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国立科学博物館クラウドファンディング|150日間と支援者データを振り返る

国立科学博物館(以下、かはく)は、2023年8月に目標額1億円のクラウドファンディング(以下、CF)を実施した。結果として目標額の9倍を超える金額を調達することができ、マスメディアやSNSを通じて大きな話題となった。

本記事では、CFの実施にあたりどのような検討を行い、また、予想外の反響にどう対応したか、かはくでCFの責任者として実務に当たった有田寛之センター長(科学系博物館イノベーションセンター)と、その伴走支援を行ったREADYFORそれぞれの視点で振り返る。

▼CFに至るまでの経緯や、その後のかはくの取り組みについては、既にこちらの、館長・イノベーションセンター長へのインタビュー記事でも詳細に綴っている。

※本稿は、(公財)日本博物館協会発行の『博物館研究』第59巻 第6号(令和6年6月号)に、国立科学博物館とREADYFORとで共同寄稿した記事に加筆・修正を加えたものである。


※文中、【かはく】から始まるものはかはくの有田センター長から、【READYFOR】から始まるものはREADYFOR担当者の視点で書かれたもの

CF実施前

1)目標額

【かはく】
計画段階では、2022年度予算において2億円あるいはそれ以上の不足が見込まれていた。当館では3,000万円規模のCFは実施したことがあったが、当時は無謀な挑戦という雰囲気があり、また、日本国内で1億円を超えた資金調達についても、当館より知名度の高い団体のいくつかが成功したという状況だった。

▼かはくCF以前、READYFORの文化団体CFで一番大きな金額を集めていたのは日本将棋連盟

企画競争の事業者選定要項には「件数1〜2件程度、支援金額2〜3億円程度」と記載したものの、さすがに2億円を全てCFでまかなおうとするのは無理があると考え、実施においては目標額1億円に設定した。ハードルが高い挑戦ということは最初から分かっていたため、支援を得るためにどのようにアピールすべきかは館内で議論となった。

具体的に何にいくら不足するということを伝えないと説得力がない、という意見もあったが、CFは資金が必要だから実施するのは明白であり、博物館が何を目指して、どんな事業を行っているのかを知ってもらい、それに共感していただくことが大事であると考えた。

そのため、博物館共通の課題といっても良いであろう、「博物館に展示があることは世の中の多くの人々に知られているが、その背景に標本・資料の収集とそれに基づく調査研究活動があることはなかなか知られていない」という状況を変えることが、多くの支援を得ることに繋がると考え、コレクションを守り、伝えることの大事さを訴えることとした。

【READYFOR】
かはくの希望目標額は1億円。当初はREADYFORとしても相当チャレンジングな目標だと考えていた。

過去かはくが実施した3度のCFはいずれも3,000万円ほど。それも決して余裕のある達成の仕方ではなかった。

他館を見渡しても、億を超えた事例は、例えば、呉市の大和ミュージアムが約2.7億円(2021年)。これはふるさと納税を活用したCFで、税控除額が大きいため寄付単価が高く、今回とは少し事情が異なる。

コロナ禍を経て、CFへの社会的なハードルが下がり、文化分野の平均達成額は右肩に上がっているとはいえ、1億円を集めることがどれだけ大変かは実感があった。

過去事例も示しながら議論を重ねたが、結果として、かはくから「前例がないのは承知の上で、1億円は絶対に必要だ」と宣言があり、その熱量を前に我々としても“腹をくくり”、1億円を集めるために何をすべきか、逆算して思考を巡らせることとなった。

2)実施時期

【かはく】
目標額だけでなく、実施時期についても大きな問題となった。

2023年4月に企画競争の公示を行い、READYFORとの契約は6月。その状況で、当館としては夏休みにはCFを実施したいと考えていた。

準備期間が圧倒的に足りないことは最初から承知していたが、当館で例年最も来館者が集中するのが、春のゴールデンウィーク後半の連休と夏休み中、特にお盆休みの時期である。コロナ禍の入館者減からようやく回復し、夏休みは多くの家族連れを中心に展示室は賑わっている。その時に当館の危機を伝えず、秋や冬になってから、実は資金が足りないのです、というのでは、支援をお願いする態度として誠意が足りないのではないかと考えていた。

