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クラウドファンディングに挑戦した新江ノ島水族館が見出した「お客さまとの新しいつながり」

いきものたちを守りたい。

この想いを持って、READYFORのクラウドファンディングを活用する動物園や水族館が増えています。新型コロナウイルスの影響で臨時休館を余儀なくされ、ひっそりと静まりかえる施設ー。その中で必要な資金を集めながら、お客さまとの関係づくりの新しいかたちとしてクラウドファンディングが活用されています。

新江ノ島水族館さんは、コロナ禍、開業以来初めて3ヶ月の長期休館を経験しました。休館している間もできることをしようとさまざまなチャレンジをするなかで、クラウドファンディングに挑戦。「あなたと生き物を繋ぐ #えのすいファンディング 」というプロジェクトを立ち上げました。

684名のサポーターと1,200万円を超える支援が集まった今回のプロジェクト。全体を統括する飯塚一朗さんと達成後のリターンを担当する髙田雄輝さんにお話をうかがいました。

クラウドファンディングを通して、新江ノ島水族館さんが見出した「お客さまとの新しいつながり」は、水族館の可能性を広げてくれるものでした。

聞き手:鈴木千里(READYFOR いきもの専任リード キュレーター)

初めてのクラウドファンディング、大切にしたお客さまへの心づかい

── 今回、クラウドファンディングに挑戦するにあたって、どうしてREADYFORを選んでくださったのでしょう?

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(左から、新江ノ島水族館の髙田さんと飯塚さん)

飯塚一朗さん(以下、飯塚): まず、問い合わせをしたときの受け応えが丁寧だったことに心を掴まれました。我々はクラウドファンディングをよくわかっていないし、社長にも一度提案を断られました(笑)。それでも準備段階からとても親身になってくださった。

何度も打ち合わせをして、社長を説得するためのプレゼン資料まで用意していただいて。我々の仲間として寄り添ってくれましたよね。すごく一体感があって、チャレンジするならREADYFORさんしかない、と気持ちが高まっていったんです。

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(READYFOR いきもの専門リードキュレーター 鈴木)

── ありがとうございます。えのすいさんはたくさんのスタッフを巻き込んで、水族館全体でプロジェクトに取り組まれているのが印象的でした。初めてクラウドファンディングに挑戦するうえで、大切にされていたことはありますか?

飯塚: 関わるスタッフはお客さまに対しての心づかいをより強く意識するようになりました。たとえば、リターンの「お礼のメール」。担当者の一人である髙田はたった1文字、わずか1行の内容も悩み考えお客さまに送っています。

髙田雄輝さん(以下、髙田): そばで話すように、心に寄り添うメッセージを送ることを大切にしています。メールってデジタルなものですが、業務的に映るのか、それとも手紙として届くのかはこちらの気持ち次第だと思うんです。えのすいとしての想いを一人ひとりに届けられたらいいなと。

── 素敵ですね。

飯塚: プロジェクトを始めてみて、ご来館されたことのない方々がたくさん応援してくださることに驚きました。そうなると、応援してくださるみなさんと文字だけでのやりとりも多くなります。いただく想いにお応えするためにも、丁寧に時間をかけてお客さまと向き合っています。

スタッフとお客さまの間に生じた「ポジティブな連鎖」

── まさに、今回のプロジェクトページには、新しいかたちの「お客さまとのつながり」を見出すというメッセージを掲載しました。クラウドファンディングを終えて、お客さまとの関係はいかがですか。

飯塚: プロジェクトが終了して半年が経った今もお客さまとのつながりは続いています。新型コロナウイルスの影響を受けて、閉館を余儀なくされた一番大変な時期にお客さまとの新たな関係をつくれたことは、単純にお金だけではない貴重な価値を我々に与えてくれました。始める前、私はまったく想像していなかったことです。

髙田: 今回、館長やトリーター(展示飼育スタッフ)体験、館内にお名前を載せるといったリターンを用意しました。ご来館されたときにお客さまが直接「自分の名前の前で写真撮りました!」、「トリーター体験、楽しかったです!」と声をかけてくださることがあって。クラウドファンディングが終わっても気持ちがつながっていることを感じられました。

── 続いていく関係、嬉しいですね。髙田さんがリターンの提供を担当されているなかで、ほかにお客さまとのつながりを実感されたことはありますか?

髙田: お客さまからリターンにいただく反応はポジティブなものばかりなんですね。小さなお子さまが「お年玉を出したんだ!」って言ってくれたこともありました。応援してくださった人の想いを受け取って、えのすいならではの体験や気持ちを届け、またお客さまが喜んでくれる。私たちとお客さまの間で、ポジティブな連鎖が起きたことはクラウドファンディングを通して得た何よりの喜びです。

ただ、この喜びは体験してみないと味わえないもの。始める前は、私たちも不安がありましたから。でも、READYFORというプラットフォームを通して、キュレーターの方が伴走してくださったおかげで、不安よりも喜びが上回ることを体感できた。挑戦してみてよかったなと思っています。

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世界中から届く支援が気づかせてくれた水族館のあり方

── 一人ひとりとのコミュニケーションに心を込めて、丁寧に進められていたからこそ、大変なこともあったかと思います。

飯塚: えのすいのなかでもクラウドファンディングの理解度に差があり、スタッフの考えが相反するところからのスタートだったことは、なかなか大変でした。クラウドファンディングを理解していない人たちにはただの施しを受けているように映りますし、きちんと理解している人にとっては新しいコミュニケーションツールです。

スタッフ間でも社会においても、多様な捉え方や考え方がある。その多様性に応じるためにはまず我々がタフであることが重要だと学びました。タフでいられないと多様性、つまりそれぞれの違いが「恐怖」になってしまい、守りに入って挑戦に踏み出せなくなってしまいます。

