたかった。いま、支援者から寄せられた応援メッセージをビルマ語に翻訳して、ミャンマーの方々が閲覧できるサイトをつくろうと動いているところです。

いわば言葉による応援です。クラウドファンディングをきっかけに、新たな関係をつくり、連帯していきたいと考えています。

── クラウドファンディングの告知ページでは、先駆けてメッセージを受けとったミャンマーの方からの感謝のお手紙も公開されていました。

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その手紙には「寛大で情け深い日本の友人たちが我々に手を差し出していることを知り、一人のミャンマー市民として私は涙を流しました。ミャンマーにとって最も苦しいこの時に、日本の友人が見せてくれた慈愛と慈悲は一筋の希望の光です」と書かれています。

「応援しているよ」と伝え、「ありがとう」と返ってくる。言葉ってすてきだなと、あらためて感じますよね。私も、クラウドファンディングの公開中は、日々送られてくるメッセージを読んでは励まされ、涙を流したりもしていました。

私自身も、今回の出来事でかなり落ち込みました。日本にいる、ミャンマーに関わりのある友人の中には、ものすごいトラウマを抱えていたり、セラピーセッションを受けていたりする人もたくさんいます。

このクラウドファンディングの企画には、“支援者同士が励まし合う”効果もあったのではないかと感じています。「ミャンマーの市民のために何かをしたい」「暴力にNOと言いたい」という声が次々とあがった。思いを共にする人々が集える場所になっていました。最終的には5000人もの人々が声をあげ、励まし合うプロジェクトになりましたよね。

── クラウドファンディング公開から30日間で支援者5102人、支援金額は5512万2000円にまでなりました。

いただいた支援金は、しっかりと責任を持って現地に届けていきますし、その結果を告知してまいります。

今回、このようにたくさんの支援をいただけたのも、READYFORさんがプロとしての役割を果たしてくださったからこそ。キュレーターの徳永さんをはじめ、READYFORの“チームの質の高さ”に感心しました。

ただ、私自身はキュレーターという言葉に少し違和感を持っていまして(笑)。キュレーターというと、どうしても博物館や美術館が思い浮かぶんですよね。

ただ実際には「静」よりも「動」のイメージが強い。コースを熟知しているゴルフのキャディさんのように、助言を与えてくれたり鼓舞してくれる。もしくは、マラソンのコーチのように、ずっと私たちと一緒に走ってくれた、という感じでした。徳永さんには何度も深夜まで相談にのってもらった。そういう“アクティブさ”や“チーム感”がもっと伝わるといいなと勝手ながら思っていて、最後にそう付け加えておきます(笑)。

今村真央
山形大学教授。2002年からミャンマー国境地域での調査を継続中。専門はミャンマー国境史。
ミャンマー緊急支援チーム21#JUST Myanmar 21
ミャンマーと深いかかわりをもつ研究者、NGO活動家、ジャーナリスト、作家、教員、学生を中心とする有志で結成されたチーム。ミャンマー緊急支援チーム(Japanese Urgent Support Team for Myanmar: JUST-Myanmar 21)の“21”という数字には「2月1日のクーデターを忘れない」という意味と「ミャンマーの21世紀のために」という二つの意味が含まれています。
徳永健人
READYFOR株式会社キュレーター事業部Social部門リードキュレーター
1992年生まれ。鹿児島県出身。横浜国立大学 / 大学院修了。大学在学中は、パラグアイ共和国に教育支援を行うNPOに所属。フェアトレード活動等を通じた資金調達のほか、現地でのフィールドワークを実施。その後、青年海外協力隊隊員としてザンビア共和国で活動。2015年、READYFORに入社し、社会貢献活動のプロジェクトを主に担当。翌年秋よりチーフを務める。その後、2018年にソーシャルインパクト事業部の立ち上げ後、経営企画室事業開発部門を経て現部署。緊急災害支援プログラム担当。認定ファンドレイザー。日本ファンドレイジング協会の最年少認定講師も務める。
text by 猪俣奈央子 edit by 徳瑠里香

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