【READYFOR】
一般に、5,000万円以上を目指す大型プロジェクトの場合は準備に最低3ヶ月は要する。しかし今回の準備期間は、実質2ヶ月。異例の短さである。

我々としては、CFの成否を分けるのは「熱心な来館者“以外”」(昔は通っていたが最近は疎遠になっている、一度も来たことはないがかはくに憧れがある、などの方々)からの支援であると想定しており、むしろこの層から支援が得られなければ1億円には至らないという試算であったため、夏の盛況シーズンに無理に合わせる必要はないのでは、と考えていた。

ただ、光熱費の高騰をCFの背景として挙げるにあたっては、まさに猛暑の時期にスタートする方が伝わりが良いし、メディアも「画にしやすい」だろうということで、ここも最終的に“腹をくくる”ことにした。

開始までの準備

【かはく】
今回のCFでは博物館の基幹事業である「標本・資料の収集・保管」の危機を訴え、博物館の存在意義に共感していただいた方々からの支援を求めた。

その際、

  • それを誰が訴えることが最も説得力があるのか

  • 支援へのお礼として博物館からどのような返礼を提供すれば良いか

という2点が焦点となった。

誰が訴えるかについて、現在の当館は、館長と副館長が当館の研究部出身であり、現役の研究者でもある。この二人が語ることが最も説得力があると考えた。幸い、館長が動画等への出演に前向きだったことや、そもそも副館長は本プロジェクトのリーダーであったことから、二人が前面に立つことになった。

返礼については、計画段階で研究部全体にアイデアを募り、約200の案が検討開始時点で集まっていた。ここから当館らしさ(プレミア感)と実現可能性(人員やコスト)とを秤にかけて絞り込む作業を行うことになった。

結果的に人気リターンとなった「バックヤードツアー」には、真鍋副館長(写真中央)がアテンドするコースも

【READYFOR】
「CFの成功は、開始までの準備段階で9割決まる」というのが弊社の長年の経験に基づくセオリーである。今回も、短い期間の中で出来る限りの仕込みを考えた。

以下、3つの項目に分けてお伝えしたい。

1)プロジェクトのコンセプト設定

特に大型プロジェクトにおいては、これが鍵を握る。「社会に対して、プロジェクトの意義をどう説得的に訴えるか」

今回、企画競争の募集要項には、CFの活用目的は「自然科学および社会教育の振興を目的としたプロジェクトの資金を確保するため」とあった。

また、かはくの公式サイトによれば、かはくの機能は「調査・研究、標本資料、展示・学習」の三点にあり、いずれも等しく重要な事業と考えられている。

かはく公式サイトより https://www.kahaku.go.jp/about/activity/index.html

ただ、CFにおいてこれをそのまま伝えても、一般の方々にはお題目のように感じられてしまうのではないか? 1億円を集めるためには、この資金が集まれば何が叶うのか(集まらないとどうなってしまうのか)、自分ごととして捉えられるような言葉選びが必要なのでは? と思案した。

そこで、当社内で検討の結果生まれたのが「地球の宝を守れ」というコピーである。

「守れ」という強い危機訴求に加え、守るべき対象を「かはく」ではなく「地球の宝」と風呂敷を広げて表現した

この言葉で、かはくという国内随一の博物館のもつ標本・資料の価値やスケール感を端的に表しつつ、CFの目的は単にかはく一館の存続だけに関わるものではない、と暗に伝えることを目指した。

キーフレーズが決まったあとは、これを踏まえて、プロジェクト概要ページ(CFの趣旨を説明するページ)の執筆、メッセージ動画の制作を進めた。

2)リターン設計

返礼のラインナップを決定するにあたっては、
・どんな品目や体験を提供できるかというアイデア出し
・それをどう金額設定するか
という二段階を踏む。

アイデアについては、まずかはくの全職員から200種類もの多彩な案が寄せられた。その一覧をREADYFORが受け取り、取捨選択。かはくチームと議論の上で最終的な品目・体験を決定した。

結果として、設定したコースは異例の「40種類以上」。通常のCFであれば、リターン提供にかかる労力や原価を加味して、極力シンプルなラインナップを提案する。ただこのたびは「1億円を集めることを最優先に」リソースはいったん度外視で、というリクエストがあった。そこで、もちろん原価は抑えつつも、館内リソースは最大限活用する前提で設計を考えた。

返礼品のひとつ、標本アクリルスタンド

ただ、むやみに種類を増やしたわけではない。リターンの多彩さでかはくの多様性を感じていただけるように、館内の5つの研究部それぞれからまんべんなく提供いただいた。また、あくまで「地球の宝=かはくの標本・資料の魅力を伝える」ことに繋がるものに絞った。結果として、「かはくだからこそ」のラインナップが並び、そのユニークさが耳目を集めることにも繋がった。