今回のプロジェクトの成功に対して、否定的な言葉を外からかけられることもあります。でもそういう人たちを責めるのではなく、我々は受け容れる姿勢でいたいんです。クラウドファンディングという新しい関係性づくりに挑戦するからこそ、我々もしっかりと新しい感覚を持たないといけないよねって。こういう会話が生まれること自体が、えのすいにとって大きな財産です。

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── 大変さを乗り越えて、えのすいさんにどのような変化がありましたか。

飯塚: 「我々の水族館」じゃなくて、「みんなの水族館」だということにあらためて気づきました。我々はずっと来館者によって運営できると考えていたんです。コロナによって初めて長期休館をして、来館者がゼロになって、このまま衰退するのではないかと正直思っていました。

けれども、クラウドファンディングに取り組んでいるうちになんて浅はかな考えをしていたんだろうと気がついたんです。まだえのすいにご来館されたことのない方も含め、日本全国、海外の方々が、足を運べなくても、我々がやっていることに賛同してくださっている。世界中のみなさんから支援の声が届くたびに救われました。

我々の水族館じゃなくて、我々とお客さま、みんなの水族館だったんですよね。しかも「みんな」っていうのは来館者だけじゃない。そんな当たり前のことに気づけたことは大きな変化ですし、宝物になりました。

それから、クラウドファンディングを通してスタッフ同士のぶつかり合いが多くなりました。なぜなら、お客さまの想いを汲み取って「もっとこうしたほうがいい」など、スタッフ同士の意見の伝え合いが増えたから。えのすいが新たな境地に立っている証なのかもしれません。

多様性を受け容れて、心を癒すことが水族館の使命

── スタッフ同士、お客さまの「多様性」をより意識されるようになったんですね。

飯塚: まさにそうです。 我々にとって多様性は、人それぞれが生まれ持っている「良心」なんです。自分の中にある価値基準に沿った良い心は人によってさまざまなので、その違いをどれだけ柔軟に受け容れるか。水族館としての使命のひとつだと考えています。

我々が「生き物」と言うとき、そこには人間も含まれています。「生き物を大事にする」というのは「人間も大事にする」ということと同義なんです。えのすいには、多様なバックグランドや価値観を持ったお客さまが訪れます。中には、心を閉ざしてしまったり、良心を忘れていたり、心に傷を負った方もいらっしゃるでしょう。

もちろん簡単に埋まるものではないと思います。それでも、水族館に訪れている時間、あるいは映像を通して生き物に触れていただく時間は、心の蓋を開いたり、良心を取り戻したり、傷を癒してもらえるんじゃないか。我々が多様なお客さまの受け皿をつくることで、心の傷をかさぶたにすることくらいはできるんじゃないか、と思っているんです。

── えのすいさんの想いがあるからこそ、お客さまはその温かさに触れて、心が癒されるのかもしれませんね。

飯塚: クラウドファンディングはまさに、多様なお客さまに対して多様な受け皿を用意することを実現してくれました。リターンの種類をいくつか用意することで、お客さまに応じたさまざまなアプローチができますから。

必ずしも水族館を訪れていただかなくても、生き物やお客さまのために、自分たちにできることがあると、さまざまな可能性をクラウドファンディングが示してくれました。

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クラウドファンディングを経て描く未来、お客さまとの新しいつながり

── クラウドファンディングという新しいチャレンジを経て、これからどんな挑戦をしていきたいですか?

飯塚: お客さまとの新しいつながり、関係づくりはこれからもどんどん続けていきたいし、いろんな方法で挑戦していきたいですね。

今回のリターンのなかにトリーターのオンライン講座があるんですが、参加するのはお客さまとスタッフだけなんです。水族館だけれど動物がいなくても成り立つイベントは、まさに新しいつながりのかたちだと思うんです。

たとえ動物がいなくても、同じ想いを共有できる人たちとは心がつながっていくと信じています。クラウドファンディングはお金も介在しているけれど、お互いへの信頼と良心のやりとりがあるからこそ、成り立つものだと感じます。クラウドファンディングの挑戦で、お客さまとのつながりを改めて強く感じることができました。

── お客さまとの信頼関係があるからこそ、新しいつながりにもチャレンジできるのでしょうね。えのすいさんの未来にこちらもわくわくします!

髙田: もしかしたらお客さまと私たちとの距離感も新しく変化していくかもしれません。これまではすべてのお客さまに平等であることを重視するがゆえに、常にお客さまとスタッフには少しの距離があったように思います。

でも、クラウドファンディングで応援してくださったお客さまとは、リターンを通して関わり合いが増え、距離が自然と近くなる。そういう新しい距離感をこれからのえのすいのスタンダードにすることにも挑戦できるのもしれません。

飯塚: 我々はいつも来館者を何人、何十人、何百人と、「数字」でカウントするんですね。クラウドファンディングはその無機質な「数字」を「人」に変えるきっかけにもなりました。お客さま一人ひとりの輪郭がくっきりして、しっかりとキャラクターになっていったんです。

求めてくださる人の顔が見えたことによって、社会の一部としての我々の存在意義もはっきりしていきます。多様性を受け容れながら、心を込めて、目の前のたった一人のお客さまと関係性を育んでいく。これからもそんな水族館であり続けながら、新しい挑戦をしていきたいです。

動物にまつわるプロジェクトを実行してみたいという方は、気軽にREADYFORの窓口までご相談ください。

あるいは、動物・水族館などの施設のプロジェクトの専任担当者まで直接ご連絡ください。

鈴木千里(動物園水族館担当/リードキュレーター/准認定ファンドレイザー)
chisato.suzuki@readyfor.jp
text by 榧野文香 edit by 徳 瑠里香


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