返礼の選定と同時に、1億円到達のためにはいくらのコースに何人の支援者が必要なのかという試算も進めた。先述の大和ミュージアムや、1.5億円を集めた法隆寺、その他当社に蓄積している過去事例のデータにも照らしつつ、金額枠を設計した。

1万5,000円で「一押し!」と銘打ったオリジナル図鑑コースは、想定通りに一番人気。3万9千人以上の方から支援があり、全体の支援総額も押し上げた

3)初動を盛り上げるための広報施策立案と実行

CFは、どんなに良いコンセプトを設定し、魅力的な返礼を用意しても、世間に気づかれずに終わってしまっては意味がない。

特に初動期間(最初の5日間)でどれくらいの反響があるかが試金石となる。今回は、限られた時間の中で、特に開始当日の記者会見の準備、そしてSNSでの事前投稿に注力した。

▼スタート1週間前から、クイズ形式で行ったカウントダウン投稿

公開初日

【かはく】
世の中の反響が全く予想できないままスタートした2023年8月7日。

幸い、テレビ各社が記者会見をニュースとして続々と報道してくれたこともあり、当初の想像をはるかに超える勢いで支援が集まり、午後にはREADYFORのサーバが一時ダウンするほどであった。それがまた話題を呼び、当日のうちに目標額を達成することが予想できたため、その後の対応を急ぎ検討した。

まず、達成したら終了するのか、ということについては、90日間のCFを実施すると記者会見で明言していること、1億円という金額は、何かを完了できる金額として設定したものではないため、予定通り90日間実施することを館長にも確認した。

そして、開始から約9時間半で目標額を達成。

目標達成直後に掲げた告知画像。達成後のセカンドゴールは定めないことに決めた

当日中に館長、副館長からのお礼動画を、広報担当がスマートフォンで急遽撮影して公表した。

翌日も支援の勢いはとどまるところを知らず、開始から3日間で約5億4千万円(全体の約6割)の支援をいただくことができた。

また、今回、広報活動の一環として、ライブ配信を定期的に行うこととしていた。研究員が出演し、自らの取り組みを紹介しつつ支援をお願いする予定であった。しかしながら、当日に目標を達成したため、支援のお願いではなく、支援に対するお礼の気持ちを込めて予定通り配信を行うこととなった。

また、当初予定していなかった館長の出演も急遽調整した。館長自らお礼を述べるとともに、これだけ大きな反響に対して、当館のことだけではなく「地球の宝を守る」ために努力せよというメッセージを受け取ったということを伝えた。つまりこの配信が、かはくだけではなく全国の博物館のためにもお金を活用する、という決意表明の場にもなった。

その後の89日間

【READYFOR】
もともと、1億円という壮大な目標額は「かはく総力を挙げてPRしなければ届かないもの」と考えていたので、記者会見後の広報施策もさまざまに計画していた。

法人への大口寄付アプローチや、館内でのチラシ配布・ポスター掲示、SNSでの定期的な発信、さらなるメディア露出の仕込みなどである。

館内に掲示していたポスター

しかし、結果的に予想を超える支援をいただいたので、初日以降の告知は「支援のお願い」ではなく「支援へのお礼」と「ここからかはくはこの資金で何をしていくかという決意表明」が中心になった。

例えば、「偏愛研究室」と題したYouTube配信コンテンツ(毎回かはくの研究員が登場し、自身一押しの標本・資料を紹介する30分のトーク配信)は、CF開始前からの計画通りに毎週実施したが、そこでも必ず、番組冒頭で研究員が自分の言葉で丁寧にお礼を伝えることを意識した。

また、完売した返礼の在庫を追加したり、研究員が自身の研究を紹介するエッセイ記事を定期投稿したり。支援が集まったから即ち発信は完全にストップしてしまう、というのはむしろ不誠実に映るので、こまめな発信は維持しつつもその内容をフェーズに合わせて柔軟に変えていった。

終了約2週間前からは、研究員がボードに「私にとって、コレクションとは」という問いへの答えを手書きで綴りつつ、「終了まであと〇〇日」とお知らせするカウントダウン投稿を実施。

通常のCFであれば、最後の1週間はスタート直後以上に重要で、ここで広報活動もラストスパートをかけるのだが、今回はあくまで控えめに。それでも駆け込みのご支援が相次ぎ、最終日は1日で3,900万円の支援があった。

毎日続けたカウントダウン投稿

返礼への対応

【かはく】
CFが実際に開始されてから想定外の連続だったが、中でも最も想定外だったことは、返礼の規模である。

1億円を集めるためには約5,000人の支援者が必要となる、ということが想定されており、その規模で返礼を検討していた。実際にはその10倍以上、約5万6,000人の支援者に対して返礼品、イベント、寄付控除証明書の発行など、40以上の支援項目ごとに異なる対応をする必要が生じた。

対応した職員の延べ人数を計算すると、平均で一人2回以上は何らかの返礼に対応した、という規模となった。

グッズの試作品も、ひとつひとつ研究員や職員がチェックに当たった

また、住所の入力ミスによる郵便物の返送、引っ越しによる住所変更などへの対応も想定の10倍であり、支援者の1%と見積もっても500人以上。4名の事務局のうち実質的に実務を担当するのは2名。それも他の寄付、会員制度、施設貸与などの業務を抱えながらの担当であった。

考察

【かはく・READYFOR共同執筆】
担当者も関係者も予想できなかった大きな支援。一体誰が支援してくれたのか、ということを理解することが、今回の取組の振り返りとなるだけでなく、今後の当館のファンドレイジングのあり方を考える基礎資料となる。

そこで、CF終了後、READYFOR内のデータやGoogleAnalyticsを用いて支援者の傾向分析を行った。ここでは、そのごく一部を紹介したい。

1)支援の推移

最初の2日間で全体の52.4%、3日で58.9%の支援額を獲得。裏を返せば、約40%の支援は4日目以降のものだった。

中間期(4日目〜88日目)も1日あたり358万円の支援が入っており(11日目〜88日目に絞ると1日あたり約226万円)、90日間を通して支援がゼロの日は1日もなかった。

また、ラスト3日間は訪問者数に対して支援額の伸びが著しく大きく、支援することを決めてページを訪れた “駆け込み需要” の高まりが窺える。

2)支援コースの割合

多くのコースが早々に完売となったこともあり、支援の大部分が図鑑とトートバッグで占められた。ただ、見返りを求めず純粋な支援を望む「寄付コース」にも1億円近い支援(金額ベースで1割超)が入っている。

3)支援者の年代

インターネットを介した支援のため、高齢者が少ないだろうという予想は容易にできた。実際に、65歳以上の支援者の割合は低かったが、それ以外の世代からはほぼまんべんなく支援を得ることができた。これまで科博の「コアファン」と考えられていた40代よりも少し若い層がボリュームゾーンだったことが窺える。

上野本館の総合案内に現金を握りしめて支援したいと来られた方も多く、また、当館の他の寄付や会員制度への支援もCFを機に大きく増加した。

4)支援者の居住地

南関東1都3県にお住まいの方が全体の約2/3を占めた。これは当館の主たる展示が東京の上野公園にあって、来館者の多くが南関東にお住まいの方々だということと合致する。

一方で、遠方からの支援もあり、今回は47都道府県全てから最低100人以上の支援があった。支援者のメッセージを見ても、本人や家族の来館経験に触れたものと、地球の宝を守れという理念への共感への両方があった。

博物館に勤めていると、直接来館して博物館を応援してくださる人のことは何となく分かる。博物館に来ない人がCFで支援をする、というイメージを博物館側からは想像することが難しかったが、今回はこれらのデータやメッセージから、その両者について理解するきっかけにもなった。

5)流入元

支援者がどこからCFページに訪れたかという流入元割合。かはくの公式ウェブサイトには複数箇所、CFページへのリンクを貼っており、そのいずれからも多くのアクセスがあった。公式サイトが全ての情報発信のハブになっている(裏を返せば、CF終了後も、サイト内の寄付ページの導線を改善すればもっと定常的な寄付が頂ける可能性がある)ことが窺える。

6)支援者アンケートから見る流入元

上記は、Google Analyticsから分析した流入元だが、これとは別に、支援者に直接「何を見て支援したか」を問うアンケートも行なっていた。

大半はなんらかのメディアを見て、という回答だったが、SNSや著名人からの発信の影響(特に今回は、俳優の杏さんが自身のYouTubeで発信してくださったところからの流入も一定あった)、普段からREADYFORを利用しているユーザーからの支援も見て取れる。

7)支援者コメントの頻出ワード

実際に寄付をしてくださった支援者のコメントから頻出ワードを分析したもの。「常設展(あるいは特別展)に〇〇な思い出があります」「微力ながら応援したい」などまっすぐな善意のメッセージが大多数を占めた。

今回のコンセプト「地球の宝を守る」「標本・資料を未来へ」に纏わるコメントも多く、掲げたメッセージが支援者にも響いていたことがわかる

また、この応援コメントや支援者アンケートの回答をもとに支援者層・支援動機の分析も行っており、それはCF終了後のファンドレイジング戦略立案に際し有用なヒントになっている。

8)今回支援者の過去の支援回数

今回のプロジェクトの支援者がREADYFOR他プロジェクトにも支援をしているか、調査したデータ。約20%の支援者が他プロジェクトにも支援しており、支援単価もかはくのみ支援者より若干高い。リピート支援者の支援プロジェクトは、文化や学術に関わるものが多かった

また、かはくをきっかけにREADYFORアカウントを開設した支援者のうち、その後別のプロジェクトに支援をした人は全体の2.9%。かはくが「寄付行動が広がる」ひとつのきっかけになっていた側面もある。

おわりに

【かはく】
本稿では「かはく史上最大の挑戦」と銘打って実施した、かはくにおけるCFの舞台裏と今後の計画を紹介した。

博物館の運営危機がきっかけとなった取組が社会現象とも言われるようになり、博物館の公助や共助のあり方についても大きな議論となった。

地球の宝を守り続けることに終わりはなく、コストは継続的にかかる。1回のCFでどれだけたくさんの支援があっても、それだけで博物館の未来が安泰になるわけではない。

当館の場合、予算の多くを国からの運営費交付金に頼っていることには変わりないが、今後の社会情勢の変化に対応する、あるいは2027年に控える創立150周年記念事業といった新規の取組を推進するために自己収入を充実させることは重要である。

かはくにはもともと友の会や賛助会がある。また、館内の募金箱の設置や、ウェブ募金の仕組みも取り入れている

クラウドファンディングの実務に携わった者の視点からは、限られた資金と人材を活用することで、博物館単独では難しくても新たに資金を得る方法が世の中にある、ということも強調したい。

今回の取組の中で、特にSNS上では、博物館独自で行う資金調達には手数料がかからず全てが博物館への寄付になるという意見も多く聞かれたが、相当有能な専門家を雇用しない限り、そう簡単に資金は集まるものではない。また、博物館が単独で資金調達を行ったとしても、そこには間接経費という形で必ずコストが生じている

今回のCFの結果は、仮説検証としては外れた点も多く、また、目標額達成のための支援メニューの組み立てや効果的な広報手段などは、当館単独で立案し実行することはほぼ不可能だった。

資金調達はCFに限らないが、CFは個人や小規模団体でも資金調達にチャレンジできる仕組みとして社会に浸透しつつある。資金調達の一つの選択肢として検討する際に、当館の取り組み過程が参考になれば幸いである。

【READYFOR】
今回のCFは、READYFORとしても史上最大の挑戦となったが、その伴走支援の中で特に大切にしてきたことが二つある。一つは、CFを資金調達の手段だけでなくパブリックリレーションズの一環として捉えるということ。

サイトに掲載する文章や返礼のラインナップ、広報施策など、すべてに「地球の宝を守れ」というコンセプトを串刺すことを意識した。結果として、CFはかはくの知られざる活動内容やその意義を広く社会に伝えるための絶好の機会となった(かはく公式SNSのフォロワーも、期間中だけで2割近く増えた)。

もう一つは、CFの成果を今後のファンドレイジングにどう生かしていくか、という視点を欠かさないこと。

かはくとREADYFORとの間では、終了後も毎週定例ミーティングを行い、この成果をどう次なる展開に結びつけるかを議論してきた。数ヶ月にわたる議論を経て、新たな施策のひとつとして、2024年4月1日に「マンスリーサポーター」制度を開設した。

READYFORのプラットフォームを使いながらも、CFのような単発的な支援ではなく、継続的なファンを増やしていく取り組みである。

こちらは、従来の賛助会と異なり、頻繁に来館はできないがかはくを応援したいという層に向けて、オンラインで楽しめるコンテンツを返礼のラインナップに揃えている。郵送費や職員の稼働を極力少なくしながら、面白くて有意義なものを提供することを目指している。

当然ながら、一度のCFで館の財務的な課題がすべて解決することはない。ただ、だからといってCFは単発の企画でしか活用できないものではなく、今回のように「運営費そのもの」を資金使途に掲げ、これを起点に長期的な寄付集め・仲間集めを模索していくこともできる。

我々も引き続き、そんなかはくの挑戦「第二章」に伴走したい。